正月だ。快晴だ。
港は大きな船が三艘岸壁に停泊している。思い思いの大小の大漁旗が揚がっている。
港では漁業事業者によるお正月の「蜜柑投げ」が始まる。
観衆は約300人、やがて夫々の舟が順番に「蜜柑投げ」を始める。
背伸びして飛んでくる蜜柑を掴む人、大きな網を頭上高く上げ取ろうとする人、子供を肩車している人、コートの前を大きく広げ右に左に動いている人達が歓声を上げている。
この蜜柑投げは昭和の初め頃から始まったしきたりだと言う。
今年の豊魚と海上の安全を願い竜宮様に奉納した蜜柑を投げる行事らしい。
やがて「蜜柑投げ」は港から浜に移り、浜に引き上げられている比較的小さな舟が順番に「蜜柑投げ」をする。観衆はその都度移動する。
浜小屋では新年の挨拶と酒盛りが始まっている。どこも笑顔が弾けている。晴れ着を着ている人は殆どいない。この風景と大漁旗は外国人にも珍しいらしくカメラを向ける人達も見える。
大漁旗は新しく造船した時、子供が生まれた時などに仲間達から戴くとか、船主にとって特別なお目出度い時に作ったらしい。
しかし漁師達は言う。魚は獲れなくなった、海は変わった、と。
この港も、以前は100艘ほど有りもっと賑やかだったらしい。今は約20艘。
若者も少なくなった。
幼い頃経験したこれに似た風景や雰囲気を思い出す。