酒が美味い季節になった。
肴は自分が釣った魚を自分で捌き、自分の好みの食べ方でイッパイやるのが良い。しかし、この時は酒の相手が欲しくなる。釣り上げた魚の自慢話でもしたくなる。
やはり酒が美味いと感じるのは、プロが料理した肴が杯の隣にある時だ。場所は夜の看板が立ち並ぶ路地の小料理屋だ。
カウンターだけの店で、一人で椅子に座ると、客の顔を見るだけで、何も聞かず好みの素材を、今日の体調に合わせて調理してくれる板前が居て、傍らには真っ白い割烹着を来た女将が居る。話題は旬の魚や野菜に関する事だけ。このひと時は、現在の自分にとっては医師にも勝る存在だ。
今が旬の“カワハギの肝和え”を口にしながら、静かに杯を運ぶ。
刺身の薄作りに肝のコッテリとした甘さが絡み、口中に静かに広がってゆく。その例え様の無い独特の甘さが次の酒を呼ぶ。
お銚子が三本目ぐらいになった頃、「恋とお酒は薄めてはダメよ」って、どこからか聞こえてきそうな錯覚を覚えながら、又杯を傾ける。
男はいくつになっても夢を見る。
量的にはいくらも飲めませんが、この気分は最高ですね。
薄暗い灯りのなかでなんか過去を引きずっているような無口の板前を前にチビリチビリと酒を飲む。高倉健の居酒屋兆治を思い出しました。八代亜紀の舟歌なん流れているともっと良い。
どうも最近は自分の中から演歌っぽい味が抜けてきているような気がします。日本全体がそうなのかもしれません。流されていますね。