海側生活

「今さら」ではなく「今から」

人肌の酒

2011年12月21日 | 季節は巡る

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人肌の酒が恋しくなる。

陽が伊豆半島に落ち始める頃、相模湾全体の海が橙色に輝く。遠く天城山辺りに半分も沈むと、目に入るもの全てが茜色に染まる。途端に気温も下がり、エアコンのリモコンに思わず手が伸びる年の瀬、ふっと人肌の酒が欲しくなる。寒さに弱い体質がそんな気にさせるのか、酒を飲みたいと言うよりも人を恋しくなる。遠ざかった思い出話を誰かとしたくなる。

机の上に置いたままにしていた一通の案内状を手に取った。
阿久 悠さんの小説でタイトルは忘れたが、その一部のような、まるで演歌を地で行く内容の閉店挨拶状だ。
 

わずか一年余りのお付き合いでしたが、
バー「愛子」は年内で締めさせて頂きます。

酔いどれて申し訳ありません。
しなだれかかってご迷惑を掛けました。
はしゃぎ過ぎてお疲れになったでしょう。
泣いて泣いて済みませんでした。
 
たとえ短い月日でも、一杯二杯の水割りを中にして、
その日、その時の人の姿を見せてくださったことを感謝します。

有難うございました

彼女はこれから何をするのか、どこに帰るのかは何も言わなかったし、自分も聞かなかった。

古いビルの二階の店から外に出ると空気が冷たい。思わずブルゾンのジッパーを引き上げた。

路地を歩き始めたら、どこからか♪♪人生いろいろーー女だっていろいろ 咲き乱れるの-- ♪♪と、聞こえたような気がした。


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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
        店じまい多く語らず温め酒 (宮本靖夫)
2011-12-21 16:56:14
        店じまい多く語らず温め酒
寂しい話ですね。どんな事情かは分かりませんが、発展的な閉店ではないでしょうね。何年かの彼女の人生がそこにはあったのでしょう。ここで終わるところがいいですね。泣きたいけれどじっと耐える。分かっていても何も言わない。変に身の上話を聞いたり、励ましもしない。
黙って古びた階段を下りて、北風の冷たい路地をズボンのポケットに手を入れて背中を丸めて帰っていく。
ヒャー、正に演歌ですね。
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