海側生活

「今さら」ではなく「今から」

艶やかな髪

2018年04月16日 | 鎌倉散策

           (海蔵寺/鎌倉)
鎌倉女子大学の事務局に行った。
往復はがきで申し込みをすることになっているが、他の用のついでに直接窓口に初めて足を運んだ。来月から今年も始まる『吾妻鏡』の受講申し込みだ。もう七年目になる。

事務局内の部屋は静かだ。受付カウンターで用向きを伝えると若い女性が対応してくれた。物静かで丁寧な対応だ。年のころは三十七、八の人だった。黒い艶やかな髪が目を引いた。髪に目がいったのは前髪に桜の蕊(しべ)が付いていたからだ。花が散ってしまった桜の枝には無数の蕊がガクに付いている。やがて蕊も散ってしまう。桜の木の下を通る時など、蕊が肩や頭に降って来ることを感じることもある。
艶やか髪に紅の桜の蕊が付いた中年の女性というのは、なかなか風情がある。そこはかとない色気が漂っていていた。自分の話も途絶えがちになる。だから髪に蕊が付いていることは彼女には告げなかった。
申し込み手続きは五分も掛からずに終わったが、足を運んだ甲斐があったと気分も良くなった。

彼女はネックレスもイヤリングも付けていなかった。口調もそして服装も気持ちが良いほどスッキリとビジネスライクだったことに外に出て暫くして気が付いた。ただ一つ、桜の蕊が彼女の女らしさを自ずと表していた。雰囲気からしてお洒落な人だと感じたけど、意識して桜の蕊を髪に散らしたわけではないだろう。それは天の恵のようなものだったに違いない。そういえば彼女は左手の薬指に指輪をしていた。

それから一週間ほどたった土曜日の昼下がり、海蔵寺で満開の山吹と石楠花を写真に撮り終え、小町通りを駅に向かっていたら、偶然に彼女を見かけた。中学生らしい小柄な娘と一緒に何やら楽し気に会話をしている。「ママは---」という母親似の娘の弾んだ声が聞こえてきた。