海側生活

「今さら」ではなく「今から」

包み込まれて

2012年09月03日 | 海側生活

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                                      (8月31日の満月/ベランダより)

これまで節目の時、幾度となくこの曲を聴き自分に向き合って来た。ベートヴェンの「幻想曲風ソナタ」・通称「月光」を。

夜半シャワーを浴び、ベランダに椅子を持ち出した。満月が明る過ぎて他の星は見えない。ヴォリュームを大きく上げ、聞き慣れた「月光」に聞き入る。

いつ聞いても、どこで聞いても、何度聞いても甘く切なく夢を見るような、そして孤独感を感じる第一楽章。やがて静かな立ち上がりから、第二楽章から第三楽章へ向かって徐々に熱気、緊迫感を帯びていく、まるで人間の全ての感情が表現されている。

記憶によるとベートーヴェンが30歳の時の作品。弟子で恋人でもあったイタリアの伯爵令嬢ジュリエッタに捧げるために作曲した。聴覚はこの頃、不調が始まり、17歳のジュリエッタに苦しんだのは年齢差よりも身分の差であったという。
そして失恋!

満月は裏山の岬を過ぎ、海面上に現れた。
やがて南天に上った頃、青く輝く満月は、海面に一条の帯を映し、自分に真っ直ぐ向かって来る。
月明かりだけの暗い海面の細波が小さな煌となり、その煌きの一つ一つが自分のこれまでの思い出を表し、それを遠い過去から現在の自分の手元に静かに運んで来ているように思える。
静かに打ち寄せる波にリズムを合わせているかのように、月光と波の煌きがココロにもグイグイと差し込んでくる。

目を細めないと直視できない輝きのギラギラの日光も頼もしいが、月光は日光にはない優しさで自分を、そして全体をも包み込む。

人は何かを失うか、又は失いかけている時にこそ、そのものの尊さを、なおさら身に沁みて知るのかも知れない。

それにしても満月は青かった。