OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

スティーヴィー・ワンダーの完成美

2010-05-21 16:48:48 | Soul

Innervisons / Stevie Wonder (Tamla)

あまりにも有名なスティーヴィー・ワンダーの代表作で、1973年度のグラミー賞では「最優秀アルバム賞」まで獲得した名盤ですから、その内容の充実は今更述べるまでもないと思います。

 A-1 Too High
 A-2 Visions
 A-3 Living For The City / 汚れた街
 A-4 Golden Lady
 B-1 Higher Ground
 B-2 Jesus Children Of Ameria
 B-3 All In Love Is Fair
 B-4 Don't You Worry 'Bout A Thing / くよくよするなよ
 B-5 He's Misstra Know-It-All

しかし天の邪鬼なサイケおやじは、発売された直後にゲットし、聴きまくっていながら、その出来過ぎた素晴らしさと歌詞の辛辣さ、さらに周囲の大絶賛にある種の辟易した気分を感じていました。

ですから翌年になっての次作アルバム「ファースト・フィナーレ」が出て以降は、意識的に遠ざかっていた時期もあったんですが、折しも我国ではその間にニューミュージックなんていう日本語ロックとお洒落なフォークがミックスされた歌謡曲の新しい形態がブームとなり、このアルバムからのアイディア流用が夥しく散見されるようになると、またまた本家が聴きたくなるという、正逆の天の邪鬼がサイケおやじの悪い癖です。

まず冒頭、重いビートと不穏なスキャットに導かれて歌い出される「Too High」の印象の強さは圧倒的で、実に新主流派のドラムスやせつさなが滲むハーモニカはスティーヴィー・ワンダーがオーバーダビングで作り出した独り舞台なんですが、何の違和感もありません。というか、おそらくは悪いクスリに頼った刹那的な快楽主義を痛切に否定する歌詞の内容を知ってしまえば、尚更に歌と演奏の濃密さに圧倒されてしまうのです。

ちなみにアルバムは見開きジャケットで、その中面には歌詞が掲載されているのも、世界中の人に自分のメッセージをダイレクトに伝えたいというスティーヴィー・ワンダーの意図なんでしょうねぇ。もちろん収録全曲が本人のオリジナルですし、既に述べたように、各種キーボードはもちろんの事、ドラムスやハーモニカを自在に演じ、まさに思うがままに作られたがゆえの傑作だと思います。

そしてギターやベースの助っ人も適材適所に配された中にあっては、続く2曲目「Visions」のイントロからグッとメロウな情感を滲ませるデヴィッド・T・ウォーカーのギターが良い感じ♪♪~♪ さらにウッドベースやアコースティックギターも上手い使い方ですから、スティーヴィー・ワンダーの神妙な歌唱もイヤミになっていません。

実はこのアルバムもまた恒例というか、アナログ盤LP片面毎に収録されたトラックの曲間は無いに等しく、それゆえに計算されつくした美しき流れがありますから、まずはここが最初の桃源郷♪♪~♪ 本当に酔わされますねぇ~♪

そしてとても黙っちゃいられないという都市生活の辛酸を熱く歌った「汚れた街」では、ストリートのざわめきや猥雑なコーラスと多重層シンセで作り出したクールなファンクビートを完全融合させるという荒業が見事に成功し、虚無的なピアノで始まる「Golden Lady」へと繋がる流れは本当に快感♪♪~♪

また、その「Golden Lady」にたっぷり詰め込まれているニューミュージックの元ネタ探しも、今となっては楽しい限りでしょうねぇ~♪ 思わずニヤリとさせれる瞬間が山のようにあるんですよ。もちろん白人AORに与えた影響も計り知れないと思うばかりです。

さらにB面が、これまた凄いんですよ。

思わずボリュームを上げて大音量で聴きたくなる「Higher Ground」は、シンセファンクの決定打でありながら、決して無機質ではない熱血が共感を呼ぶと思いますし、歌われている内容が、人の世の刹那と前向きな希望であればこそです。

それはキリスト教が主流ではない日本人には、ちょいと大袈裟な歌かもしれない「Jesus Children Of Ameria」であっても、こみあげてくる思いを媚薬的なコード進行で表現していくスティーヴィー・ワンダーならではの「節」とゴスペルライクな自然体のコーラス、ファンクなビートとリズムがそこにありますから、もう素直に熱くさせられる他はありません。

あぁ、聴くほどにグッと魂が高揚してきますっ!

ですから邦題がズバリ、「恋」と題された素直すぎるラヴソング「All In Love Is Fair」が、例え歌詞に哲学的な描写があろうとも、せつせつと心に響いてくるのでしょう。

いゃ~、本当に曲の流れが抜群のアルバムだと思いますねぇ~♪

そしていよいよ始まるのが、皆が大好きな「くよくよするなよ」で、ご存じ、ラテンリズムが硬質なピアノリフとジャストミートの享楽を生み出し、歌と演奏が進むにつれて実にリラックスしたグルーヴを発散させていきますから、スティーヴィー・ワンダー自身も楽しんでいるかのような歌いっぷりが♪♪~♪

ちなみにこの曲は、当時からクロスオーバー&フュージョン派のジャズプレイヤーに演奏されることも多く、いろんな名演が残されていますが、アルバム全体に隠しようもないジャズっほさが特に顕著に表れた1曲かもしれません。

その意味でオーラスの「He's Misstra Know-It-All」は正統派ポップスと呼んでも違和感の無い名曲名唱で、スティーヴィー・ワンダーが常日頃から堂々とやってしまうビートルズっぽさ、とりわけポール・マッカートニー風味が強く出ていますから、ついついニンマリしてしまうのです。

ということで、捨て曲無しの名作に違いはないのですが、率直に言えば、今となっては前作「トーキング・プック」に比べて、妙に刺戟が少ないと感じられるかもしれません。

しかしそれは、この「インナーヴィジョンズ」で表現されたサウンドやメロディが、現代では馴染み過ぎるほどに当たり前となった証じゃないでしょうか。所謂ニューソウルの代表作としての存在感以上に、世界標準となった人類遺産かもしれないのです。

まあ、こんな感慨は常に大袈裟なサイケおやじだけの思い込みでしょうが、それにしても歌詞の内容の普遍性は強烈で、これはぜひとも聴くなり、あるいはジャケットに掲載されたものを読むなりして、じっくりと味わってほしいところです。

ちなみに当然ながら全篇のサウンド作りとプロデュースは、これ以前の「心の詩」から続くもので、シンセサイザーの多角的な使用にはマルコム・セシルとロバート・マーゴレフという強力な参謀がついているのは有名ですが、それが無機的になっていないのは、スティーヴィー・ワンダーが自ら叩くドラムスのカッコ良さがあればこそじゃないでしょうか。本当にファンクでジャジー、ロックビートを巧み取り込んだリズムのキメは、独自の音楽性と完全に融合し、ここにスティーヴィー・ワンダーのひとつの到達点が示されているように思います。

そのあたりがサイケおやじを天の邪鬼な気分にさせてしまうポイントなんですが、つまり美し過ぎる美女を前にした弱気の男という、実に卑屈な自分を感じてしまうのでした。

好きな音楽を愛するって、案外と苦しいもんですねぇ……。

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マイルス&トレーンのマンネリと過激

2010-05-20 17:04:39 | Miles Davis

The 1960 German Concerts / Miles Davis With John Coltrane
                                                                   
 (Jazz Lips = CD)

最近少しずつジャズモード再突入にスピードがついておりますが、それをSJ誌の休刊やハンク・ジョーンズの死がきっかけだったなんていうことには、絶対したくありません。単なるサイケおやじの気まぐれにすぎないのです。

そこで本日ご紹介は、ちょいと前にゲットしていたマイルス・デイビスの発掘ライプCDで、裏スリーブには「All Tracks Previously Unissued!」と記載されているとおり、少なくとも私は初めて聴いた音源でした。

しかも収められている中身がマイルス・デイビス(tp) 以下、ジョン・コルトーン(ts)、ウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds) という、ジャズ者なら絶対に外せない時期のクインテットが1960年に敢行したドイツ巡業からのライプなんですから、聴かずに死ねるか!?!

1960年4月3日、ミュンヘンでのライプ
 01 So What
 02 'Round Midnight
 03 Walkin'
(imcomplete)
 04 So What (alternate)
 まず、気になる音質ですが、これが良好♪♪~♪
 しかもリアルステレオミックスなんですよねぇ!! とにかく盛大な拍手に迎えられて始まる「So What」が、真ん中にジミー・コブのクールで熱いドラムス、そして左にマイルス・デイビス、右のジョン・コルトレーンという2管が揃い踏みするテーマのカッコ良さは本当に痛快ですよ。
 ただしウイントン・ケリーのピアノが引っ込んでいるのが残念至極ですし、ポール・チェンバースのペースも再生時に低音を強調しないと、辛いものがあるかもしれません。
 肝心の演奏は、もちろん快調そのもので、マイルス・デイビスは十八番のフレーズしか吹かない潔さが安心感に繋がっていますし、このリズム隊ならではのビシッとメリハリの効いたグルーヴは、何時聴いても唯一無二の素晴らしさでしょう。
 しかしジョン・コルトレーンだけは別世界というか、いきなり初っ端の「So What」からアグレッシヴというには、あまりにも過激なノリと異次元フレーズの連発で、実に意地悪なアドリブ構成に終始しています。いや、「構成」なんていう整ったものではないでしょうねぇ。もはや「地獄」と呼んでも異論の出ないところだと思います。
 そしてそれを必死で現世に繋ぎとめようとするリズム隊の奮闘も虚しいばかりというか、マイルス・デイビスのバックでは最高にキマっていたジミー・コブのドラミングが置き去りにされる瞬間が、何度も現れては消えるのですから!?! もうリズム隊だけのパートになると、ヤケッパチ気味なのが最高に面白いです。
 ちなみにここでは最初、右チャンネルに定位していたジョン・コルトレーンのテナーサックスが、アドリブに突入するや、真ん中に移動してくるミックスも良い感じ♪♪~♪
 そして続く「'Round Midnight」が、これまた危険極まりないとでも申しましょうか、最初は例によってマイスル・デイビスのミュートがスリルとサスペンスをミステリアスに歌いあげ、あの過激なブリッジリフを導くのですが、それ以降のジョン・コルトレーンの独り舞台が、もしかしたら怒り心頭かもしれません。なにしろ最初こそ、親分が作ってくれた雰囲気を大切にしているようなんですが、すぐにジコチュウな世界に耽溺するかのような過激節の連発に移行したくて、そのウズウズしている様子が、当時としては最新のテクニックだったであろうハーモニクス吹奏の頻繁な使用に現れているように思います。
 さらに次の「Walkin'」では、そのあたりの思惑が交錯しているんでしょうか、マイルス・デイビスの先発アドリブは毎度お馴染みのパターンを踏襲する、実に心地良いマンネリに満ちていますが、ケリー、チェンバース&コブという所謂黄金のリズム隊に安心して身を任せている感じが結果オーライでしょうねぇ~♪ 中盤からは相当に思いきった過激さを聞かせてくれますよ。
 ところがジョン・コルトレーンは本当に我儘で、せっかく盛り上がったところに水を差すかのような肩すかしから、それを逆手に活かしたかのような暴虐のアドリブを展開していくのですから、当日の観客のほとんどは呆気にとられていたんじゃないでしょうか。
 実際、途中からは完全に後の「Chasin' The Trane」が予行演習されていますよ。
 あぁ、シーツ・オブ・サウンド、恐るべし!
 ビートもリズムも無視した瞬間から、ハッと我に返ってバックに合わせていく、まさにこの時期ならではジョン・コルトレーンが堪能出来ますよ。当然、観客も最後には大歓声です。
 ただし残念なことに、続くウイントン・ケリーのアドリブの途中でフェイドアウト……。演奏がコンプリートで無いことが実に惜しまれます。
 それとこれも同日に演奏されたという、ふたつめの「So What」なんですが、おそらく当時の巡業形態は幾つかのバンドがひとつの会場に出演するという、所謂パッケージショウだったと思われますから、昼夜2回のステージがあったのでしょう。付属の解説書にも、そのように記載してありますが、どっちがどっちのショウからの音源というのは、特定されていないようです。
 もちろん別テイクも音質は良好なリアルステレオで、今度はマイルス・デイビスが右チャンネル、ジョン・コルトレーンが左から真ん中へと激しく移動するミックスが何とも言えませんし、後半のウイントン・ケリーのパートになると、リズム隊全部が左チャンネルに纏められ、ちょいと勿体無い感じなんですが、当然ながら演奏は充実の極みです。
 この日の録音で全体的に良いのは、ジミー・コブのテキパキとしたドラミングが迫力満点に楽しめることも、魅力のひとつだと思います。

1960年3月30日、フランクフルトでのライプ
 05 All Of You
(imcomplete)
 06 So What
 こちらは客席からの隠密録音、もしくはラジオからのエアチェックようで、残念ながら音質がガクッと落ちるモノラルミックスです。
 しかし耳が慣れてくると各楽器のバランスはきちんとしていますから、ジャズ者ならば、それなりに聴けてしまうと思います。
 もちろん演奏そのものは充実していますよ。
 まず「All Of You」はマイルス・デイビスが十八番の歌物ですから、得意のミュートでグッと抑えた感情表現を聞かせてくれるという、ファンが最もシビレる展開がニクイばかり♪♪~♪ 切り詰めた音選びで繰り広げられる、そのテーマ変奏の上手さは流石の一言ですし、リズム隊の絶妙の伴奏も素晴らしいですねぇ~♪
 そしてこちらでもジョン・コルトレーンが大ハッスル! 神妙なアドリブへの入り方とは逆転していく音符過多症候群によるスケール練習寸前の遣り口も、所々に原曲メロディの断片や自己流スタンダード解釈のミソをきっちり入れていますから、このあたりはサイケおやじの大好きな展開になっています。
 ただし残念ながら、ここでもその途中でフェイドアウトが実に勿体無いです。
 次に、このCDでは三回目の登場となる「So What」は、当然ながら快調至極の演奏で、特にマイルス・デイビスのアドリブは、もう即興とは言えないほどにマンネリ的な完成度が認められ、そこが実にたまりません♪♪~♪
 ですからジョン・コルトレーンも右倣えではないんでしょうが、これしかないのシーツ・オブ・サウンドで大爆発のアドリブを展開すれば、バックの黄金のリズム隊も負けじと刺戟的なビートを送り出し、快楽的に異常なテンションを高めていくのです。
 う~ん、いんぷれっしょんずぅぅぅぅ~~!
 しかもこのテイクではリズム隊がバランス良く聞こえる所為もありますが、4月3日の遣り口よりもグッと纏まりの良い展開が顕著で、それにしても僅か5日ばかりで、どうしてそんなに変貌するの!? という疑問を抱かずにはいられません。
 結局、それほど日進月歩していたのが、当時のジョン・コルトレーンの勢いだったんでしょうねぇ。
 演奏は終盤になって、いよいよウイントン・ケリーの浮かれたような悦楽のアドリブ、そして黄金のトリオならではのクールなハードバップが完全披露され、そのグルーヴの快適さも毎度の「お約束」ばっかりですが、やっぱり嬉しくなってしまいますよ。

ということで、まだまだこんな凄い音源があったのか!?!?!

という歓喜驚嘆と共に、演奏そのものの凄さは圧巻ですから、本当にその場の観客は幸せの極みだと羨ましくなります。

そして素直に、この音源に接した現実にも感謝しなければならないでしょうねぇ。

既に述べたように後半2曲の音質はイマイチなんですが、これだけの演奏が聴けるのであれば贅沢は禁物です。

やっぱり、ジャズは悪魔の音楽なんでしょうか、やめられませんねぇ♪♪~♪

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ハンク・ジョーンズ再発見のGJT

2010-05-19 17:03:37 | Jazz

The Great Jazz Trio At The Village Vanguard (East Wind)

スイング・ジョーナルの休刊に続き、ハンク・ジョーンズという偉大なジャズピアニストの訃報にも衝撃を受けました。なにしろ、つい最近まで来日公演もやっていましたからねぇ……。享年91歳という大往生ながら、やはりジャズの歴史を確実に作り上げてきたひとりとして、忘れられることはないと思います。

例えばチャーリー・パーカー晩年の名作セッションを収めたアルバム「ナウ・ザ・タイム (Verve)」、キャノンボール・アダレイとマイルス・デイビスの「枯葉」があまりにも有名な「サムシン・エルス (Blue Note)」、そのキャノンボール・アダレイのデビュー盤「プレゼンティング (Savoy)」等々は特別な人気盤になっていますが、個人的には地味ながらも素晴らしいジャズセンスが豊潤な味わい醸し出した「ヒアズ・ラプ (Argo)」や「ポギーとベス (Capitol)」、「ハンキー・パンキー (East Wind)」あたりのリーダー作も、棺桶に入れてもらいたいほど愛聴しています。

しかしそうした凄いキャリアの中にあって、一般的な存在感がグッと身近になったは、1977年に発売された本日ご紹介のライプ盤じゃないでしょうか。

なんといってもトリオを構成しているのは、当時既に大ベテランの域に入っていたハンク・ジョーンズ(p) に加え、ロン・カーター(b) にトニー・ウィリアムス(ds) というバリバリでしたからねぇ~。些か大袈裟なグループ名も強ち過大とは言えないものがあります。

録音は1977年2月19&20日、ニューヨークの名門ジャズクラブ「ヴィレッジ・バンガード」でのライプセッションを収めていますが、その制作に関わったのが日本のレコード会社だったというのが、リアルタイムで賛否両論でした。

と言うのも、このアルバムが出るにあたっては、現実のライプセッションのレポートがそれ以前にスイングジャーナルで大きく報じられ、日本のレコード会社によってライプレコーディングも行われたという記述があったからです。

しかも更に遡れば、実はこのトリオが結成されたのは1975年春、トニー・ウィリアムスの主導によって1週間だけ同クラブに出演したという記録があり、その夢のような出来事を再現するべく狙って作られたと思しきアルバムが、我国のイーストウインドレーベルから1976年に出た「アイム・オールド・ファッション」という、渡辺貞夫+グレート・ジャズ・トリオのアルバムだったのです。

ちなみに当時は説明不要のフュージョン全盛期! その最中に純正4ビートへ回帰した演奏が、トニー・ウィリアムスやロン・カーターという、それに染まりきっていたスタアプレイヤーによって行われたいう事実は決して軽いものではありませんでしたし、もちろんその年のニューポートジャズ祭では、ハービー・ハンコックやフレディ・ハバード、さらにウェイン・ショーターまでもが参集した「V.S.O.P.」が、後のジャズの歴史を塗り替えるが如き大反響を巻き起こしたのですから、グレート・ジャズ・トリオの存在は尚更に強いものがありました。

ただし前述の渡辺貞夫のアルバムにしても日本制作ですから、何故に本場アメリカのレコード会社は……??? という煮え切らない気分がジャズ者にはあったと思いますし、実際、サイケおやじもスイングジャーナルというジャズマスコミでは圧倒的な影響力とタイアップ企画ような部分には、面白くないものを感じていました。

まあ、今となっては当時のアメリカのレコード会社、特に大手はフュージョン制作ばかりを優先させ、優良な4ビート作品は欧州や日本のマイナーレーベルから発売されていた事実を忘れてはならないと思います。

それは現に前述した「V.S.O.P.」がCBSコロムビアから発売され、ベストセラーになったことから所謂新伝承派と呼ばれた若手の登場まで繋がる動きとなって、ある意味ではジャズの伝統芸能化になったなったわけですが、だからと言って、4ビートの素敵な魅力が受け継がれたことを否定は出来ないでしょう。

しかし、ここで楽しめるのは決して古いジャズではありません。

それを実証するのが低音域重視の音作りというか、同様の事は前述した渡辺貞夫の「アイム・オールド・ファッション」でも聴かれたんですが、トニー・ウィリアムスのド迫力のバスドラやロン・カーターのグイノリのウッドベースが凄いパワーで記録されています。

それゆえに大音量のジャズ喫茶では最高の魅力であったものが、逆にその強力な低音域が家庭用レコードプレイヤーでは針飛び現象を誘発!?! それほど当時のアナログLPという基本媒体ではギリギリの音が詰め込まれていたのです。

そしてその中にあっても、全くマイペースを崩さないハンク・ジョーンズの潔さが、このレコードの人気のポイントでありました。

A-1 Moose The Mooche
 ご存じ、チャーリー・パーカーがオリジナルのビバップ聖典曲ですから、ハンク・ジョーンズにとっては手慣れた演目でしょうし、またロン&トニーにとっては、それゆえの緊張感が良い方向へ作用した演奏だと思います。
 トニー・ウイリアムスのシンプルなドラミングに導かれたテーマ部分から早いテンポで繰り広げられるモダンジャズの典型的なピアノトリオ演奏は、しかし終始煩いとしかサイケおやじには言えないトニー・ウィリアムスの存在によって、ちょいと引っ込み気味の録音になっているハンク・ジョーンズのピアノに気持が集中出来るのです。
 それは恐らく「I Got Rhythm」のコード進行に基づく曲メロのフェイクや再構築から生み出される歌心満点のアドリブフレーズを優雅なタッチで披露するという、まさに匠の技♪♪~♪ ロン・カーターの些か音程の怪しいベースワークが気になるものの、それでも因数分解になっていないのは流石だと思います。
 演奏は後半、お待ちかねのトニー・ウィリアムスのドラムソロ! スネアとシンバル、タムとハイハットの使い方はマイルス・デイビスのバンドで新主流派の4ビートを叩いていた頃と基本的には変わらないんでしょうが、それにしても品性の感じられないバスドラが、ねぇ……。このあたりはリアルタイムから激論飛び交う賛否と好き嫌いがありました。
 ただしドカドカ襲いかかってくるそのバスドラやガチガチのハイハットが、既に述べたような低音域重視の録音&ミックスによって、それなりの快感に繋がっているのは間違いないでしょうね。

A-2 Maima
 前曲の怒濤のような演奏に続き、このジョン・コルトレーンのオリジナルの中では最も人気の高いひとつであろう、実に静謐なパラードが始まるという流れの良さ♪♪~♪ ハンク・ジョーンズのピアノからは、ひとつも無駄な音が出ていないと感銘を受けるほど、そのジャズセンスは卓越していると思います。
 これにはロン・カーターもトニー・ウィリアムスも、本当に神妙にならざるをえないという雰囲気で、全体にはボサノバっぽいビートも含まれているようですが、幻想的でありながらテンションが緩まない展開は徹頭徹尾、ハンク・ジョーンズの素晴らしい歌心に支えられているようです。
 しかも相当に新しいアプローチもやっているんじゃないでしょうか?
 失礼ながらハービー・ハンコックには、これが出来ますかねぇ?
 そんな不遜なことまで思ってしまう11分41秒です。

B-1 Favors
 有名な作編曲家のクラウス・オーガーマンが書いた美メロの雰囲気曲で、ハンク・ジョーンズは前述したリーダーアルバム「ハンキー・パンキー」において既に録音していましたから、ここでのライプバージョンは尚更に興味深いところです。
 で、結論から言えば、かなりモードっぽい仕上がりになっているんですが、快適なビートを提供するロン・カーター、ちょっと意地悪なトニー・ウィリアムスというリズム隊の強い存在ゆえに、ハンク・ジョーンズも油断は出来ません。というよりも、それを百も承知でジコチュウにスイングしていくところから生み出される知的な浮遊感には、完全に虜になりますよ♪♪~♪
 ハンク・ジョーンズといえば一般的にはモダンスイングからビバップ系の古いタイプという先入観もあろうかと思いますが、実際にはここで聴かれるように、とても汎用性の高いスタイルは唯一無二だと思います。

B-2 12+12
 ロン・カーターが作った、あまり「らしくない」ブルースですが、そういうある種の「はぐらかし」を堂々と正統派モダンジャズへ導いていくハンク・ジョーンズの余裕は流石!
 ですから作者のロン・カーターにしても安心して身を任せられるような、これはむしろ逆だと思うんですが、なかなか安逸のウォーキングベースが気持良いですし、アドリブソロにしても、後年までトレードマークになるようなフレーズがテンコ盛り♪♪~♪
 ちなみに電気アタッチメントを付けたと思しきウッドベースの音は、1970年代ジャズの典型として、これまた好き嫌いが当時からありましたが、何故かこのイーストウインド特有の音作りでは個人的に気になりません。トニー・ウィリアムスのエグイ存在感からすれば、むしろこれで正解ということなのかもしれませんね。

ということで、全4曲の密度は濃すぎるほどですが、実は告白しておくと、リアルタイムでは決して好きなアルバムではなく、しかもジャズ喫茶に行くと毎度のように聴かされていたヒット盤でしたから、逆に反感を抱いていたほどです。

そこには既に述べたように売れセン狙いとかタイアップがミエミエじゃないか? なんていう勘繰りも当然ありましたし、何よりもトニー・ウィリアムスの煩すぎるドラミングが???でした。

率直に言えば、例えばヴァン・ゲルダーに代表される「それまでのモダンジャズの音」とは決定的に異なるイーストウインドの録音に馴染めなかったという、実にオールドウェイブなサイケおやじの本質を自ら再認識していたのです。

しかし同時に何時かは大音量で鳴らせる環境を作り、このアルバムを思いっきり楽しみたいという希望的欲求もあり、売れまくっていた所為で、1980年代に入ると中古屋にゴロゴロしていた中のひとつから、盤質の良いブツを格安でゲットしたにすぎません。

それでも私は決してハンク・ジョーンズが嫌いになったわけでは無く、このグレート・ジャズ・トリオがあればこそ、ますますその本物の実力に圧倒されました。

もちろん以降、続々と作られた同トリオ名義の作品は玉石混合を認めつつも、存分に楽しんだのです。と同時に、過去に遡っての名演も、全く違った観点で再鑑賞出来るようになりました。それは当たり前ですが、優れた才能の前にはジャンル分けなんて無意味だということです。

つまりハンク・ジョーンズはスイングもビバップも、さらに新主流派もフュージョンをも超越した唯一無二の存在であり、本来が何でもありのジャズという悪魔の音楽が煮詰まりかけていた1970年代中盤において、その根本をあらためてファンの前に提示してくれたんじゃないでしょうか。

ですから常に安心感とフレッシュな気分を併せ持った秀逸な演奏を聞かせてくれたのだと思います。

ということで、相変わらずしつっこい文章に終始した本日ではありますが、ジャズ喫茶に行って、このアルバムをリクエストしたいという思いも強くあります。

そして衷心より、ご冥福をお祈りするばかりです。

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さようなら、ありがとう

2010-05-18 16:45:59 | Jazz

昨日報じられたスイングジャーナルの休刊には、決して軽くない衝撃を受けました。

私は毎号買うような熱心な読者ではありませんでしたが、ジャズ喫茶へ行けば最新号は必ず読んでいましたし、本屋で立ち読みしては新譜やミュージャンの来日情報を得ていましたから、やはり寂しい気持を隠せません。

言うなれば自分にジャズのあれこれを教えてくれたのはジャズ喫茶とスイングジャーナルという、まさに聴きながら読む実践だったのです。

今回の措置は広告収入の減少とされていますが、売れなくなったことが大きいのでしょうね。

まあ、ネットがこれだけ日常的になれば、様々な情報が無料で入手出来ますから、なにもお金を払って評論家や諸先輩方の感想文を読むまでもなく、またそうしたお金はCDやチケット代に振り向けるのが一般的なファンの正直な気持だと思います。

それはサイケおやじとて例外ではなく、思えばスイングジャーナルを最後に買ったのは何時だったのか、それを確かめるべく本棚を探索して認められたのが、本日掲載の「1975年4月臨時増刊号 / ジャズ・ピアノ百科」でした。

ちなみに値段は千円なんですが、その中身の濃さは圧巻!

まず私のお目当てだったのが、「人気ジャズ・ピアニスト10人の完全ディスコグラフィー」という企画で、ソニー・クラーク、ケニー・ドリュー、ビル・エバンス、レッド・ガーランド、ハンプトン・ホーズ、ウイントン・ケリー、フィニアス・ニューボーン、オスカー・ピーターソン、バド・パウエル、マル・ウォルドロンの当時としては完全に近いレコードやセッションのデータが、モノクロですが、ジャケット写真と共に掲載されていたのですから、思わず食指が動きました。

実際、これを頼りにジャズ喫茶でリクエストし、蒐集したレコードがどっさりあります。

また有名ピアニストの簡単な履歴を物語風に綴った読み物の中には、楽譜付きの奏法解説や貴重な写真がテンコ盛りにあって、中でも秋吉敏子物語は目からウロコというか、モダンジャズ創成期の我国ばかりか、渡米して以降のお宝写真が凄いの一言でした。

それと既に幻のピアニストとなっていた守安祥太郎の伝説も、内田晃一氏の興味深い文章でリアルに感銘をうけましたですねぇ。

さらに当時の有名評論家の先生が様々なテーマでガチンコの対論を展開していたり、「ジャズピアノ最新用語辞典」とか「ジャズピアニスト最新バイオ / ディスコ」なんていう簡易特集も、それなりに詳しくて勉強になったのです。

気になるグラビアでは、巻頭に掲載された佐藤秀樹氏所有の「ジャズピアノ超幻の名盤」という特集が羨ましい限りでしたし、人気ピアニストのボートレイトやパド・パウエルのピンナップがオマケについているという、当時の雑誌のお約束がきっちりと守られています。もちろんそれを切り取るなんていう愚行は出来ないわけですが、そこにまた良さがあったんじゃないでしょうか。

まあ、それはそれとして、サイケおやじにとっては相当に熟読した座右の書♪♪~♪

ですから、かなり傷んでいるんですが、それも人生の積み重ねと思えば、決して大袈裟ではない感慨が沸き上がってくるのです。

ほとんど買っていなかった私のような者が言うのも気が引けますが、今回の休刊は本当に残念でありますし、ここにあらためて謝辞を述べる他はありません。

ありがとう、スイングジャーナル!

追伸:本日はハンク・ジョーンズ(p) の訃報に接し、またまた衝撃を受けました……。この偉人にもジャズを教えられましたですねぇ。衷心より、ご冥福をお祈り致します。合掌。

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ネッド・ドヒニー登場

2010-05-17 17:00:03 | Singer Song Writer

Ned Doheny (Asylum)

今ではAORの人気者となったネッド・ドヒニーの、これは1973年に発売されたデビューアルバムです。

 A-1 Fineline
 A-2 I Know Sorrow
 A-3 Trust Me
 A-4 On And On
 A-5 Lashambeaux
 B-1 I Can Dream
 B-2 Postcards From Hollywood / ハリウッドからの葉書
 B-3 Take Me Farawqy
 B-4 It Calls For You
 B-5 Standfast

結論から言うとリアルタイムでは全く売れなかったものの、業界や同業者からは好評を得ていたようですし、実際、我国でも同じ年に発売され、一部の評論家の先生が絶賛していましたから、若き日のサイケおやじも欲しかったアルバムのひとつでした。

しかし度々述べてきたように、小遣いの乏しさは致命的で、同じ頃に出たストーンズの「山羊の頭のスープ」やザ・バーズのリユニオンアルバムを買ってしまったため、しばらくは我慢の子……。

ちなみに当時はシンガーソングライターのブームが真っ盛りでしたから、ネッド・ドヒニーもジェームス・テイラーあたりの追従者として語られていたんですが、同時にイーグルスやアメリカといったウエストコーストロックやハリウッドポップスの味わいもあるらしいという洋楽マスコミからの情報により、ちょっとミステリアスな存在に私は思えていました。

で、実際に聴いてみると、これがなんとも新しいフィーリングというか、当時の感覚からすればフォークとR&B、さらにはウエストコーストロックの幸せな結婚という、実に素敵な歌と演奏ばかり♪♪~♪

とにかくいきなり歓喜悶絶させられたのがA面初っ端の「Finelin」で、それはアコースティックギターがメインでありながら、シンコペイトしたドラムスやソウルジャズっぽいエレキベースが如何にも印象的な、まさにサイケおやじ好みのファンキーロックがど真ん中! もちろんエレキギターの使い方は、しなやかなグルーヴを増幅させるという匠の技が憎めませんし、独得の抑えたウネリを全面に出した曲メロとネッド・ドヒニーの歌いっぷりが、本当にジャストミートしています。

ちなみに演奏メンバーはネッド・ドヒニー(vo,g) 以下、デヴィッド・パーラッタ(b)、ゲイリー・マラバー(ds,per,vib) をメインに、マイク・ユニティ(key) やグラハム・ナッシュ(vo)、そしてドン・メンザ(ts) 等々が部分的に参加するといった、クレジットだけでは地味なセッションと思われがちですが、それゆえにアットホームな雰囲気が横溢した充実度は最高♪♪~♪

もちろん収録の全曲がネッド・ドヒニーの自作自演によるオリジナルですから、本当に好きなように作ったんでしょうねぇ。そこはかとない哀しみとせつなさが滲む「I Know Sorrow」、やさしく繊細な「Trust Me」、シミジミモードが元祖AORの「ハリウッドからの葉書」、ジャジーでミステリアスな美メロが光る「Take Me Farawqy」、アコースティックギターの弾き語りによる「It Calls For You」等々は、ほんとうにお洒落な雰囲気も併せ持った名唱・名演で、何度聴いても飽きません。

一方、デイヴ・メイソンもやっている「On And On」、イーグルスも真っ青な「Lashambeaux」や「I Can Dream」における力強いロックの表現は、哀愁と爽やかさが両立したウエストコーストロックの典型とも言うべきスタイルですから、腑抜けたAORなんかお呼びじゃない!

それゆえにオーラスの「Standfast」が幾分ヘヴィなアプローチになろうとも、その基本には繊細な表現が失われていませんから、決して退屈することなくアルバム全篇を聴き通せるのです。

ご存じのようにネッド・ドヒニーは1976年に「ハード・キャンディ(Columbia)」というAORの大名盤を発表し、時代の寵児となっていますが、その栄光も長続きせず、なんと次作アルバムとして用意された音源が本国アメリカでは却下されるという異常事態……。それは我国独自で発売されたLP「プローン」となって聴くことが出来ますが、歌詞に幾分の自閉症気味のところはあるものの、音楽性そのものは全く素晴らしいのですから、完全に???の気分になるばかりです。

今では有名な事実ではありますが、ネッド・ドヒニーはビバリーヒルズの名門良家のおぼっちゃまで、所謂ボンボン育ちでありながら、それに縛られない自由な生き方をしていたようです。もちろんそこには経済的な裏付けがあってのことなんでしょうが、ある意味では我儘な完全主義者?

しかし作りだされた歌は珠玉の名品ばかりで、その数々は多くの歌手やミュージシャンにカパーされていますし、AORやウエストコーストロックのファンにとっても、ネッド・ドヒニーは常に気になる存在だと思います。

そしてこの最初のアルバムこそ、原点であり、中には最高傑作と評されることも少なくありません。

CD化されているか否かは確認しておりませんが、ぜひとも皆様には楽しんでいただきたい名盤だと思います。

まずはA面の「Fineline」と「I Know Sorrow」の二連発を聴いてくれっ!

ファンキー&美メロ好きなら、絶対にKOされるはずです。

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オールナイトで輝いて

2010-05-16 17:15:57 | Jazz

All Night Session, Vol. 1 / Hampton Hawes (Contemporay)

学生時代の私は映画ならオールナイト興業に通いつめていました。それはだいたいが過去の名作&人気作、あるいは有名監督や主演俳優の特集等々、とにかく後追い鑑賞には絶好の企画が毎週のように盛り場の映画館で行われていたんですが、もちろん深夜まで遊び、帰りの電車が無くなった者には時間潰しの避難所でもあり、また同性愛のパートナー探しの現場でもあり、当然ながら悪いクスリやカツアゲなんかの犯罪も横行するという、なかなかスリルとサスペンスに満ち溢れた社会勉強の場所でもありました。

ただし、そうした所には任侠団体からの所謂ハケンが、つまらない騒ぎが起こらないように働いていたんで、言うほど危険な劇場は無く、また青少年補導の警官や教育関係者も頻繁にタダ見しに来ていましたからねぇ。現実的には緊張感の中にも、なかなかリラックスした桃源郷でありました。

で、本日ご紹介のアルバムは久々のモロジャズがど真ん中という、ハードバップの人気盤!

タイトルどおり、ハンプトン・ホーズをリーダーとしたカルテットによる徹夜のブッ通し演奏を、その演奏された順序を崩さずに収録したという3枚のアナログ盤LPの第1集です。

録音は1956年11月12日、メンバーはハンプトン・ホーズ(p)、ジム・ホール(g)、レッド・ミッチェル(b)、プラッツ・フリーマン(ds) という白黒混成のカルテットゆえに、随所で味わい深いグルーヴが噴出した名演ばかり♪♪~♪

A-1 Jordu
 デューク・ジョンダンが書いたハードバップの大有名曲ですから、作者のオリジナルに強く滲む黒っぽい愁いが、このカルテットでは如何に表現されるのか? もう、聴く前からワクワクする他はないですねぇ~♪
 そして結果は、実に溌剌としたハードドライヴィングなモダンジャズ♪♪~♪
 リズムとビートの明快なノリは、本当にウエストコースト派の個性というか、レッド・ミッチェルの安定したスリルという、全て分かっている楽しみが全面に出たベースワーク! さらに歯切れの良さと黒人ならではの芯の強さを上手くミックスしたブラッツ・。フリーマンのブラシも冴えていますから、ハンプトン・ホーズも十八番の節回しを絶妙のファンキーさで味付けしたアドリブを完全披露♪♪~♪ それは幾分のミスもご愛嬌と許してしまうほど、気持の良いものです。
 また気になるジム・ホールは一般的なイメージの幻想的なコードワークよりも、むしろストレートなジャズギター本来の味わいを貫き通し、実は正直に告白すれば、このメンツならバーニー・ケッセルかハーブ・エリスの方が……、なんて最初は不遜なことも思っていたのですが、やはり白人スタイルの王道を行くジム・ホールの起用は、バンド全体の無暗なファンキーグルーヴを抑制し、さらにディープなモダンジャズ天国への最良のガイド役だったと思います。
 
A-2 Groovin' High
 ディジー・ガレスピー作曲によるビバップの聖典のひとつとあって、爽快なノリと厳しいアドリブの両立を求めるファンの願いが、ここでは見事に叶えられた大名演♪♪~♪
 もちろんその原動力はカルテットが一丸となった真摯なモダンジャス魂なんでしょうが、それにしてもハンプトン・ホーズの直球勝負の姿勢は実に潔いかぎりです。それはジム・ホールとて同様の気持だったんでしょう。妥協の無いアドリブを披露することによって自己の主張を貫く姿勢が素晴らしく、魔法なようなピッキングと正統派ジャズギターならではのバッキングの上手さは天下一品です。
 またレッド・ミッチェルのペースも、この人ならではの繊細さと豪胆なグルーヴを合わせ技にした凄さが全開していると思います。、

A-3 Takin' Care
 ハンプトン・ホーズのオリジナルブルースということで、少し早いテンポの中に作者自身のファンキーな衝動が見事に表現されているんですが、その中核になっているのがパド・パウエル直系のビバップスタイルというネタばらしが、たまりません。
 中盤で倍テンポを叩くブラッツ・フリーマンも流石の存在感で、ある意味では頑固さを崩さないジム・ホールやレッド・ミッチェルを上手く和みのグルーヴへと導いているんじゃないでしょうか。

B-1 Broadway
 これまたモダンジャズではお馴染みの軽快なリフ曲を、西海岸派が演じると尚更にスマートになるという見本が、この演奏です。
 とにかく無伴奏で素晴らしいイントロを弾いてしまうハンプトン・ホーズは、続くテーマの提示から流れるように突入していくアドリブでの爆発的なノリまで、首尾一貫してハードバップの神髄を聞かせてくれます。
 しかし他の3人は安易に妥協することなく、怖いコードワークで流石のバッキングを聞かせるジム・ホール、我が道を行くレッド・ミッチェルの確かなベースワーク、そして緊張と緩和のバランスが秀逸なプラッツ・フリーマンのブラシ! アップテンポでツッコミそうになるギリギリのバンドの勢いは、しかしスマートなスピード感となってウエストコーストジャズの硬派な一面を表しているんじゃないでしょうか。

B-2 Hampton's Pulpit
 オーラスは、これもハンプトン・ホーズがオリジナルのブルースで、その粘っこいピアノタッチとグルーヴィな表現ゆえに、泉の如く湧き出すファンキーフレーズの洪水も決して聴き疲れるなんてことはありません。
 むしろバックの3人が作り出す4ビートの安定性が、逆にイヤミなほどです。
 しかし、それこそがこの演奏を魅力的なものにしている秘密かもしれませんし、実際、ハンプトン・ホーズにしても生涯の名演のひとつが、これじゃないでしょうか? タイトなリズムの上で繰り広げられるタメとモタレの黒人感覚、そして分かり易くてゾクゾクしてくるファンキーな衝動! これがハードバップの醍醐味ですよねぇ~♪
 もちろんジム・ホールの小技が冴えるバッキングの妙、さらにアドリブパートで披露されるちょいと地味な世界は、続けてビル・エバンスが登場してきそうな錯覚が嬉しい限りですし、レッド・ミッチェルのベースが憎たらしいほどの落ち着きを漂わるのですから、ハンプトン・ホーズが尚更ムキになるのも当然なんでしょうか。終盤でのテンポチェンジが幾分上手くいっていないあたりや以降に続くオールナイトのセッションで、それが証明されていく布石としても、実に味わい深い演奏だと思います。

ということで、既に述べたように深夜のレコーディングセッションから、曲順を全く変えずに収録された演奏の流れは、なかなか自然なジャズ本来の楽しみに溢れています。

そして続く第2&3集を通して聴くことにより、当夜のミュージシャンの意気込みやノリの良し悪しが堪能出来る仕掛けなんでしょうねぇ。安易と言えば、全くそのとおりかもしれませんが、モダンジャズ全盛期の熱気までも封じ込めんとした企画としては、今日まで見事にリスナーの欲求に応えたものと思います。

なによりも緊張感の和みの両立が、最高に素敵ですよねぇ~♪

これがお気に入りとなれば、後は続く2&3集にも夢中になれること請け合いです。

個人的には最初に書いた映画のオールナイト興業に行く前、ジャズ喫茶で時間調正する時には意図的にリクエストしていたこともありました。

ちなみに当時の私はジャズ喫茶からオールナイトの映画館、そして始発電車で短い睡眠を貪った後、ハン工場でバイトという週末が、今では懐かしくも輝いていた日々なのでした。

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メリー・クレイトンの充実

2010-05-15 17:01:26 | Soul

Merry Clayton (Ode)

如何にもブラックスプロイテーションなジャケットも印象的ですが、これは私の大好きなメリー・クレイトンの公式には2作目のリーダーアルバムです。

発売されたのは1971年秋と言われていますが、当然ながら私は前作「Gimme Shelter」同様、後追いで聴きました。そしてこれまたシビレが止まらくなったのは至極当然! それはもちろん、前作同様のプロデュースと参加メンバーの的確なバックアップを得て、尚更に熱いエモーションを発散するメリー・クレイトンの見事な歌いっぷりがあればこそです。

また演目、その選曲の素晴らしさには、思わずニンマリ♪♪~♪

 A-1 Southern Man
 A-2 Walk On In
 A-3 After All This Time
 A-4 Love Me Or Let Me Be Lonely
 A-5 A Song For You
 A-6 Sho' Nuff
 B-1 Steamroller
 B-2 Same Old Story
 B-3 Light On The Hill
 B-4 Grandma's Hands
 B-5 Whatever

まずA面ド頭からして当時、日の出の勢いだったニール・ヤングの代表作! それをここまで堂々とエグ味を効かせながら歌ってしまうメリー・クレイントンには、いょ~、姐御っ! と思わず掛け声が飛ぶんじゃないでしょうか。

ちなみにこのトラックを含むアルバム全篇でグツグツに沸騰しているバックの演奏は、ビリー・プレストン(key,vo,arr)、ジョー・サンプル(key)、キャロル・キング(key,vo,arr)、ジェリー・ピータース(key,arr)、デヴィッド・T・ウォーカー(g)、ウェルトン・フェルダー(b)、ポール・ハンフリー(ds)、ゲイリー・コールマン(per)、ボビー・ポーター(per)、カーティス・アーミー(ts,fl) 等々、ハリウッドの芸能界やソウルジャズ系のセッションではお馴染みの面々ばかりですし、特にコーラスにはゴスペルコーラスの大物グループだったジェームス・クリーブランド聖歌隊が参加していますが、これはキャロル・キングの「つづれおり」人脈に加えて、メリー・クレイトンが長い下積みで培った繋がりも大きいのかもしれません。

ですからキャロル・キングが「Walk On In」「After All This Time」「Same Old Story」という書き下ろしの3曲を提供しているのは興味深々で、もちろんメリー・クレイトンも真摯で成熟した歌唱を聞かせくれますよ。

中でも「Walk On In」はキャロル・キング節が出まくった大名曲♪♪~♪ 穏やかに弾むグルーヴと好ましいメロディの旨味、そしてメリー・クレイントンのツボを押さえたフェイクがたまりません。また「After All This Time」は近年、作者自らのライプバージョンも発掘されているハートウォームな隠れ名曲なんですが、それをじっくりとソウルフルに歌ってしまうメリー・クレイトンの些かの力みが良い感じ♪♪~♪ 加えてデヴィッド・T・ウォーカーのギターも流石の上手さを披露しています。しかし「Same Old Story」は、あまり「らしく」ないゴスペル風の仕上がりが賛否両論でしょうか……。もしかしたらキャロル・キングというよりも、メリー・クレイトンが歌の力でここまで持って行ったのかもしれませんから、その意味では凄いと思いますし、デヴィッド・T・ウォーカーのギターやカーティス・アーミーのテナーサックスには思わず唸ってしまうでしょう。

そして、これもお目当てなのがカーペンターズやレオン・ラッセルでお馴染みの「A Song For You」だと思いますが、全く期待を裏切らない、痛烈にソウルフルな仕上がりなんですねぇ~♪ こちらが思っているとおりのピアノの響き、しぶといエレピの彩りも効果満点ですし、何よりもメリー・クレイトンの歌の力! これに尽きますねぇ。ですからソフトなテナーサックスのアドリブに導かれる後半でのゴスペル大会には、本当に熱くさせられますよ。

さらに雰囲気の良さが受け継がれるように始まる「Sho' Nuff」はビリー・プレストンから提供された、これまたゴスペルソウルのスワンプロック的な展開ではありますが、仕上がってみれば真っ黒なR&Bに他なりません。

ズバリ、熱いです!

それがB面ではジェームス・テイラーの自作自演をカバーしたブルースロック「Steamroller」で、ほとんど悪い冗談のような真っ向勝負!?! う~ん、こんなソウル&ブルースなことをやられたら、白人ブルースロッカーは失業確定でしょうねぇ。

しかし「Light On The Hill」や「Grandma's Hands」という正統派ゴスペルソングでの本気度の高さも圧倒的! スワンプやブルースロックに色目を使う必要もなく、無心に歌うメリー・クレイトンを支えるジェームス・クリーブランド聖歌隊のコーラスワークも潔く、特に後者は黒人シンガーソングライターのビル・ウィザースのオリジナルなんですが、ここではゴスペル風味が尚更に強いムードで、最高!

同じく邦題は「孤独の愛」としてポピュラーヒットになっていた「Love Me Or Let Me Be Lonely」にしても、グッと黒い感覚を前面に出し、しかも早すぎたニューソウルっぽい演奏パートのアレンジが秀逸だと思います。

そうした素晴らしい流れで迎えるオーラスの「Whatever」は、またまたサイケおやじを歓喜悶絶させた魂の歌! サイケデリックロックと伝統の黒人音楽を闇鍋にしたような力強いビートとメロディは、まさにニューソウルであり、現代で言うところのフリーソウルってやつなんでしょうが、なんと作者がレオン・ウェアと知って納得!

実はこのアルバムを入手したのは昭和49(1974)年の晩秋だったんですが、この年はクインシー・ジョーンズの人気盤「ボディ・ヒート」によってレオン・ウェアがジリジリと認識されていましたし、何よりもサイケおやじが夢中! そんな折に聴いた「Whatever」は、まさに自分のストライクゾーンへ剛速球だったんですねぇ~♪ もちろん1971年の時点で、レオン・ウェアが既に素晴らしかったという事実も衝撃でした。

ということで、とにかくメリー・クレイトンの歌唱が最高なのは言わずもがな、全篇を濃密に盛り上げている参加セッションミュージシャンの活躍も特筆されます。特にデヴィッド・T・ウォーカーはジャジーでソウルフル、そしてワウワウやサイケデリック風味の音使いも含めた汎用性の高いプレイを決定的に披露していますよ。またサックス奏者として有名なウェルトン・フェルダーのもうひとつの顔であるエレキベース奏者としての実力侮れず、随所でハッとさせられるフレーズとビートの生み出し方は要注意でしょう。同時にポール・ハンフリーのファンキードラミングとの相性の良さも楽しい限り♪♪~♪

しかしこれだけの充実作も、現実的には売れず……。

メリー・クレイトンは再びセッションシンガーへと戻り、以降はリーダー作も発表していますが、妙に時代に迎合したところが???

というのも、このアルバムも前作も、スワンプロックやニューソウルを強く意識していながら、実はそのどちらにも属さないという独立性が魅力なのです。特に本日の1枚は、ロックというよりも極めて強くソウル色が打ち出され、それでいてロック風味が消えていないというところから、後のAORにも影響を与えたんじゃないでしょうか。

ただしそんな甘っちょろいものを期待すると、メリー・クレイトンの姐さんボーカルにブッ飛ばされますよ。それほどに濃厚なグルーヴがぎっしり詰まっているのです。

CD化もされているようですから、スワンプやニューソウル周辺がお好みの皆様には、強くオススメ致します。

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小川知子のゆうべの秘密

2010-05-14 16:56:14 | 歌謡曲

ゆうべの秘密 / 小川知子 (東芝)


小川知子は昭和40年代後半から大活躍したことで歌手としてのイメージが強いのですが、もともとは女優から歌手へ転向したのが本当のところです。
 
それはまず子役として活動した後、昭和40年頃に東映に入社、時代劇の脇役としてその可憐な魅力を振り撒きました。特撮時代劇「怪竜大決戦(昭和41年・山内鉄也監督)」に出演したのも、その流れです。

もちろん私がリアルいタイムで観たこの物語はご存知、地雷也・大蛇丸・綱手姫の三竦みをアレンジした忍者物で、彼女はそのツナデを初々しい魅力で演じていましたが、特に見所としては、まず短パン姿が刺客と間違われて松方弘樹と格闘になり、乳の辺りをしっかり触れられて狼狽する場面♪♪~♪ 次に悪漢にレイプされそうになるあたりでしょうか。

尤も基本は子供向けとあって、今となっては刺激度の低いものです。

しかし同じ時代劇でも「大奥(秘)物語(昭和42年・中島貞男監督)」では、岸田今日子とのレズ♪♪~♪ さらに彼女が将軍の胤を宿したことから嫉妬され、流産に追い込まれるという、美しくも悲しい演技が認められ、続く「続・大奥(秘)物語(同)」では、弱冠18歳で主役に抜擢されるのですが……。

残念ながら、初主演作にしては演技が些か不完全燃焼気味だった思います。

そしてこの後、歌手へと転向し、昭和43年春に大ヒットさせたのが、本日ご紹介のシングル曲「ゆうべの秘密(作詞:タマイチコ / 作曲:中洲 朗)」というわけです。

もちろん、ここまでの経緯は後に知ったことですし、前述した大人向けの出演映画作品についても後追い鑑賞だったんですが、それにしても「ゆうべの秘密」をヒットさせ、テレビに登場した小川知子は、まさに若き日のサイケおやじの好みだったお姉さん系、そのものズバリ♪♪~♪

歌詞の中身の意味合いなんか完全に理解出来なくとも、そのエロキューションというか、素敵なファッションセンスとは裏腹の艶めかしさが、なんともたまりませんでしたねぇ~♪

そのあたりは女優出身ということで、ある意味ではプロの演技力があればこそだったのかもしれませんが、次々にカッ飛ばすヒット曲を披露する歌番組の他に、バラエティでも卓抜なコントを披露するなど、幅広い活動を展開していたのです。

その中では昭和49年だったと思いますが、今や伝説の「夜のヒット・スタジオ」事件があまりにも強い印象を残しています。それは私生活で恋人だったレーサーの福沢幸雄の事故死に関連して、生出演中に泣き崩れるという!?!

まあ、今となっては、所謂「やらせ」だったというのが定説になっていますが、リアルタイムでは芸能ニュース等々で大きく報じられた記憶が鮮明です。

ちなみに彼女の持ち歌は、この「ゆうべの秘密」に代表されるように、どちらかというと演歌~歌謡曲系でしたが、既に述べたように素晴らしいファッションセンスは同時代の女性歌手の中では、誰よりもポップで大変にお洒落な雰囲気でした。この感覚が昭和歌謡曲黄金時代の味わいだと思います。

ただし、このシングル盤のジャケ写は、いけません。なんかロンパリ寸前というか、ぶりっ子のやり損いというか……。どうか、リアルタイムでの彼女をご存じない皆様は、絶対に惑わされないことを望みます。

ということで、最近の小川知子は、某新興宗教団体の「顔」として活発な活動をされていた時期もありますし、そう言えば昭和59年にヒットした谷村新司とのデュエット曲「忘れていいの」では、歌っている最中に谷村新司が彼女の胸元に手を入れるという演出も、忘れ難いものがあります。

つまり歌と自らの存在があまりにも強いイメージを喚起する小川知子♪♪~♪

相当にアンタッチャブルな人なのかもしれませんが、忘れ難いです。

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ロニー画伯は上機嫌

2010-05-13 16:33:30 | Rolling Stones

Gimme Some Neck / Ron Wood (Columbia)

1970年代も最後の2~3年になると、なかなかサイケおやじ好みのロックの新譜が出なくなっていましたが、例外的に速攻で楽しんだのが、本日ご紹介の1枚でした。

主役のロン・ウッドは初期ジェフ・ベック・グループフェイセズでの活躍によりロックファンに認知され、1974年頃からは地道にリーダー盤も発表していたところから、このアルバムを出した1979年にはストーンズのメンバーとしてすっかり馴染んだ存在でした。

それは自らストーンズのファンと公言しているロン・ウッドならではというか、常にキース・リチャーズの顔を立てることを忘れませんし、本来がファジーなストーンズのライプ巡業では、例えばメンバー紹介を忘れたミック・ジャガーをフォローしたり、ビル・ワイマンの女癖の悪さを見て見ぬふりをする以外にも、チャーリー・ワッツが悪いクスリに溺れていた時期にはストーンズの結束が緩まないように、何かと世話に奔走していたと言われています。

つまりロン・ウッドは、そのキャリアからしても相当の苦労人ですし、歴代ストーンズのメンバーの中ではダントツの常識人だと思いますよ。何故かといえば、怖い面々揃いのストーンズの中で今日まで過ごしているという、その我慢強さはある種のロック魂!?!

ですから、このアルバムがストーンズに入ってから初めてのリーダー作というポイントを鑑みても、実に痛快なR&R志向が強いのも納得する他はありません。

 A-1 Worry No More
 A-2 Breakin' My Heart
 A-3 Delia
 A-4 Buried Alive
 A-5 Come To Realise
 A-6 Infekshun
 B-1 Seven Days
 B-2 We All Get Old
 B-3 F.U.C, Her
 B-4 Lost And Lonely
 B-5 Don't Worry

ロン・ウッド(vo,g,b,etc) 以下、制作セッションに参加したメンバーはチャーリー・ワッツ(ds)、ポップス・ポップウェル(b)、ジェリー・ウィリアムス(p)、イアン・マクレガン(key)、キース・リチャーズ(g,vo)、ミック・ジャガー(vo)、ジム・ケルトナー(per)、ミック・フリートウッド(ds)、デイヴ・メイソン(g)、ボビー・キーズ(sax) 等々、多士済々ですが、もちろんロン・ウッドの友人関係者が多いのはアルバム全体のリラックスした雰囲気に大きく影響しているところだと思います。

それはA面初っ端の如何にもルーズで楽し過ぎる「Worry No More」からして、もう最高! いきなりラフにマスターテープをスタートさせるワザとらしい仕掛けからローリングするピアノに導かれた酔いどれR&Rの楽しい饗宴が、ストーンズとは似て非なる、どちらかといえばフェイセズ調のウキウキ感がたまりません♪♪~♪

ちなみに曲を作ったのはピアノでゲスト参加しているジェリー・ウィリアムスというアメリカのシンガーソングライターなんですが、このトラックに限らず、アルバムのほとんどを占めるロン・ウッドの自作自演曲にしても、正直に言えばロッド・スチュアートが歌ってくれたらなぁ~、と思わずにはいられないほど、往年のフェィセズ風味が強く出ています。

しかしそれが確実にロン・ウッドの世界になっているのは、当時のクイーン等々を担当してメキメキと注目を集めていたロイ・トーマス・ベーカーのプロデュースゆえのことでしょうか。

実はこのアルバムの録音セッションは1978年の新春からパリで行われていたストーンズの新作レコーディングと同時期!?! なんと、その合間に同じスタジオでやっていたという真相があるようです。

そして告白すれば、私はロイ・トーマス・ベーカーの作る音や演出は好きではないのですが、何故かこのアルバムに限っては正解だと思わざるをえません。

既に述べたようにロン・ウッドの自作自演曲における歌と演奏は、明らかにストーンズに提供しそこなったデモテープを発展させた雰囲気も濃厚なんですが、それをパンクやニューウェイブが盛り上がっていた1979年にジャストミートさせたサウンド作りは流石!

つまり長年のファンにとっては、新しさの中に懐かしい味わいを見出す喜びがあり、おそらくは新しいリスナーにとっては温故知新という感じなのかもしれません。

ですからシングルカットされてヒットしたボブ・ディラン作の「Seven Days」が、今日でもウケてしまうのは面映ゆいところなんですが、ロン・ウッド本人にとっては、なんらの問題もなく歌い、ギターを弾きまくる絶好の舞台なんでしょうねぇ~♪ もちろんファンも、それを素直に受け入れてしまうんですが。

ということで、なかなか直線的なR&Rやストーンズ&フェィセズ風味の強い好盤だと思います。しかも曲間がほとんど無い編集にしてありますから、LP片面の流れも綿密に仕上げられており、それが尚更に気持良いんですねぇ~~♪

そしてロン・ウッドのボーカル、ギターやドブロが冴えまくっているのは言わずもがな、妙に居直ったような感じを受けてしまうのは、この時期を境にストーンズでのロン・ウッドの貢献度が落ちていくことを思えば、なかなか意味深……。

後に知ったところによれば、ロン・ウッドがストーンズの正式メンバーというか、印税契約になったのは、ビル・ワイマンが脱退して以降の1993年頃からだそうですし、ストーンズが休止状態の時は自己のバンドを率いて積極的にライプ活動をやっていたことを思えば、この頃のロン・ウッドには何かしらの決意が!?!

思わずそんな妄想にとらわれるほど、このアルバムはR&Rしていると思います。

ちなみにご存じのとおり、ジャケットを飾るイラストや絵画はロン・ウッド画伯の自信作! ご機嫌な気分が、ここにも表わされているようです。

現在のロン・ウッドは恒例のアル中療養と酒の上での暴力事件、そんな諸々で逼塞状態ではありますが、まだまだ枯れるのは早いですよ。

お気楽R&R、もう一丁!

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ドリス・トロイのスワンプロック

2010-05-12 17:03:29 | Rock

Doris Troy (Apple)

ドリス・トロイはアメリカの黒人歌手で、ポップス&ロック史ではビートルズが運営していたアップルレコードに本日ご紹介の素晴らしいアルバムを残したことが、一番有名でしょう。

欧米で発売されたのは1970年の秋頃だったそうですが、しかし我国では、リアルタイムでそれほど話題になったという記憶がありません。

ところが同じ頃から例のスワンプロックのブームがジワジワと盛り上がり、デラニー&ボニーがエリック・クラプトンやジョージ・ハリスンとの交流を通じてブレイクしていくにつれ、その裏盤的な存在として、このアルバムが急速に注目されたように感じています。

と言うのも、ジャケットには全く記載されていないのですが、このセッションに参加していたのがジョージ・ハリソン(g)、エリック・クラプトン(g)、ビーター・フランプトン(g)、ビリー・プレストン(key,vo)、クラウス・ヴァマン(b)、リング・スター(ds)、ボビー・キーズ(sax)、デラニー・ブラムレット(vo) 等々、まさにジョージ・ハリスンの金字塔と称された傑作3枚組LP「オール・シングス・マスト・パス」、そしてデラニー&ポニーやレオン・ラッセルデイヴ・メイソン等々が同時期に制作発売していた諸作と共通するメンツが大集合していたという、心底驚愕の事実が浮かび上がったのですから、これは聴かずに死ねるかっ!

 A-1 Ain't That Cute
 A-2 Special Care
 A-3 Give Me Back My Dynamite
 A-4 You Tore Me Up Inside
 A-5 Games People Play / 孤独の影
 A-6 Gonna Get My Baby Back
 A-7 I've Got To Be Strong
 B-1 Hurry
 B-2 So Far
 B-3 Exactly Like You
 B-4 You Give Me Joy Joy
 B-5 Don't Call Me No More
 B-6 Jacob's Ladoer

ますばA面ド頭の「Ain't That Cute」からして、これはもうデラニー&ポニーの世界と共通するスワンプロックの桃源郷♪♪~♪ ずっしり重いドラムスはリンゴ・スターの正体がモロバレですし、疾走するギターソロは当時からエリック・クラプトン? と推察されていたんですが、今日ではピーター・フランプトンが定説となっているほど、実に強い印象を残します。

ちなみに曲を書いたのはジョージ・ハリスンとドリス・トロイの共作で、実はドリス・トロイはアメリカでの下積み時代からソングライターとしても局地的に評価されていたそうですから、このアルバムは随所で自作自演の強みを発揮しています。

もちろんボーカリストとしての実力は言わずもがな! エリック・クラプトンの凄いギターを従え、堂々のブルースロックを粘っこく熱唱する「Give Me Back My Dynamite」、ゴスペル風味の「You Tore Me Up Inside」、ジャススタンタードのR&B的解釈が冴え渡る「Exactly Like You」あたりに顕著な、黒人音楽の魅力を分かり易く翻案したプロデュースがドリス・トロイ本人によるものという真相も、流石に納得だと思います。

実はサイケおやじがリアルタイムでドリス・トロイの名前に接した時、一番にハッとしたのは、好きだったホリーズのヒット曲「Just One Look」が、この人のオリジナルであったことを知っていたからなんですが、肝心なドリス・トロイのバージョンは以降も長い間、聴くことが出来ませんでした。

しかしこのアルバムを端緒としてドリス・トロイの過去を探求するにつれ、その濃密なR&B人生は自分の好みにジャストミート♪♪~♪ ニューヨークのハーレム地区で生まれ育ち、幼い頃からゴスペルやジャズ、そしてR&Bを歌い続け、曲作りの活動でも1960年にディー・クラークが放った大ヒット「How About That (Abner)」等々、なかなか味わい深い佳曲を書いています。

一方、歌手としてはジェームス・ブラウンやソロモン・バーグ等々のバックコーラスに参加し、ついに1963年になって前述した自作自演の「Just One Look (Atl)antic)」を大ヒットさせるのです。

しかし同時に悪いクスリに溺れていたという噂も絶えず、そんな所為もあったからでしょうか、ホリーズが「Just One Look」をカパーヒットさせていたイギリスへ巡業に訪れた後は同地に留まる道を選択したようです。もちろんその間もアメリカのレコード会社と契約は残っていたものの、結局はヒット曲を出せず……。

こうして時が流れた1969年、ビートルズが設立したアップルレコードから、後に「神の掟」というタイトルで発表されるアルバムをレコーディングしていたビリー・プレストンが、ドリス・トロイにバックコーラスでの参加を依頼したことから、事態は好転! セッションの現場でプロデュースを担当していたジョージ・ハリスンの強い推薦により急遽、ドリス・トロイのリーダー盤制作が決定されたと言われています。

このあたりの事情については、何がジョージ・ハリスンの気持を動かしたのか、イマイチ定かではないんですが、結果的に出来上がったこのアルバムを聴けば、そこにあるのはスワンプロック色が濃厚に楽しめる歌と演奏♪♪~♪ と言うよりも、所詮は白人音楽のスワンプロックを黒人がやってしまったという、逆もまた真なり!?!

それは先立つビリー・プレストンのアルバム「神の掟」にも言えることで、例えばトラフィックブラインド・フェイスが出してしまった、結果的にスワンプロックの試行錯誤を感じさせる諸作に対し――

それは、こうやるんだよぉ~♪

――と、黒人からの回答を具象化したものだったんじゃないでしょうか?

実際、前述した「Ain't That Cute」を筆頭に、スティーヴン・スティルスから提供された「Special Care」、アップテンポでブッ飛ばす「Gonna Get My Baby Back」や「I've Got To Be Strong」はホーンセクションやギターの使い方も含めて、どう聴いてもデラニー&ポニーと共通する味わいが隠しきれません。

それはB面に入っても変わることなく、「Don't Call Me No More」や「Jacob's Ladoer」ではバックコーラスにデラニー・プラムレットの声が明らかに聞こえることからして、もう完全に血が騒ぎます。

と同時に、モータウン調の「Hurry」や正統派R&Bバラードの味わいも深い「So Far」、スタックス風ジャムセッションから生まれたと思しき「You Give Me Joy Joy」で濃厚に表現される黒人ならではの感覚も、流石に素晴らしい限り♪♪~♪

その意味で個人的に嬉しかったのが、ジョー・サウスでお馴染みの「孤独の影」が歌われれていることで、これだけのロックの大物をバックにしながら、R&Bど真ん中の逃げない姿勢が全く潔いですねぇ~♪

とはいえ、アルバム全篇の各所で楽しめる演奏パートの美味しさも絶品で、おっ、これはクラプトン! これはジョージだよなぁ~♪ というギタープレイの詮索はもちろん、ロック的に蠢くベースやリンゴ・スターならではのドラミング、そしてビリー・プレストンのツボを外さないオルガンやピアノは、やっぱり素敵な魅力になっています。

そしてスワンプロック好きには欠かすことの出来ないアルバムであると同時に、R&Bがニューソウルへと発展進化する過程を記録したという意味においても、なかなか重要な1枚だと思うのです。

とにかく捨て曲無しの名盤でしょう。

全く続篇が作られなかったのが残念至極なんですが、ドリス・トロイは以降も他のレーベルにレコーディングを残していますし、イギリスの有名グループ&歌手のバックコーラスとして夥しい作品に参加していることは揺るぎない事実です。

ちなみに、このアルバムには未収録になっているアップルレコードからのシングル曲には、例えばビートルズの「Get Back」のカパーバージョン等々があり、今日ではCDのボーナストラックになっているようですから、機会があれば、ぜひともお楽しみいただとうございます。

いゃ~、スワンプロックって白黒に関係なく、本当に良いですねぇ~~♪

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