OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

アーマッド・ジャマルを聴きながら

2010-05-22 17:00:59 | Jazz

Portfolio Of Ahmad Jamal (Argo)

実は韓国へ出張していました。まあ、仕事はそれなりの成果でしたし、駆け足旅行で好きな海鮮鍋やホットクも食べられなかったんですが、個人的収穫としては本日ご紹介の人気盤を入手してきました。

ご存じ、今や我国でも人気ピアニストの仲間入りを果たしているアーマッド・ジャマルのライプアルバムで、なかなか珍しい2枚組のアナログLPです。

 A-1 This Can't Be Love
 A-2 Autumn Leaves / 枯葉
 A-3 Ahmad's Blues
 B-1 Old Devil Moon
 B-2 Seleritus
 B-3 It Could Happen To You
 B-4 Ivy
 B-5 Tater Pie
 C-1 Let's Fall In Love
 C-2 Aki & Ukthay
 C-3 You Don't Know What Love Is
 C-4 I Don't Know What Time It Was
 D-1 So Beats My Heart For You
 D-2 Gal In Calico
 D-3 Our Delight

録音は1958年9月5&6日、ワシントンD.C.のクラブ「スボットライト」で、アーマッド・ジャマル(p)、イスラエル・クロスビー(b)、ヴァーネル・フォーニア(ds) という、一番有名なレギュラートリオによる、極めて日常的であろうライプ演奏が楽しめます。

そのミソは決してアーマッド・ジャマルのピアノにあるのではなく、良く言われているとおり、間合を活かしたトリオ3者による礼節をわきまえたインタープレイが、唯一無二の和みを作り出しているようです。

つまりインタープレイと言っても、例えばビル・エバンスのトリオのように、互いに相手の隙を窺い、激しいツッコミやボケをかますのではなく、アーマッド・ジャマルのトリオでは相手に道を譲りつつ、礼を交わしてすれ違い、そこで仲間意識を高めるというような感じでしょうか。しかし決してナアナアではない、親しき仲にも礼儀あり!

それゆえに相手が弛緩すれば、容赦ない苦言を呈する場面も多々ありますし、時にはガチンコで意見の相違を戦わせることさえあるように思えます。

そんな緊張と緩和が見事なジャズになっているんですねぇ~♪

それと今や伝説か真実か、ますます分からなくなっているのが、アーマッド・ジャマルが1950年代のマイルス・デイビスに大きな影響を与えたという説でしょう。あの思わせぶりなマイルス・デイビスの歌物フェイクやアドリブフレーズとリズムの関係は、アーマッド・ジャマルのピアノ、そしてトリオとしての遣り口をトランペットに翻案した云々という、あれです。

そして大手のCBSコロムビアと契約した折にレギューバンド結成を勧められたマイルス・デイビスが希望のピアニストは、アーマッド・ジャマルだったという叶わぬ夢も有名なエピソードでしょう。ちなみにこの時の想定メンバーは他にソニー・ロリンズ(ts)、オスカー・ペティフォード(b)、ジミー・コブ(ds) だったというのですから、マイルス・デイビスの野望も相当なものでした。

まあ、それはそれとして、マイルス・デイビスのハードバップ期の演目には、確かにアーマッド・ジャマルの十八番が多く、それを検証するに相応しいアルバムが、この2枚組LPの一番大きな価値として言い伝えらてきたのですが、現実的は限定盤だったということもあり、なかなか聴くことが容易ではありませんでした。もちろんサイケおやじも、今回の入手が初めてであり、それまでは某コレクター氏のご厚情によるカセットコピーで楽しんでいたというわけです。

そこで肝心の演奏についてですが、なんと言っても「枯葉」が、あのキャノボール・アダレイをリーダーにした傑作「サムシン・エルス(Blue Note)」でマイスル・デイビスが決定的な大名演を聞かせた元ネタという、その論拠が興味深いところです。

それは例のリズムパターンに帰結するわけですが、ここでのトリオの演奏は「サムシン・エルス」でのバージョンよりもテンポが速く、ベースも最初こそ「らしい」フレーズをやっていますが、実際にはテーマパートよりもアドリブ中心主義というか、どんどん変奏されていく急ぎ足によって、かなり自在な動きに終始していますし、既に述べたように間合いを活かした特徴的なピアノトリオ演奏にあっては、虚心坦懐に全体を均等鑑賞しないと良さが分からないという構造になっているようです。

つまり、じっくり聴くのも正解ですが、聞き流すというか、所謂「ながら聞き」の方が分かってしまうんじゃないか? なんていう些か不遜なことまで思ってしまうんですねぇ。なにしろドラムスはスリル満点だし、ピアノとベースは何処を弾いているんだか迷い道かもしれないと感じられるんですよ……。

あの、むせび泣くマイスル・デイビスのミュートによる泣きの変奏に馴染んでいると、肩すかしは免れないでしょう。

しかし粋なセンスがたまらない「Gal In Calico」は、そのテーマ解釈とアドリブフレーズの展開が、マイルス・デイビスが「ミュージングス・オブ・マイルス(Prestige)」で演じていたバージョンに直結するものを強く想起させますし、イスラエル・クロスビーのベースが、これまたポール・チェンバースっぽいところも気になりますが、まあ、これは逆なんでしょうねぇ。

その意味で前述したレギュラーバンド結成時に雇ったレッド・ガーランドへ、アーマッド・ジャマルように弾く事を強要したというマイルス・デイビスの命令も、強ち作り話とは思えず、そのレッド・ガーランドがマイルス・デイビスの例のマラソンセッション中に残した「Ahmad's Blues」を聴き比べるのも楽しいと思います。

ただし、そんなこんなの思惑を超えたところに存在するアーマッド・ジャマル・トリオの魅力は、確かにこのアルバムを真実の人気盤にしています。

絶妙の間合とテンションの高いリズムへのアプローチが素晴らしい歌心を増幅させる「It Could Happen To You」は、ビル・エバンス・トリオとは全く違いますが、インタープレイの極致を演じていると思いますし、緻密なアンサンブルとアグレッシプなアドリブが両立した「Let's Fall In Love」や「I Don't Know What Time It Was」あたりのスタンダード解釈も実に個性的です。

いゃ~、ピアノよりもベースやドラムスが目立ってしまうんですよねぇ~♪

それでいて全然、煩くない存在感を発揮するイスラエル・クロスビーとヴァーネル・フォーニアは、我国ではあまり評価されていませんが、大変な実力者だと痛感されます。

ということで、一緒に録音されている客席のざわめきも好ましい雰囲気ですし、所謂カクテルピアノとしても、その醸し出されるムードは最高♪♪~♪ 後年の録音で更に顕著なように、アーマッド・ジャマルは非常なテクニシャンなんですが、それをひけらかすことなく聴き手を満足させてしまうのは、流石のセンスだと思います。

ちなみにマイルス・デイビス云々に拘る部分も否定出来ませんから、その比較対照盤をあげておくと――
 
 枯葉 / Somethin' Eles (Blue Note)
 Ahmad's Blues / Workin' (Perstige)
 Old Devil Moon / Blue Haze (Perstige)
 It Could Happen To You / Relaxin' (Perstige)
 You Don't Know What Love Is / Walkin' (Perstige)
 Gal In Calico / The Musing Of Miles (Perstige)

――と、だいたい上記のようなことになりますが、このアルバムの録音が1958年春なのに、マイルス・デイビスの演奏のほとんどが、それ以前という素朴な疑問については、アーマッド・ジャマルはマイルス・デイビス所縁の地であるシカゴのローカルスタアであり、既に様々な演目を独自のスタイルで演じていたトリオにマイルス・デイビスが接していたということでじゃないでしょうか?

このあたりは個人的に、まだまだ探求が必要かと思います。

最後になりましたが、入手したLPはご覧のとおり、かなり傷んでいます。しかも見開きジャケットの中面と裏面には英語と韓国語による書き込みがあったりして、おそらくは韓国に駐留している米軍関係者から流れた中古盤だと推察しているのですが、私に譲ってくれたのは仕事関係で偶然に知り合ったジャズ好きの韓国人でしたから、あまり入手ルートは尋ねないのが礼儀でしょうねぇ。

そんな事よりも、現在の韓国は自国海軍への魚雷攻撃で緊張度が高く、このレコードを譲ってくれた韓国人の息子さんは現在徴兵されているので、とても心配していました。

今後の情勢は全く不透明ですが、戦争なんていう愚行は絶対に止めて欲しいと切望しています。なによりも、例えばジャズを聴くなんていう、ささやかな楽しみさえも無にしてしまいますから……。

今日はなんだか、暗い結末で失礼致しました。

コメント
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