OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

オールナイトで輝いて

2010-05-16 17:15:57 | Jazz

All Night Session, Vol. 1 / Hampton Hawes (Contemporay)

学生時代の私は映画ならオールナイト興業に通いつめていました。それはだいたいが過去の名作&人気作、あるいは有名監督や主演俳優の特集等々、とにかく後追い鑑賞には絶好の企画が毎週のように盛り場の映画館で行われていたんですが、もちろん深夜まで遊び、帰りの電車が無くなった者には時間潰しの避難所でもあり、また同性愛のパートナー探しの現場でもあり、当然ながら悪いクスリやカツアゲなんかの犯罪も横行するという、なかなかスリルとサスペンスに満ち溢れた社会勉強の場所でもありました。

ただし、そうした所には任侠団体からの所謂ハケンが、つまらない騒ぎが起こらないように働いていたんで、言うほど危険な劇場は無く、また青少年補導の警官や教育関係者も頻繁にタダ見しに来ていましたからねぇ。現実的には緊張感の中にも、なかなかリラックスした桃源郷でありました。

で、本日ご紹介のアルバムは久々のモロジャズがど真ん中という、ハードバップの人気盤!

タイトルどおり、ハンプトン・ホーズをリーダーとしたカルテットによる徹夜のブッ通し演奏を、その演奏された順序を崩さずに収録したという3枚のアナログ盤LPの第1集です。

録音は1956年11月12日、メンバーはハンプトン・ホーズ(p)、ジム・ホール(g)、レッド・ミッチェル(b)、プラッツ・フリーマン(ds) という白黒混成のカルテットゆえに、随所で味わい深いグルーヴが噴出した名演ばかり♪♪~♪

A-1 Jordu
 デューク・ジョンダンが書いたハードバップの大有名曲ですから、作者のオリジナルに強く滲む黒っぽい愁いが、このカルテットでは如何に表現されるのか? もう、聴く前からワクワクする他はないですねぇ~♪
 そして結果は、実に溌剌としたハードドライヴィングなモダンジャズ♪♪~♪
 リズムとビートの明快なノリは、本当にウエストコースト派の個性というか、レッド・ミッチェルの安定したスリルという、全て分かっている楽しみが全面に出たベースワーク! さらに歯切れの良さと黒人ならではの芯の強さを上手くミックスしたブラッツ・。フリーマンのブラシも冴えていますから、ハンプトン・ホーズも十八番の節回しを絶妙のファンキーさで味付けしたアドリブを完全披露♪♪~♪ それは幾分のミスもご愛嬌と許してしまうほど、気持の良いものです。
 また気になるジム・ホールは一般的なイメージの幻想的なコードワークよりも、むしろストレートなジャズギター本来の味わいを貫き通し、実は正直に告白すれば、このメンツならバーニー・ケッセルかハーブ・エリスの方が……、なんて最初は不遜なことも思っていたのですが、やはり白人スタイルの王道を行くジム・ホールの起用は、バンド全体の無暗なファンキーグルーヴを抑制し、さらにディープなモダンジャズ天国への最良のガイド役だったと思います。
 
A-2 Groovin' High
 ディジー・ガレスピー作曲によるビバップの聖典のひとつとあって、爽快なノリと厳しいアドリブの両立を求めるファンの願いが、ここでは見事に叶えられた大名演♪♪~♪
 もちろんその原動力はカルテットが一丸となった真摯なモダンジャス魂なんでしょうが、それにしてもハンプトン・ホーズの直球勝負の姿勢は実に潔いかぎりです。それはジム・ホールとて同様の気持だったんでしょう。妥協の無いアドリブを披露することによって自己の主張を貫く姿勢が素晴らしく、魔法なようなピッキングと正統派ジャズギターならではのバッキングの上手さは天下一品です。
 またレッド・ミッチェルのペースも、この人ならではの繊細さと豪胆なグルーヴを合わせ技にした凄さが全開していると思います。、

A-3 Takin' Care
 ハンプトン・ホーズのオリジナルブルースということで、少し早いテンポの中に作者自身のファンキーな衝動が見事に表現されているんですが、その中核になっているのがパド・パウエル直系のビバップスタイルというネタばらしが、たまりません。
 中盤で倍テンポを叩くブラッツ・フリーマンも流石の存在感で、ある意味では頑固さを崩さないジム・ホールやレッド・ミッチェルを上手く和みのグルーヴへと導いているんじゃないでしょうか。

B-1 Broadway
 これまたモダンジャズではお馴染みの軽快なリフ曲を、西海岸派が演じると尚更にスマートになるという見本が、この演奏です。
 とにかく無伴奏で素晴らしいイントロを弾いてしまうハンプトン・ホーズは、続くテーマの提示から流れるように突入していくアドリブでの爆発的なノリまで、首尾一貫してハードバップの神髄を聞かせてくれます。
 しかし他の3人は安易に妥協することなく、怖いコードワークで流石のバッキングを聞かせるジム・ホール、我が道を行くレッド・ミッチェルの確かなベースワーク、そして緊張と緩和のバランスが秀逸なプラッツ・フリーマンのブラシ! アップテンポでツッコミそうになるギリギリのバンドの勢いは、しかしスマートなスピード感となってウエストコーストジャズの硬派な一面を表しているんじゃないでしょうか。

B-2 Hampton's Pulpit
 オーラスは、これもハンプトン・ホーズがオリジナルのブルースで、その粘っこいピアノタッチとグルーヴィな表現ゆえに、泉の如く湧き出すファンキーフレーズの洪水も決して聴き疲れるなんてことはありません。
 むしろバックの3人が作り出す4ビートの安定性が、逆にイヤミなほどです。
 しかし、それこそがこの演奏を魅力的なものにしている秘密かもしれませんし、実際、ハンプトン・ホーズにしても生涯の名演のひとつが、これじゃないでしょうか? タイトなリズムの上で繰り広げられるタメとモタレの黒人感覚、そして分かり易くてゾクゾクしてくるファンキーな衝動! これがハードバップの醍醐味ですよねぇ~♪
 もちろんジム・ホールの小技が冴えるバッキングの妙、さらにアドリブパートで披露されるちょいと地味な世界は、続けてビル・エバンスが登場してきそうな錯覚が嬉しい限りですし、レッド・ミッチェルのベースが憎たらしいほどの落ち着きを漂わるのですから、ハンプトン・ホーズが尚更ムキになるのも当然なんでしょうか。終盤でのテンポチェンジが幾分上手くいっていないあたりや以降に続くオールナイトのセッションで、それが証明されていく布石としても、実に味わい深い演奏だと思います。

ということで、既に述べたように深夜のレコーディングセッションから、曲順を全く変えずに収録された演奏の流れは、なかなか自然なジャズ本来の楽しみに溢れています。

そして続く第2&3集を通して聴くことにより、当夜のミュージシャンの意気込みやノリの良し悪しが堪能出来る仕掛けなんでしょうねぇ。安易と言えば、全くそのとおりかもしれませんが、モダンジャズ全盛期の熱気までも封じ込めんとした企画としては、今日まで見事にリスナーの欲求に応えたものと思います。

なによりも緊張感の和みの両立が、最高に素敵ですよねぇ~♪

これがお気に入りとなれば、後は続く2&3集にも夢中になれること請け合いです。

個人的には最初に書いた映画のオールナイト興業に行く前、ジャズ喫茶で時間調正する時には意図的にリクエストしていたこともありました。

ちなみに当時の私はジャズ喫茶からオールナイトの映画館、そして始発電車で短い睡眠を貪った後、ハン工場でバイトという週末が、今では懐かしくも輝いていた日々なのでした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする