OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

デラニー&ボニーの正調R&B

2010-01-26 14:16:24 | Soul

Home / Delaney & Bonnie (Stax)

1970年代ロックを聴いていく中で、必ず突き当たるのがデラニー&ポニーという夫婦デュオの名前でしょう。

まあ、今となってはこの2人、失礼ながらそれほどのインパクトも無くなっているんですが、なんといっても1970年代初頭のエリック・クラプトン関連のレコードでは、???と思えるほどに影響力が大きく、また所謂スワンプロックという当時の新しい業界トレンドでは中心的な役割を果たしていたのです。

それはR&Bの白人的解釈の一手段ではありますが、なによりも「ロック」の本筋を大切にしていたことは、その流行の度合いからも明白でした。

しかしデラニー&ポニーは、決して最初っからロック志向ではなく、その出発点には本物のR&Bがあって、それがこのアルバムに色濃く残されています。

このあたりの経緯を述べれば、とても長い物語になってしまうので、拙稿「バングラ・デシ・コンサート始末第5回」前後をお読みいただくとして、今回は端折りますが、デラニー&ポニーのふたりが白人ながら、本物の深いソウルフィーリングを持っていたことは間違いありません。

ですから夫婦デュオで本格的にスタートした頃のスタックスへの録音は、1968年当時の南部ソウルがど真ん中の音作りですし、実際、最初に発売された夫婦自作のシングル曲「It's Been A Long Time Coming」は黒人層に大ウケのスマッシュヒットになっています。そして続けてレコーディングセッションも進むのですが、なんとヒット曲が出てからの巡業では、デラニー&ポニーが白人だったことから混乱が続き、さらに人種差別関連の事件もあって……。

しかし同時期、ジョージ・ハリスンがアメリカでデラニー&ポニーに邂逅し、忽ち息投合したことから、エリック・クラプトンが在籍していたブラインド・フェイスのアメリカ巡業の前座に起用され、事態は好転するのです。

そして元祖スワンプロックの大名盤アルバム「オリジナル・デラニー&ボニー(Elektra)」が発表され、ついに業界主導ながら人気が爆発! イギリス公演ではエリック・クラプトンまでも率先して参加するというお祭り騒ぎのステージが、後に「オン・ツアー(Atoc)」という傑作ライプ盤として発売され、人気はさらに高まるのです。

で、本日ご紹介のアルバムは、そうした盛り上がりに便乗した形で世に出たといって過言ではないのですが、しかし中味は正統派南部ソウルが充満した素晴らしさ♪♪~♪

 A-1 It's Been A Long Time Coming
 A-2 A Right Now Love
 A-3 We Can Love
 A-4 My Baby Specializes
 A-5 Everybody Loves A Winner
 B-1 Things Get Better
 B-2 Just Plain Beautiful
 B-3 Hard To Say Boodbye
 B-4 Pour Your Love On Me
 B-5 Piece Of My Heart

まず特筆すべきは、そのサウンド作りが、あくまでも白人に媚びていない、正統派R&Bということです。ただしメンフィスに本拠地を置くスタックスという会社は経営が白人ですし、スタッフミュージシャンやライターも所謂ホワイトボーイが中心という事実は否定出来るものではありません。

ですから、この音源に関しても、プロデュースはブッカーT&MG'sのドナルド・ダック・ダンとレオン・ラッセルの盟友だったドン・ニックスという、スタックスのメインスタッフだった白人の2人が担当していますし、演奏面では前述のMG's、アイザック・ヘイズやメンフィスホーンの白黒混成バンドが何時もと変わらぬ音を聞かせてくれるあたりが、実に自然体で良い感じ♪♪~♪

実は後に知ったところによると、このアルバムでも冒頭に収録されている「It's Been A Long Time Coming」が1968年にシングルヒットし、その勢いで続く録音セッションが数回行われながら、前述のような現実的なトラブルから、ほとんどは未完成のままになっていたそうです。

それがデラニー&ポニーの突発的ともいえるロック界でのブレイクによって、ここに様々なオーバーダビングや編集を施して作られたのが、このLPだと言われています。

ちなみにデラニー&ポニーの決定的な名盤「オリジナル・デラニー&ボニー(Elektra)」が発売されたのは1969年、続く人気ライプ盤「オン・ツアー(Atoc)」が1970年に売れまくった狭間に、この「Home」が出回りながら、商業的には成功していません。

というよりも、実はデラニー&ポニーは、極言すれば「オン・ツアー(Atoc)」だけが突出して売れたのが実情で、それはエリック・クラプトンや後のデレク&ドミノスのメンバーが揃って参加していたことを抜きには語れないでしょう。

しかしデラニー&ポニーが歌う音楽の素晴らしさは、やはり不滅! そのルーツが、このアルバムに聞かれる正統派南部R&Bであることは重ねて書くまでもありませんし、個人的にもロック風味よりはR&Bに傾倒するデラニー&ポニーも最高に好きです。

まずシングルヒットした「It's Been A Long Time Coming」からして、完全に黒人としか思えないフィーリングが強烈! ヘヴィな8ビートを提供するリズム隊はエグミも満点ですし、メンフィスサウンドを特徴づけるギスギスしたホーン隊のリフもカッコ良く、さらにデラニー&ポニーの歌いっぷりが畢生ですよ♪♪~♪ もう、これ1曲だけで、後はアルバム全篇が一気呵成に聴けてしまいます。

それは同系のR&Bフィーリングが炸裂した「A Right Now Love」や「Just Plain Beautiful」の痛快なノリ、スタックスの看板スタアだったウィリアム・ベルがオリジナルの有名カパー曲「My Baby Specializes」や「Everybody Loves A Winner」での熱い想い、さらにジャニス・ジョプリンのバージョンがロック史に刻まれている「Piece Of My Heart」は、ポニーのまた違う味わいが深い感動を呼び覚ますでしょう。

また夫婦でのハートウォームな節回しが堪能出来る「We Can Love」は、個人的に大好き♪♪~♪

それと「Things Get Better」はデラニー&ポニーのステージでは後々まで大定番となった十八番で、それは前述の「オン・ツアー(Atoc)」にも収録されていますが、そのオリジナルスタジオバージョンもまた、素敵です。完全にロックしていない中途半端さが良い感じ♪♪~♪ そのあたりはカントリーロックの味わいも強い「Hard To Say Boodbye」にも、不思議な魅力として結実しているのですが……。

ちなみにデラニーはエリック・クラプトンにボーカリストしての歌、さらにスライドギターを教えたロック史の陰の立役者なんですが、そのルーツは案外、カントリー系のブルースやポップスにあるのかもしれませんねぇ。ジャケットに写っている小屋はデラニーの生家だった農園の一角にあったそうですし、一緒にいる老人はデラニーのお爺さんなんですよ。

ということで、聴くほどに愛着が深まっていくアルバムだと思います。

なによりも南部ソウルのファンにはマストの1枚でしょうねぇ。もちろん黒人歌手が演じているものほどの脂っこさ、ディープなムードは無いんですが、白人が黒っぽく歌ってこその魅力があるのです。なにしろバックの演奏がオルガンやギター、ホーン&リズム隊の存在そのものが、全くの正統派黒人R&Bですからっ!

スワンプロックを求めるファンには肩すかしかもしれませんが、サイケおやじは愛聴しております。こういう正調節も、愛おしいのです。

コメント (4)
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