OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ミッシェル・ルグランの名盤を実感

2010-05-25 16:48:19 | Jazz

Michel Legrand At Shelly's Manne-Hole (Verve)

ミッシェル・ルグランはフランスの高名な音楽家として映画&音楽ファンならば知らぬ人も無い天才ですが、一方、ピアニストとしても、特にジャズを弾かせれば天下一品の腕前!

そうした「もうひとつの顔」を若き日のサイケおやじに知らしめてくれたのが、本日ご紹介の1枚です。

ジャケットが光っているのは、表面が銀インク印刷というか、銀紙に型押しという仕様になっているからで、如何にも当時のアナログ盤LPの凝った体裁が嬉しいわけですが、それをきっちり撮影出来なかったのは、サイケおやじの素人の哀しさとして、ご理解願います。

肝心の中身はピアノトリオの秀逸なライプ演奏♪♪~♪

録音は1968年9月5日、メンバーはミッシェル・ルグラン(p,vo)、レイ・ブラウン(b)、シェリー・マン(ds) という、今では夢の臨時編成! しかもシェリー・マンが当時経営していたクラブ「マン・ホール」でのライプセッションですから、即興的な醍醐味と名人3者のコラポレーションが絶妙の構築美を堪能させてくれます。

ちなみに一説によれば、このセッションが実現したのはハリウッド映画への仕事でミッシェル・ルグランがシェリー・マンと邂逅した経緯があったようですが、それにしてもここに聴かれる、一発勝負的なジャズ衝動は凄いですねぇ~♪

A-1 The Grand Brown Man
 店内のざわめきの中、本当に指慣らしのようなスタートからグイグイと演奏を牽引していくミッシェル・ルグランのピアノ! それに追従しつつも頑固な自己主張を崩さないレイ・ブラウンのペースは執拗ですし、シェリー・マンのブラシが、これまたヘヴィでメリハリの効いたビートを叩きますから、いつしかアップテンポへと移行しているトリオが一丸となった豪快スイングには心底、シビレさせられます。
 実は告白すると、ジャズ喫茶で初めてこのアルバムの、この演奏を聴いた時、てっきりオスカー・ピーターソン?? う~ん、それにしては、ちょいと違うけれど、ベースはレイ・ブラウンだよなぁ……。なぁ~んて勝手な自己解釈をしながら飾ってあるジャケットを見ると、そこにはジャズ喫茶特有の暗い照明に浮かびあがった銀色のこのアルバムがっ!
 しかもピアノを弾いているのが、当時は作編曲家としてしか私が認識していなかったミッシェル・ルグランだったのですから、もう吃驚仰天の極北でした。
 なにしろ演奏が進むにつれ、相当にアバンギャルドなフレーズも飛び出しますし、トリオとしての遣り口が新主流派というか、ビル・エバンス的なアプローチをオスカー・ピーターソンが演じてしまったような、そんな不遜な例えでしか文章に出来ないほど圧巻の勢いに満ちているのですから!?!
 つまりトリオの面々がそれぞれにインタープレイを展開しつつ、基本配分は「4/3/3」という、その場面毎の主役が「4」なのは言わずもがな、トリオのお互いがその時々の主役を盛り立て、主役は他のふたりを蔑にしないという潔さが、アルバム全篇を通しての快演に繋がっているように思います。

A-2 A Time For Love
 ジョニー・マンデルが書いた映画音楽の中では最も有名なメロディかもしれませんが、それを丸っきりミッシェル・ルグランのオリジナル? なんていう思い込みに誘うのが、この演奏かもしれません。
 実際、サイケおやじは長い間、このメロディはルグラン!?!
 なんて愚かな思い込みをしていたほど、ここでの華麗なピアノ演奏は素晴らしく、絶妙の間合いとお洒落なフレーズ&コードの選び方は、如何にもフランス人らしいと思うのは私だけでしょうか。
 ミッシェル・ルグランも無暗にテクニックをひけらすことはなく、レイ・ブラウン&シェリー・マンにサポートされている現実に感謝の名演♪♪~♪

A-3 Ray's Riff
 ワルツタイムのブルースで、タイトルどおり、レイ・ブラウンのペースから定番的に弾きだされるリフを活かした即興的な演奏だと思われます。
 まず、とにかくレイ・ブラウンのペース中心に聴いて大正解! 大技小技を適材適所に繰り出す音楽性は、モダンジャズの神髄といって過言ではないでしょう。
 そして当然ながら、ほとんど黒っぽさのないミッシェル・ルグランのアドリブは豪快にしてグルーヴィ♪♪~♪ なんかジャズ的に矛盾しているような感じも致しますが、そこはシェリー・マンが百戦錬磨のドラミングで盛り上げていく中を、ミッシェル・ルグランのピアノが見事な答えを聞かせてくれます。

A-4 Watch What Happens'
 これはお馴染み、ミッシェル・ルグランが珠玉のオリジナル曲として、誰もが一度は耳にしたことのあるメロディでしょう。最初の一節が提示された瞬間、客席からも拍手が沸き上がるのもムペなるかな!
 しかも作者本人は些かも気負うことなく、かなり自由度の高いメロディフェイクから歌心を随所に滲ませるアドリブパートまで、本当に変幻自在のジャズピアノ♪♪~♪ 寄り添うレイ・ブラウンも凄いサポートを披露していますから、中盤以降はオスカー・ピーターソン症候群を露呈するのも、実は嬉しいプレゼントだと思います。

B-1 My Funny Valentien
 これはちょっと以外な選曲のような気もするんですが、とにかく有名スタンダードを演じてくれるのは楽しみも倍加するということで、初っ端からレイ・ブラウンのペースによる奔放なアドリブソロの露払いが強烈です。
 そしてミッシェル・ルグランがマジかオトボケか判断し難いハミングボーカルでお馴染みのメロディを歌い、続けてスキャットによるアドリブからピアノによるハードな解釈を聞かせてくれるに及んで、このトリオの凄さが歴然としてくる仕掛けです。
 このあたりは本当に文章にするのが虚しくなるほどで、スキャットとピアノのユニゾンやレイ・ブラウンのペースと恐ろしい対話を繰り広げる展開には、思わず唸る他はないでしょう。

B-2 Another Blues
 これまた即興的なんでしょうか、相当にハードバップなブルースなんですが、演奏をリードしていくのはレイ・ブラウンのペース! そして実にグルーヴィなミッシェル・ルグランのピアノが痛快なアドリブを披露するその中には、当然ながら過激な部分もどっさり!?
 しかしシェリー・マンがハードドライヴィングなジャズビートを外しませんから、様々なリズム的興奮に煽られたトリオの名演が堪能出来ますよ。

B-3 Willow Weep For Me
 これもジャズ者には説明不要のブルージーなスタンダードメロディなんですが、なんとも意地悪いレイ・ブラウンのベースワークゆえに、かなり緊張度の高い演奏になっているようです。
 しかしミッシェル・ルグランが、それこそオズオズとお馴染みのメロディを繰り出せば、後はじっくり構えて濃密なモダンジャズのムードが横溢♪♪~♪ かなりヤケッパチ気味にド派手なフレーズやブロックコードを響かせるミッシェル・ルグランに対し、意外なほど細心の注意をはらうレイ・ブラウンというコントラストは、まさに名人達の会話というべきかもしれません。

B-4 Los Gatos
 オーラスも全くの即興に近い演奏で、ほとんどフリージャズかもしれませんが、タイトルからもご推察のようにラテン味のモードが導入されたあたりが結果オーライだと思います。
 中でもシェリー・マンの頑張りは特筆物で、高速4ビートから混濁のラテンリズム、さらにはフリーなポリリズムを千載一遇のチャンスに叩きまくり! もちろんピアノトリオとしての本分からミッシェル・ルグランが全体をリードして、聴き易いフレーズを積み重ねていきますが、ドラムスとベースが言いなりにならない頑固さで、これがジャズの面白みという大団円になるのでした。

ということで、ピアノトリオのアルバムとしては世に出た瞬間から名盤扱いの1枚でしょう。今となっては、ほとんど通過儀礼的な存在かもしれません。

しかしモダンジャズの演奏としては特級品であることに間違いはなく、参加した面々にとっては、何れもが代表作に値する出来栄えだと思います。

特にレイ・ブラウンは、その録音がウッドベースの特性を上手く活かしている所為もあり、繊細にして豪胆な個性が前向きの音楽性とジャストミートの快演を披露♪♪~♪ 最高に素晴らしいジャズベースの神髄が堪能出来ますよ。

またシェリー・マンは、その店の経営者という立場もあったんでしょうか、些か仕切り役という感が無きにしもあらずなんですが、しかし、ここぞっ、でキメるビートの凄さやリズムの自在性は達人の名に恥じないものです。

そしてミッシェル・ルグランにしても、それまで幾つもあったジャズセッションから、ここでピアニストとしてもモダンジャズの最先端を演じきったことにより、決定的な評価を得たんじゃないでしょうか。

願わくば、このトリオによる未発表音源集も期待したいところですが、やはり一期一会であればこその名演アルバムなんでしょうねぇ~♪

加えて録音も、なかなか秀逸ですよ♪♪~♪

やっぱり名盤は、良いですね。

コメント
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