■Mother c/w Why / John Lennon (Apple / 東芝)
ジョン・レノンは間違いなく歴史を変えた偉人ですし、天才的な音楽家&思想家だと思いますが、決して神様ではなく、とても人間の本質に正直なロックンローラー!
ですから個人的に一番驚いたのは、ビートルズの分裂騒動に関して、渦中のジョンその人が、精神的に不安定となり、治療を受けていたという現実です。
う~ん、皮肉屋で時には意地悪、さらにはバカ正直な純情男のジョンが、なぁ……。
もっと強い人かと思っていたんですよ。
しかし、そういう事実を知ったのは、もちろん決してリアルタイムではありません。
そして当時の私が聴いていた、ジョンの初めての本格的なソロアルバムといって異論のない「ジョンの魂 / John Lennon Plastic Ono Band」は、シンプルで力強いサウンドに支えられた赤裸々な歌詞が、何故そうなのか? 本当に理解の範疇を超えていたところにも共鳴してくるのです。
ちなみに問題の「ジョンの魂」の英米発売は1970年12月11日、我国では少し遅れて翌年の2月に出ていますから、ジョージの金字塔3枚組LP「オール・シングス・マスト・パス」と同時期の人気盤でしたが、当然ながら若き日のサイケおやじは買えず、友人から借りての鑑賞……。
そこでなんとかゲット出来たのが、中古でしたが、本日ご紹介のシングル盤でした。
A面収録の「Mother」は、前述「ジョンの魂」でも冒頭に置かれた強い印象の名曲名唱として、実に悲痛な響きがハードに歌われています。
ご存じのようにジョンは幼い頃に両親に捨てられ、後に母親と再会するものの、17歳の時に死別していますから、少年時代は物心両面で決して恵まれた環境ではなかったでしょう。そんな思いをストレートにぶっつけた「Mother」という歌と演奏は、その歌詞の辛辣な部分も含めて、時代の中で何かを超越した響きが感じられるのです。
しかし曲メロとアレンジ&演奏はネクラではないんですよねぇ。むしろプラスのベクトルが強いという感じが、これまた凄いのです。
参考までに演奏メンバーを記しておくと、ジョン・レノン(vo,g,p)、クラウス・ヴァマン(b)、リンゴ・スター(ds) という強力なトリオに加え、プロデュースはジョンとヨーコ、そしてフィル・スペクターが関与しています。
良く言われているように、当時のジョンはヨーコに強い影響を受け、活動そのものが賛否両論のギリギリを彷徨っていた頃でもありましたから、この「Mother」も実はヨーコを母親代わりに選んだ自己憐憫の歌だとか……?
まあ、そう言われてみれば、ジョン・レノンは特級のマザコン男!?!
そういう正体を自ら曝け出したところに、またジョン・レノンの天才性があるんでしょうか……。
さて、実は告白しておくと、このシングル盤をゲットしたのは、B面に収録されたヨーコの演じる「Why」を聴きたかったからなのです。
結論から言えば、一般的なポップスやロックの王道から外れた前衛性の強いものだったんですが、それは予想は出来ていても、なかなか実直に聴くことは出来ません。なにしろ「ジョンの魂」と同じような演奏メンバーを従えたアルバム「ヨーコ・オノ / プラスティック・オノ・バンド」が作られ、それは双子のようなジャケットデザインで発売も同時期であったはずなのに、ラジオの洋楽番組では完全に近い無視状態でしたからねぇ……。
結局は買って聴く他はないのです。なにしろそこにもジョンのギターと「声」があるのですから! 聴いたもん勝ちってやつですよね。
ということで、同じ母親を巡る関係でも、何処ぞの総理大臣のように母親からお金を出してもらって政治家ごっこに興じ、国民を裏切ったバカもいれば、母親から捨てられたことを根源的な心の糧とした偉人もいるというが、この世の深いところだと思います。
まあ、そんなことはあくまでも他人の目から見た思い込みでしょう。
本人にしか分からないものが間違いなくあるでしょう。
しかし例えばジョンが「Mother」を歌ったように、そういう正直な部分が少しでも感じられれば、心に響く行き様に共感するのです。
でも、これは難しいです。
そして、それが出来れば、その人は天才になるんだと思うのでした。