■The Chuck Rainey Coalition (Skye)
エレキベースの大御所して、今や大衆音楽史にその名を刻すチャック・レイニーをサイケおやじが意識したのは何時の事だったか……?
それは多分、全盛期ブラッド・スウェット&ティアーズ=BS&Tで活躍したボーカリストのディヴィッド・クレイトン・トーマスが1973年頃に出したソロアルバム「テキーラ・サンライズ(Columbia)」を聴いた時だと思います。
正直、実はアルバムそのものの出来はイマイチの感想だったんですが、歌とバックの演奏は素晴らしく、ハッするほど良い感じの瞬間がテンコ盛り! 中でも飛び跳ねて蠢くエレキベースには驚愕的にシビれさせられましたですねぇ~♪
で、もちろん、それを演じていたのがチャック・レイニーというわけなんですが、一緒にやっていたのがダニー・クーチ(g)、ウィリアム・スミス(key)、ケニー・ライス(ds) 等々とくれば、激ヤバのファンキーロックはお約束以上で、あぁ、これで楽曲が良かったらなぁ~~、と思わずにはいられないほどの歓喜と失望がゴッタ煮の迷盤でした。
しかし、忽ちにしてサイケおやじの気になる存在となったチャック・レイニーではありますが、当時はその人を知る情報等は無いに等しく、それでもアメリカで活躍しているスタジオセッションミュージシャンとしてはトップクラスの名手で、ラスカルズやローラ・ニーロ、シャーリー・スコットやハービー・マン、アレサ・フランクリン等々、とにかくロックもジャズもR&Bも、何でもござれの仕事をやれる実力者であろう……!?
まあ、そんなところが精一杯の正体暴き(?)ではありましたが、ちなみにサイケおやじがエレキベース大好き人間になったのは、ザ・フーのジョン・エントウィッスルやクリームのジャック・ブルース、我国ではゴールデン・カップスのルイズルイス加部、さらには昭和40年代後半からのエレキ歌謡や歌謡ポップスのバック演奏で存分に聴ける、あの自由にドライヴする存在にグッと惹きつけられた前科ゆえの事です。
そして時が流れた翌年の事、出入りしていた楽器屋に集う諸先輩方々の偶然の話題にチャック・レイニーの名前が飛び出し、そこで様々に教えていただいた中から聴く事になったのが、本日掲載したチャック・レイニーのリーダーアルバムでした。
A-1 Eloise (First Love)
A-2 How Long Will It Last
A-3 Genuine John
A-4 The Rain Song
A-5 Got It Togegher
B-1 The Lone Stranger
B-2 Harlem Nocturne / Zenzile
B-3 It's Gonna Rain
B-4 Theme From Peter Gunn
結論から言えば全篇がインストで、ソウル~ファンキーロック系の演奏がびっしり詰め込まれた内容は、後のスタッフと共通するものなんですが、リアルタイムで聴いた頃にはスタッフという存在は未だに無く、ソウルジャズ系スタジオミュージシャンの演奏集という事は、ブッカーT&MGs みたいなもんかなぁ~、という先入観念が正直ありました。
しかしチャック・レイニー(b) 以下、エリック・ゲイル(g)、コーネル・デュプリー(g)、ビリー・バトラー(g)、リチャード・ティー(key)、バーナード・パーディ(ds)、ケニー・ライス(ds)、モンティゴ・ジョー(per)、ウォーレン・スミス(per) 等々のリズムセクションが織りなすグルーヴには明らかに新しいセンスがあり、同時にその頃からブームになっていたニューソウルの土台がビンビンに感じられたんですねぇ~♪
また適材適所で使われているトランペットやサックス、あるいはストリングスのアレンジも秀逸で、これはどうやらセルワート・クラークという人物の仕事らしいんですが、そこでプロデューサーのクレジットを確認すると、そこにはチャック・レイニーと並んでゲイリー・マクファーランドの名前がっ!
そうです、ゲイリー・マクファーランドについて書こうとすれば、文字数は天文学的になりそうなほど、20世紀の大衆音楽界には偉大過ぎる功績と影響を残した天才肌の音楽家なんですが、一応はジャズ系の仕事から派生した今日のフュージョンというジャンルの礎を築いたひとりであり、自ら主宰していたレコードレーぺルの「Skye」では、このチャック・レイニーのリーダー盤以外にも凄い作品が作られているのですから、本当に今日でも要注意でしょう。
いや、と言うよりも、それらが制作発売されていた1960年代後半から1970年代初頭よりは、時を経るほどに再発見・再評価の機運が高まっているのが実情じゃ~ないでしょうか。
実際、このチャック・レイニーのアルバムにしても、録音されたのは1969年頃であり、世に出たのは1971年と言われていますが、リアルタイムでは同業者間でしか話題にならなかったそうで、しかしそれがニューソウルやクロスオーバー&フュージョンのブームが到来した時、元祖&本家として再評価された歴史は言うまでもないと思います。
例えばA面ド頭の「Eloise (First Love)」は後にリチャード・ティーが初リーダー盤再演していますし、続く「How Long Will It Last」にしても、コーネル・デュプリーやスタッフが、これまた再録したほどの十八番でありながら、その仕上がりの基本形は、このチャック・レイニーのリーダーセッションで既に出来上がっていることが確認出来るはずです。
いゃ~、この「How Long Will It Last」は本当にカッコ良すぎで、もちろん当時はコーネル・デュプリーやスタッフのバージョンが世に出る前でありましたから、サイケおやじは出来ないながらも、ギターやベースのコピーに勤しんだ時期が確かにありました。
しかし、とにかくリズムとピートの作り方が本当に難しいんですよねぇ~~。
と痛感してみれば、これはベース奏者のリーダー盤なんですから、当たり前田のクラッカー!!
バックとはいえ、ブリブリの弾きまくりからシンコペイトが絶妙のアクセント、スラップや疑似チョッパー気味のオカズ入れ、さらにはどっしり構えたルート音の構築等々、チャック・レイニーの基本技がこれでもかと椀盤振舞いですよっ!
そして様々な場面で表になり、裏になって活躍するギターやキーボード、トランペットやサックス等々が本当にイキイキする様が、このアルバム最良の楽しみだと思います。
で、肝心のチャック・レイニーの奏法云々については、今やガイド本や教則映像集までもが出ているほど、各方面への影響は絶大なんですが、その指弾きプレイの硬軟使い分けが流石で、実は数回接したライプの生演奏では、何故か雑なプレイもやらかしてしまう事を鑑みれば、相当にその場の雰囲気や空気を大切にする信条があるのかもしれません。
そう思えば、このアルバム全体の雰囲気が楽しさ優先モードというか、何時もは所謂「お仕事」でやっているメンバー各々の技術の披露が、同じ事でもこれだけウキウキと前向きな感じに録られたのは素晴らしいと思います。
それは繰り返しますが、プロデューサーのゲイリー・マクファーランドの手腕でもあり、1960年代末にこうしたセッションを企画実行した先見性は流石の一言!
今となってはフュージョン名作の人気盤から比べて、非常に地味~な内容ではありますが、聴くほどにジワジワと染み込んでくるソウルファンク系都会派のグルーヴは絶品ですし、その基本姿勢こそが後の同ジャンルをブームに導いた真実は打ち消せないことに、サイケおやじは感銘を受けてしまうのです。
ということで、エレキベースというジャンルに限っては、チャック・レイニーが一番という事では決してなくとも、エレキベースが好きならば、このアルバムは座右のレコードでしょう。
極言すれば、サイケおやじは、このアルバムに出会えた事によって、以降の音楽の聴き方に深みを持てるようになったほどで、気になるレコードの参加メンバークレジットにチャック・レイニーの名前を発見する時、買おうか、買うまいか……、悩んでいた問題を霧散させる力さえも与えてもらいました。
機会があれば、ぜひとも皆様にもお楽しみいただきたいアルバムであります。