■Lagoon / 鈴木茂 (クラウンレコード)
信条としては自然体を志しながら、何時しか力んではヘタレを演じてしまうのがサイケおやじの本性ですから、ガッツ溢れる音楽も好きな反面、ぼゃ~~っとした歌や演奏が入ったレコードも好んで聴いています。
例えば本日ご紹介の鈴木茂のアルバムは昭和51(1976)年末に出た当時から、その気合の入らなさ、フヌケっぷりが賛否両論だったんですが、サイケおやじにとっては今日まで愛聴盤になっている1枚です。
A-1 Lady Pink Panther
A-2 Devil Game / デビル・ゲーム
A-3 Brandy Wine
A-4 Tokyo Harbor Line / Tokyo・ハーバー・ライン
A-5 Hawaiian
B-1 Hashire-Rabbit / 走れラビット
B-2 Cordoba-Night / コルドバの夜
B-3 Almeria
B-4 8-Note Song / 8分音符の詩
ご存じのとおり、はっぴいえんどやキャラメルママ~ティン・パン・アレーで活躍したギタリストの鈴木茂は、我国歌謡界のスタジオセッションにおいても膨大なレコーディングに参加し、時にはアレンジやプロデュースまでも担当する才能は良く知られるところでしょう。
しかし今日まで少なからず出している自己名義のアルバム、中でも昭和50(1975)年春に発売された初リーダー作「バンドワゴン」は、ニッポンのロックでは決定的な名盤!
なにしろそのアメリカ西海岸での録音には、サンタナのダグ・ローチ(b)、タワー・オブ・パワーのデヴィット・ガリヴァルディ(ds) という強力リズムセクションをメインで起用し、加えて当時バリバリに上り調子だったリトル・フィートからビル・ペイン(key) とサム・クレイトン(per)、さらにハリウッドのスタジオセッションプレイヤーではドン・グルーシン(key) 以下、それこそ超一流の面々を招聘しつつ、本人は決して臆することのない強靭なギターワークを響かせたのですから、その頃の我国ロック界は言うにおよばず、芸能界全般としても驚異的な成功例でありました。
そのあたりは今日でも「バンドワゴン」がお若い皆様にもウケている事で証明済みと思いますが、はっぴいえんど以前からのバンド仲間だった松本隆の日本語詞をそれなりに力んで歌う鈴木茂のボーカルは、上手いとは決して言い難い中にも、なかなか真のロック魂を感じさせるあたりに、アルバム全体としての魅力の一端があるように思います。
で、そういう好評と同時並行的にやっていたセッションワークの注目度から、いよいよ翌年に発売された期待のリーダー作第二弾が、本日掲載の「ラグーン」だったんですが……。
これが当時の言葉を用いれば、思いっきりレイドバックした音作り!?
「バンドワゴン」で聞かせてくれたファンキーロックの味わいは極度に薄められ、ジャズフュージョンと言うには根底の黒っぽさも感じられず、あえて言えばブラジリアンフュージョンとでも申しましょうか、スマートなラテンリズムとロックビートの混合が鈴木茂の呟き系ボーカルとミョウチキリンな和解(?)を演じているんですねぇ~♪
実はこれ、結論としては、今も人気が高いAOR歌手のマイケル・フランクスあたりが同時期に出し始めたボサノバっぽいソフトロックの歌物フュージョンと似たような味わいであって、とすれば鈴木茂の気抜けのボーカルも、ボサノバの一般的な印象である抑揚の少ない歌い方に通じるものが感じられて当然という事でしょうか。
おまけにサウンド作りのポイントが、決して鈴木茂のギターではなく、全篇を通して気持の良いエレピにある事も要注意!
ちなみに演奏参加メンバーは鈴木茂(g,vo) 以下、細野晴臣(b)、林立夫(ds) のキャラメルママ~ティン・パン・アレー組に加え、浜口茂外也(per)、薩摩光二(sax,fl)、村岡健(sax,arr) 等々、お馴染みの顔ぶれが揃っていますが、件のキーポイントであるエレピを弾いているのが、マーク・レヴィンという、リアルタイムではサイケおやじが全く知るところではなかったジャズ系のピアニストなんですねぇ~~♪
もちろん告白しておけば、このアルバムを最初に聴いた時には、てっきり常連仲間の松任谷正隆がキーボードで、と思い込んでいたんですから、良い意味で裏切られたマーク・レヴィンのエレピの魅力には完全KOされました。
また、最初っからそういうところを目指していたと思われる鈴木茂の曲作りが、トロピカルなフュージョンサウンドに傾くのも本末転倒な申し開きでしょう。
その明らかな狙いは、聴けば一発!!
A面ド頭の「Lady Pink Panther」は失礼ながら、ちょいと出来そこないのユーミンみたいない曲調ではありますが、確信犯的なペースとドラムスのコンビネーションとマーク・レヴィンのエレピが見事に全篇を彩る気持良さが絶品ですよ♪♪~♪
そして鈴木茂の脱力系ボーカルに松本隆の都会派の歌詞がぴったり寄り添い、これは「AOR」と言うよりも、その頃に標榜されつつあった「シティミュージック」と呼ばれるに相応しいものです。
そこで付属の歌詞カードを読んでみると、メインのレコーディングにはハワイのスタジオが使われていますから、何かこのリゾートムード満点のサウンドに説得力があるのは当然なんでしょうねぇ~♪
同時に、その意味で前作では半分以上の主役だった鈴木茂ならではのスライドギターやコードカッティングの魔法が、このアルバムではすっかり引っ込んで、極言すればお目当てのギターソロは出ないに等しいのです。
ところが逆にナチュラルに光るのが歌伴のテクニックというか、細かいバッキングの上手さ、コード選びの慎重さは流石だと唸ってしまいますねぇ~♪
既に述べたとおり、松本隆の十八番たる都市の生活における情景描写を綴った歌詞には、はっぴいえんどの残滓が色濃く感じられますが、それがここでは決して閉塞したものではなく、鈴木茂が志向した開放的な楽園サウンドにジャストミートしているあたりも特筆するべきなのでしょう。
アルバム全篇にはインストのトラックもありますし、SEとしては定番の波の音、あるいは空気感までも強くイメージさせる微妙な残響音も含め、これは現代でも立派に通じるソフト&メローな作品集ですよ♪♪~♪
発売されたリアルタイムが冬ではありましたが、ジャケットデザインのイメージは涼やかですし、それがクールと言うには些か気恥ずかしいものを感じさせるあたりが、如何にも鈴木茂らしいと思います。
ということで、これはロックを捨てた!?
とさえ当時は一部で断言されていたLPなんですが、逆に言えばそれだけの裏人気があった証明でもあり、真ロックな大傑作「バンドワゴン」と対になって残された鈴木茂の決意表明じゃ~ないでしょうか。
それは実際、以降のスタジオの仕事ではアレンジャー的な活動が顕著になっていきますし、もちろんギターは弾いていても、決して目立つような演奏は減少する傾向に……。
ですから、続けて発表されていく自身のリーダーアルバムも、歌謡ポップスを狙いながら、地味~な作風になっていますので、サイケおやじは積極的に聴くという作業に入れません。
ただし、それでも何かの機会に耳にする鈴木茂の歌は、それが地味であるほどに印象に残ってしまうのですから、これは全く不思議な世界!
そこで、とりあえず夏になれば、本日掲載の「ラグーン」に針を落すことが年中行事になっているのです。
脱力ボーカルにはエレピだぜっ! ニッポンの夏には、これもイケます♪♪~♪