■恋するキャンディダ / Dawn (Bell / CBSソニー)
所謂洋楽ポップスにおける「実態の無いグループ」の中でも、それが初期において最も違和感を与えたのは、アメリカのドーンかもしれません。
ご存じのとおり、ドーンは1973年の世界的ウルトラメガヒット「幸せの黄色いリボン / Tie A Yellow Ribbon Round The Ole Oak Tree」を頂点に、「ノックは3回」「嘆きのジプシー・ローズ」「いちご畑のサリーちゃん」等々の楽しい歌を連続的に出していましたからねぇ~♪
日頃は硬派なロック野郎やイケイケのグルーピーなお姉ちゃんも、わかっちゃ~いるけど、ついつい和んでしまったのが、本音じゃ~ないでしょうか。
もちろんサイケおやじも全くそのひとりで、ハードロックやプログレやモダンジャズ等々を優先的に聴く姿勢を貫こうとしても、ラジオから流れてくるドーンの素敵なポップスヒットの数々には思わず耳を奪われ、乏しい小遣いからシングル盤をゲットさせられていたのが当時の実情であり、ご紹介する「恋するキャンディダ / Candida」は、その中の最初の1枚というわけなんですが……。
実際にレコード屋で現物に接してみると、これが吃驚仰天!?!
なにしろ件の「恋するキャンディダ / Candida」はアメリアッチ風の楽しいアレンジに彩られたウキウキする演奏をバックに、ソフトでありながら、なかなか力強い男性ボーカルが素敵なメロデイを歌うという狙いはジャストミートしていますし、同時にサビや要所で使われる女性コーラスが、ちょいとソウルフルな味わいを醸し出しているのですから、このジャケ写の鬱陶しい男性4人組の存在は完全に???
ただし、これは皆様もご推察のとおり、ドーンもまた「実態の無いグループ」であろう事は、その頃のサイケおやじにも類推は出来ていましたし、であればこそ、このグループショットは如何にもあんまりな仕打ちでしょう。
あの魅惑のソウルフルな女性コーラスは、どうなるのよぉ~~。
というのが今でも偽りの無いサイケおやじの気分であって、しかも楽曲そのものが抜群にキャッチーならば、仕上がったレコードは極上のポップスになっているのですから、始末が悪いですよ。
そこで後は定例!?
ドーンについての奥の細道を探求してみれば、「恋するキャンディダ / Candida」は1970年晩秋から初冬に流行った、グループとしてのデビュー曲ではありますが、実質的に歌っているのはトニー・オーランドと名乗るギリシャ系の白人歌手であり、しかも全くの新人ではなかったという真相に辿りつくのです。
なんとっ!
1950年代末頃からの駆け出し時代には、キャロル・キングやバリー・マン等々の職業作家が書いていた楽曲のデモテープ用歌手であり、それがそのまんま転用され、かなり有名な別人名義のレコードになっていた事さえあったというのですから、裏方の実力者として、業界では重宝されていたと思われます。
また当然ながらトニー・オーランド名義としてのヒットレコードも何枚か残しており、中でも1961年の「Halfway To Paradise」や「Happy Times」は当時のキャロル・キング特有の「節」を有用に活かした名唱ですよ♪♪~♪
う~ん、絶妙に黒っぽいフィーリングは、元祖ブルーアイドソウルでしょうか。
後追いながら聴いたサイケおやじは、なかなかシビれましたですねぇ~♪
ところが何故か、トニー・オーランドは表舞台から消え去り、一説によるとCBS系音楽出版社の重役や芸能事務所のマネージメントをやっていたと言われています。
そして時が流れた1970年、突如としてドーン名義のレコードを出す事になったのは、やはりアメリカ東海岸系ポップスの業界実力者にして、元トーケンズのメンバーだったジェイ・シーガルの要請があったとか!?
もちろんそれは最初、昔取った何んとやらで、件の楽曲「恋するキャンディダ / Candida」の仮歌を作る作業だったところが、その出来の良さから緊急(?)発売され、ここにドーンという「実態の無いグループ」が誕生したようです。
ちなみに「ドーン」というグループ名は、前述したジェイ・シーガルの愛娘の名前に因んだらしく、このあたりの事情は如何にも狭い業界内サークルの表れでしょうか。
まあ、それはそれとして、現実的にレコーディングに参加した女性コーラスはテルマ・ホプキンスとジョイス・ヴィンセントの2人という定説もあり、後にはレコードジャケットやプロモーションフィルムに登場する黒人女性コンビが、それに該当するのか? という素朴な疑問も、確かにあると思います。
しかし、もうひとつの説として、1969年晩秋にアメリカでヒットした「Make Believe」という、ちょいと魅力的なポップス曲をやっていたウインドというグループがあり、そこでのリードボーカルがトニー・オーランドという真相を信じれば、この「恋するキャンディダ / Candida」の日本盤シングルのジャケ写に使われたのは、そのウインドと名乗るバンドのグループショット!?
実は、これまた当然というか、そのウインドも「実態の無いグループ」のひとつであったらしく、唯一のヒット「Make Believe」にしても、ビーチボーイズが東海岸バブルガムポップスをやってしまったような、なかなか良いとこどりの名曲名演に仕上がっているんですねぇ~♪
もしかしたらトニー・オーランドが関係していた音楽出版社に絡んでいるのかもしれませんが、サイケおやじがこれまでに知っている事からの推察は、ここまでと致します。
しかしトニー・オーランドが「恋するキャンディダ / Candida」をきっかけとして堂々の再デビュー(?)を果たし、間髪を入れずに出したのが、翌年早々からの大ヒット「ノックは3回 / Knock Three Times」なんですから、まさにシングル盤優先の洋楽天国が全盛であった当時の需要は見事に満たしていたわけですし、そういう状況にあって、自らの才能を活かせたのは、トニー・オーランドのひとつの資質だと思います。
そして以降、冒頭に述べたとおりのポップスヒットを放って行けたのも、そういう時流を読んだというよりは、作り出したという方が合っているのではないでしょうか。
トニー・オーランドはポップス歌手というよりも、やはり業界人なのかもしれませんねぇ。
現在のアメリカでは、あまり良く言う人は少ないらしいんですが、サイケおやじにとっては、何時までも気になる歌手のひとりです。