最初の学校で、事務職員として6年と3か月も在職してしまった。
秋田からの出稼ぎ組は普通、2~3年で戻りたがる。
随分お世話になったので、離任式は出なくちゃなと思った。
ちょうどオレと良く似た生徒が居て、菅野君というんだが、そいつをダシにして挨拶をした。大学校だから異動する先生方は10人以上。順番から行って管理職、教諭、講師、最後に事務職員となる。好きな先生のあいさつは必然的に生徒も真剣に聞き、長くなる。誰も知らない事務職だが、あの頃は授業料で大分顔を覚えられた。
挨拶の最後に、菅野君を呼んで、壇から降りて、制服の上着を交換し、記念写真を撮った。これがことのほか、先生方にもウケた。
それから癖になった。3年生が卒業したとはいえ、800人からの生徒がどっと沸く。あの快感を知った。なるほど、これだから先生はやめられない。
今日はたいがい始業式がある。今日が新任式の日だ。初めての生徒を前に、何をしゃべってやろうか。タバコを吸うなら、後始末をきちんとしろ、と言ったこともある。トイレに流すと浄化槽が詰まるし、火事になったら校長がクビになる。なんてね。
先生方と違ってオレはアドリブが利かない。だから綿密に内容を考える。それがウケた時は、最高に楽しい。
挨拶が好きと言うほどではない。順番が遅いだけ、ドッキドキは続く。ウケると楽しいが、失敗した時はスゴスゴと降りてくる。
子供の時、僕は惜しいことをしました。全然そういうところに頭が回らなくて。転校のたびに何度もチャンスがあったのになぁ・・・
クラスに溶け込むのに、随分と苦労してた気がします。先生たちには、おとなしい手のかからない子で、楽だったかもしれないけれど。
・・・でも、ま、度胸もなかったし、もし仮に転校のあいさつでひょうきんなことを言ったりしてみんなを笑わせるのに何とか成功したとしても、そのあと自分と違うキャラを演じ続けるのは、かえって苦しかったかもね。
自我の形成は、遅かった。
自分で考え始めたのは、予備校時代から。
その遅れを今、取り返しているところだ。