精力的に男女の愛の物語を撮り続けてきた 、フィリップ・ガレル監督の最新作である。
ガレルといえば、ヌーヴェルバーグの恐るべき申し子だ。
夫の才能を信じ、自分の夢を捨てて献身する妻との、二人の愛の破局と再生を美しいモノクロームの映像で綴る。
監督の息子ルイ・ガレルがナレーションで参加している。
洗練された脚本で描かれる男と女の情熱と傷心が、1960年代のフランスの香りを運んでくる。
妻マノン(クロティルド・クロー)は、夫ピエール(スタニスラス・メラール)の才能を信じ、自分の夢を捨て二人三脚で映画制作の仕事を手伝っていた。
ピエールは制作に行き詰まりを感じ始めていたある日、若い研修生のエリザベット(レナ・ポーガム)と偶然出会い、恋に落ちる。
同じ目標を持つことで、二人の間の愛を信じていたマノンだったが、いつしか二人の気持ちは少しずつすれ違っていく。
エリザベットはある時、予期せずにピエールの妻マノンが浮気相手と会っているところを目撃する。
彼女は悩んだ末に、そのことを彼に告げるのだが・・・。
夫も妻も、それぞれ浮気心を持っている。
作品の語り口はやや古典的だ。
想い描いていた未来とは少し違う現在・・・。
満たされない想いと孤独を抱える、男と女がいた。
夫がありながら、浮気心をどうすることもでき出来ない妻も、妻のいることを知りつつ男と付き合う女も、みんな勝手なものだ。
三人が三人とも愛を渇望し、彷徨っている。
そこに、傷つきながらも小さな宝石のように輝く恋人たちの影があった。
パリで暮らす男女が些細な行き違いから、浮気心を起こして嫉妬し、再び愛し合う。
俗っぽく言えば犬も食わない夫婦の腐れ縁の話に過ぎないのだ。
ただそれだけの物語である。
どこにでもあるようなそんな話が、上質の瑞々しい恋愛映画になっている。
無駄のないセリフは鋭く核心を突き、どこか愛の教科書みたいな感じがする。
この映像の感触は、ジャン=リュック・ゴダールの映画を思い起こさせる。
ちょっぴり艶やかで、軽いタッチのラブストーリーだ。
フィリップ・ガレル監督のフランス映画「パリ、恋人たちの影」は、あらゆる男女に起こりうるふとした出来心と、ささやかな嫉妬となじり愛を見つめて、どこまでも醒めている。
モノクロの画面が無垢の哀しみを漂わせている。
舞台を現代のパリに置き換えて、しかし時代も土地もはるかに超えて、時間が止まっているような情感がある。
そうなのだ。
なるほど、追えば逃げ、逃げれば追う。
この作品のキャッチコピーというわけではないけれど、愛は影のようにまことに身勝手なのである。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
次回は日本・フランス・タイ・ラオス合作映画「バンコクナイツ」を取り上げます。