出逢いは突然やってくる。
パリを舞台に、ホン・サンス監督が、エスプリのいっぱい効いたロマンス・コメディを綴って観せた。
異文化目めくるめく魅惑の街で、エゴイスティックでちょっと可愛い男と、現実的で優しい女が繰り返す、風刺交じりの小気味よさが、まったく先の読めないドラマを展開する。
思わず、ふっふ、と笑ってしまいそうな・・・。
この映画、フランス映画ではなく、韓国人ばかりが登場する韓国映画というところが興味深い。
軽妙でちょっぴり魅力的な作品だ。
ホン・サンス監督は、巧妙な話術を駆使して、洒落た会話劇を観せてくれる。
どうしてどうして鋭い観察力で、登場人物たちの感情の機微を、実にうまくとらえているのだ。
「普段着のパリ」を舞台に、旅先で思いがけなくおとずれた恋を描いて、可笑しく、かなしく、それでいて楽しい。
どこにでも転がっているような物語なのだが、パリだというのに韓国人ばかりというのも・・・。
徐々にあらわになる、「男と女の本音」が細やかに描かれている。
男の愚かさ、女の賢さを織り交ぜて・・・。
画家ソンナム(キム・ヨンホ)は、妻ソンイン(ファン・スジョン)を一人ソウルに残し、憧れのパリにやって来た。
市内の民宿に泊まり、観光に出かけるでもなく、ただぼんやりと、パリでの日々を怠惰に過ごしていた。
そんなソンナムを、見るに見かねた宿主(キ・ジュボン)が、パリ観光の案内役にヒョンジュ(ソ・ミンジョン)という留学生を彼に引き合わせる。
絵を学んでいるという彼女とともに、ソンナムはオルセー美術館へ向かい、クールベの「世界の起源」を鑑賞する。
ヒョンジュは、ルームメイトの画学生をソンナムに紹介した。
ソンナムが、カフェで見かけた子だ。
太陽のように溌剌とした、魅力的な彼女の名前はユジョン(パク・ウネ)と言った。
三人は街を歩き、彼女たちのアパートでユジョンの画集を見、韓国料理店で酒を飲み、語らった。
4日後、ソンナムは、街でばったりユジョンと再会した。
二人はカフェに入り、ソンナムは、初めて会ったときからユジョンの魅力に惹かれている自分に気づく。
ソンナムは、妻のことを気にかけながら、日を追うごとに、ユジョンのことばかり考えてしまうようになった。
ついに、彼はユジョンの心を射るべく、自分の思いを彼女にぶつけた。
思いがけない彼の告白に、ユジョンからは、
「不倫はまっぴらよ。私は結婚している男性とは付き合いません」
と、そっけない返事が返ってきた。
数日がたって、カフェでユジョンと会った。
他愛ない会話を交わすうちに、お互いの気持ちがほぐれていく。
ソンナムは、ユジョンに誘われて彼女の部屋で酒を飲んだ。
高揚した彼は、自分の気持ちが抑えられない・・・。
そんな時、ソンナムの10年まえの元彼女の自殺を新聞で知る。
ショックを受けたソンナムは、ユジョンに会いたくなって、またアパートを訪れる。
「ユジョン、お前を抱きたい」
「・・・張り倒したいわ」
そうい言いながらも、少年のように、自分の強い思いを直球でぶつけてくるソンナムの姿に、少しづつユジョンの心も動きはじめていたのだった。
「俺と一緒に、ドーヴィルに行かないか?」
そして・・・、二人の恋が始まろうとしていた・・・。
思いがけず、旅先で出会った恋は、次第に二人の本性をあらわにしていく。
昼は恋した女を口説きながら、夜は故郷に残した妻に電話で甘えてしまうどうしようもない男の二面性と、少女のように振舞いながら、ときどき魅惑的な態度で男を翻弄する女の多面性と・・・、互いの気持ちを、カードのようにたらたらと見せ合いながら、彼らの繰り広げる恋のかけひきが面白い。
ウィットに富んだ会話で、軽やかに何の嫌味もなく綴られる、洒落たラブストーリーである。
幾度も恋を繰り返し、幾つ年を重ねても、恋に落ち、愛することを止められない二人の姿に、じれったいほどのいとおしさを感じさせながら、小粋なかけひきが続く。
初めて会ったときから好きになれなかった男を、やがてどうしても愛せずにいられなくなる女の心理のプロセスが、短いがたっぷりと気の利いたエスプリを含んだ軽妙な会話で語られるとき、この作品のような上質なロマンス・コメディが生まれる。
ドラマは、きらびやかなパリの街をことさら描こうとはしない。
そこが、またいいのだ。
男と女の、いささか愚かしい恋愛沙汰を、ロマンティックに美化することもなく描いてユニークな作品だ。
ホン・サンス監督の作品には、特別な事件も起きないし、戦争もない。
人間の内なる真実を、さりげなく取り出して見せてくれている。
男と女なんてこんなものだろうと、ときにはユーモラスな気分に心も和む。
つまらないだろうなと思って観ると、これが意外によかったりして・・・。
そういう映画もあるものだ。
偶然だろうが、街角で昔の恋人に出会ったり、画学生友だちとの交流パーティやら、民宿での生活やら、とりとめのないエピソードをはさみながら、ドラマは淡々と進み、それなのに飽きさせることもない。
ホン・サンス監督の韓国映画「アバンチュールはパリで」は、パリを舞台に韓国人ばかりが揃ってちょっと奇妙な感じもするが、これが軽いノリで結構楽しい作品となった。
さすが、辛辣で正確な観察を得意とするホン・サンス監督だが、ことに男女の機微を描くのは実に上手い。
映画は、ほぼ全編がパリ・ロケだが、オルセー美術館での撮影は滅多に撮影許可が下りないはずなのに、監督がフランスでは絶大な人気を誇るホン・サンスであるという理由で、撮影を快諾したのだそうだ。
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記事に合わせて変えるなんて、なんてお洒落な。
・・・パリに行きたくなりますねえ。
行ったことありませんけど。いえ、パスポートもありませんけど(笑)。
もったいないですよねえ。
まあ、男の本音、女の本音、いろいろとありますけど・・・。
愚かな(?)男は、したたかな女に殺されてしまういまのご時世ですから。
怖いですねえ。はい。
甘いささやきには、十分気をつけよう~っと。(笑)