何気ない日常と世界の終末を思わせる狭間に、その少女は何を見たのか。
東京国際映画祭で最優秀芸術貢献賞とWOWOW賞をダブル受賞したほか、海外の映画祭でも数々の賞に輝いた作品である。。
セリフを一切排除して、映像と音だけという極めてシンプルな構成だ。
ロシアの新鋭アレクサンドル・コット監督の作品で、タイトルの通りこの映画は「実験」映画で、とくにラストシーンの衝撃は目が離せない。
驚愕の恐怖にもう言葉を失うとはこのことだ。
平凡で、淡々とした日常があり、でもそこには不穏な人類の予測が潜んでいる。
ひとりの少女が平原で見たものは何だったのか。
実話に基づいた、人類を震撼させるような歴史の傷痕がここにある。
少女ジーマ(エレーナ・アン)は、大草原にぽつんと建つ小さな一軒家で、父親のトルガ(カリーム・パカチャコーフ)と暮らしていた。
風邪が吹き渡る緑豊かな草原には、家族を見守るように一本の樹が立っていた。
少女は、毎朝どこかへ働きに出かける父親を見送り、その帰りをおとなしく待っていた。
ジーマは壁に世界地図が貼られた部屋で、スクラップブックを眺め、遠い世界へ思いを馳せていた。
地元の少年カイスィン(ナリンマン・ベクブラートフーアレシェフ)が、ジーマにほのかに想いを寄せるが、そこへどこから来たのか金髪の少年マクシム(ダニーラ・ラッソマーヒン)も少女に心惹かれる。
美しい少女に恋する三人のほのかな三角関係だ。
草原では静かな日々が続いていたが、一方、毎日家を出ていく父親の身体に、異変が起き・・・。
どこからか、武装した防護服の男たちが軍用トラックに乗ってやって来て、家の周囲をしつこく回り、少女の生活に、突然暗い影を投げかけてくる。
そして・・・、少女とその周囲の人間が営む、柔らかな日々の生活は、目に見えない大きな力に脅かされ、やがて、衝撃の週末を迎える・・・。
大草原の片隅で営まれる、ささやかだが光に満ちた日常は、愛おしくそして儚く、全ては少女の眼ざしを通して、鮮烈に描かれる。
アレクサンドル・コット監督は、旧ソ連による核実験から作品の着想を得たようだ。
ここに描かれているのは、誰かの悲劇ではなく、自分たち、いや私たちのような人間の悲劇だ。
セリフがないので、そこは理解しようと努めねばならない。
草原の一本道を真上から見下ろすショット、ラストの衝撃を暗示する仕掛けも、随所に伏線として散りばめられている。
動物の営みも若者の恋のさやあてもさらりと描かれてはいるが、そんなことよりも一見平和に見える情景の背後に、もっと強い説得力のあるメッセージが読み取れる。
むしろそれこそがこの映画の主題なのだ。
端正なショットをつないだ映像世界だが、そこには光、風、水の潤いがあり、少女の日常をファンタジックに紡いでいる。
しかし、迫りくる不穏な気配に、ドラマは急速に衝撃的な結末へと突き進む。
このロシア映画「草原の実験」は、時代も場所も特定せず、理不尽な何者かが、人類の、いや世界の終末をもたらすさまを鮮烈に表現して余りある。
主演女優のエレーナ・アンの美しさも忘れがたいが、その裏に制御不能の破壊が潜んでいるとも知らず、斬新で牧歌的な映像とともに、アレクサンドル・コット監督のほとばしるような才気もこの作品の特筆ものだ。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
次回は映画「杉原千畝 スギハラチウネ」を取り上げます。
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爆発の衝撃波が地球を三回回ったほどの威力で、TNT火薬換算で50メガトンもの威力があったとか。爆弾の重量だけで27トンという、まさに人類の狂気の産物としかいいようのない代物で。
単体の兵器としては人類最大規模ですが、こんなものをつくるのに血道を上げていたのですから・・・。
昨今の群衆の中でのテロの方が、恐怖度では遙かに上ですけれども・・・。
人類史上最大の水素爆弾の実験が行われたのは、1961年でした。
そこで生じたキノコ雲は高さ60キロメートルにも達し、1000キロ離れた地点でも見えたそうですけど・・・。
いやぁ、怖ろしいです。はい。