「ミラノ、愛に生きる」(2009年)のルカ・グァダニーノ監督が、南イタリアの孤島で繰り広げられるセレブな男女の恋の駆け引きを描いた。
この作品、ジャック・ドレー監督のアラン・ドロン主演「太陽が知っている」(1969年)のリメイク版だ。
何だ、そうだったのか。
そう、少し怖くて不気味なサスペンス映画だ。
ゴージャスなリゾートで展開するサスペンスではあるが、この作品では人の心理そのものを追っていて、それも誰かが死んですぐに真犯人を捜すといったたぐいの謎解きではない。
眩しい太陽の下、ひと夏のヴァカンスの出来事が綴られるのだが・・・。
世界的な人気を誇るロックスターのマリアン(ティルダ・スウィントン)は、南イタリアの孤島、シチリアのパンテッレリーア島へヴァカンスにやって来る。
声帯の手術を受けたばかりで、ほとんど声の出ないマリアンは、恋人で無名の撮影監督ポール(マティアス・スーナールツ)と二人だけで、優雅な時間を過ごそうとしていた。
ところがそこへ、マリアンの元彼でカリスマ音楽プロデューサーのハリー(レイフ・ファインズ)が、去年初めてその存在を知ったというセクシーな娘ペン(ダコタ・ジョンソン)を連れて押しかけて来る。
そして、歌って踊って、食べて飲んで、1秒たりとも黙らないエネルギッシュなハリーに、マリアンのセレブな休暇は掻き乱されていく。
ハリーは、実はマリアンとの復縁を狙っていたのだ。
一方で、若さを持て余したペンはポールへの好奇心を募らせていく。
マリアンの嫉妬と困惑と迷いが最高潮に達したとき、思いもよらない事件が待ち受けていた・・・。
舞台となるパンテッレリーア島は、世界遺産に登録された島である。
欲望には抗えないと告白するかのような、ローリング・ストーンズの名曲「エモーショナル・レシキュー」と、ヒロイン・マリアンが着ているディオールの衣装の数々が作品に彩りを添える。
危うくて華麗な、ひと夏のヴァカンスの物語は、旅と音楽とファッションを融合させ、刺激的な非日常へと誘っていく。
オスカー女優ティルダ・スウィントンは存在感たっぷりだし、元恋人役のレイフ・ファインズの演技も出色で、他の俳優陣も個性派をそろえて大人のドラマの展開だ。
俳優たちの力を信じて作られたようなドラマで、後半の展開はスリリングでサスペンスに満ちている。
歌のトップスターと年下の恋人、昔の男と多分その娘と・・・、彼らが一堂に会したところで穏やかなヴァカンスに軋みが生じる。
眩しい太陽の下で、危うい四角関係が怪しげな展開をたどり始めるのだ。
それが楽しいだけののんびり作品とはならず、このドラマは衝撃の展開へと転がっていく。
ルカ・グァダニーノ監督のイタリア・フランス合作映画「胸騒ぎのシチリア」は、誘惑と嫉妬に駆られた男女の行く末に胸騒ぎもするが、この終盤の急ピッチはいただけない。
どことなく薄気味の悪さが漂っていて、事件が起きた後のイタリアの警察の動きもいい加減だ。
どうもすっきりと納得がいかない。
少々お粗末な、あっけにとられるようなラストである。
総じて風景も衣装も大いに目の保養とはなっても、決して後味のよい映画とは言えない。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
次回はイギリス映画「ミス・シェパードをお手本に」を取り上げます。
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