何と何と、「忠臣蔵」をハリウッドが映画化した。
ファンタジック・エンターテインメントだ。
ところが、これが大変な曲者で、まあ驚くやらあきれるやらで・・・。
日本人が観た場合と外国人が観た場合とで、趣きはかなり異なるだろう。
登場する将軍の衣装や城郭は中華風(中国風?)だし、不思議な衣装をまとった妖女、妖怪が入り乱れて・・・、ここまで大胆に翻案して作り上げるか。
奇想天外、荒唐無稽なアクションドラマは、誇大妄想のドラマだ。
つまり、「忠臣蔵」といっても、描かれている世界はまるで違う。
似て非なる世界だ。
冒頭からいきなり、怪獣が出現してくるといった展開で、カール・リンシュ監督は、日本ではとてもありえないスケールの大きな景色やクリーチャーを登場させて、度肝を抜くようなシーンが続く。
舞台は、日本であるはずなのに中国か韓国みたいに見えたりして・・・。
大いなる違和感を覚悟でないと、いかに豪華絢爛のアメリカ版日本の時代劇といえども、鑑賞に堪えられない(?!)かもしれない。
鎖国時代の日本は、海の外の国からは神秘の国であった。
徳川綱吉が将軍職にあった日本・・・。
英国人と日本人のハーフである異端の浪人カイ(キアヌ・リーブス)は、赤穂城主の浅野内匠頭(田中泯)に助けられ、周囲から鬼子とさげすまれながらも、浅野の娘ミカ(柴咲コウ)と身分違いの愛を密かに育んでいた。
そんなある日、天下取りを狙う吉良上野介(浅野忠信)と謎の妖女ミヅキ(菊地凜子)の陰謀で、浅野家は取り潰しになる。
大石内蔵助(真田広之)ら家臣は、浪人に身を落とし、カイは出島のオランダ人の奴隷として売られてしまった。
一連の出来事から1年後、大石は百姓家に住んでいた妻りく(國元なつき)と息子の主税(赤西仁)と再会し、カイを救うべく出島へ乗り込み死闘の末彼を助ける。
そして・・・、大石は仲間たちの絆を得て、吉良との婚儀を約束させられていたミカを吉良の手から救い出すため、圧倒的な敵の戦力と恐ろしい妖術に対し、敢然として立ち向かい、ついに吉良城に侵入し壮絶な戦いが始まるのだった・・・。
・・・この作品、外国人はほんの数人しか出てこない。
ほとんどが日本人で、それで、もちろんセリフは全員、英語だ。
将軍たちの衣装は中国風で、殺陣までクンフー風だ。
ミヅキはドラゴンに変身し、テングから殺人術を習ったとされるカイと戦う。
終盤の切腹場面も、こうして見るととても珍奇で、ハリウッドの妄想がいっぱいだ。
何もかもが混然一体となって、妖しく異様な輝きと変わる。
時代考証も何もあったものではない。
映画の醍醐味と言ったら、やはり愛、復讐、名誉といった普遍的な要素が不可欠だが、それらをすべて放り込んで、日本の武士道に迫ろうとする狙いが、カール・リンシュ監督にはあったと思われる。
しかし、真田広之の切れ味鋭いアクションもどうも不完全燃焼だし、妖怪のCGも安っぽいし、菊池凜子の妖艶さも、柴咲コウの凛然とした美しさも、もっとしゃきっとしまったものにならなかったのか。
日本人が見て可笑しな場面も多々あって、それこそ噴飯ものだが、この作品、全世界へ発信されているそうだから、外国人は日本の鎖国の頃はこういうものだったのだと思うに違いない(?)。
カイ役のキアヌ・リーブスの、このドラマでの位置づけもよくわからない。
何か浮いてしまっている感じがする。
姫君ミカとの関係にしても・・・。
1年の喪明けに、吉良と婚儀を挙げるという設定だって、こじつけか思いつきもいいところだ。
そしてドラマの最後は、おきまりの47RONINの切腹の場面になるわけだが、カール・リンシュ監督は、綿密な時代考証による大河ドラマではなく、よりファンタジー色の濃い映画を作るチャンスをこの作品でものにした感じだ。
吉良城などあるはずもない、城郭の建物と屋根の組み立て方も日本にはないものだし、まあ詳細に鑑賞すればするほど滅茶苦茶だ!
その滅茶苦茶を、異邦人はことさらに面白く感じるかもしれないから、皮肉だ。
それにしてもこの時代劇で、日本人俳優たちの誰もが英語のセリフでとは・・・!
いやはや・・・。
カール・リンシュ監督のアメリカ映画「47 RONIN」は、とびきりふざけた日本映画のそれも時代劇のサンプルとして、語り継がれるかもしれない。
しかしねえ、カール・リンシュ監督、これをもって日本の文化をいままでにない形で世界に見せたかった・・・とは!
全体にマンガティックで、面白いと思ってみれば面白い作品だが、評価は分かれるだろう。
馬鹿馬鹿しいと思って見ても、退屈はしない。
百聞は一見にしかず、である。
[JULIENの評価・・・★★☆☆☆](★五つが最高点)
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