徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「トロッコ」―心に響く家族の絆の物語―

2010-05-25 21:00:00 | 映画

中学校時代の国語の教科書に、芥川龍之介「トロッコ」という短編が載っていた。
授業の時間に、それを音読したことをいまでも覚えている。
名短編だと思った。

その芥川作品を下地に、日本と台湾の家族の人生を綴ったドラマが生まれた。
小品ではあるけれど、日台の歴史にまで一歩踏み込んだ、大きな物語だ。
台湾の撮影監督を起用して、日本の川口浩史監督はこの作品で監督デビューを果たした。

ある夏の日、敦(子役・原田賢人)は、急死した台湾人の父親の遺灰を届けるために、弟の凱(とき)子役・大前喬一)と日本人の母親夕美子(尾野真千子)とともに、台湾東部の小さな村にやって来た。
素直に甘えられる弟とは対照的に、兄の敦は、悲しみも母親を案ずる気持ちも、小さな胸の中にしまい込んでいる。

近くて遠かった、この父親の故郷では、日本語を話す優しいおじいさん(ホン・リュウ)が、彼らを待っていた。
敦が父親から譲り受けた、大事な写真に写るトロッコの場所も一緒に探してくれる。

数日後、ある決意を胸に、敦は凱を連れてトロッコに乗り込む。
最初そのスピードに胸を躍らせるが、鬱蒼とした森の奥へと進むにつれて、不安がもたげてくるのだった。
大分遠くまで来てしまったからだ・・・。

・・・ささやかな冒険と、おじいちゃんが教えてくれた、沢山の大切なこと・・・。
そして、夏の終わりには、敦から暗い表情が消え、たくましい笑顔が見られるようになった。
母の夕美子もまた、雄大な自然(森)の懐に抱かれ、子供たちとの繋がりをゆっくりと見つめなおすのだった。
愛する人を亡くし、バラバラになりかけていた家は、家族の絆という最も大切なものを、この旅で手に入れることが出来たのだった。

いまも色褪せることのない、芥川龍之介の短編小説を、川口監督も幼い頃に読んでいたそうだ。
この物語をいつか映画化したいという、長年の夢がこれでかなえられた。
まだ、台湾にはトロッコの線路が残っていると知って、ロケハンに訪れた台湾で、美しい日本語で日本の思い出を語るお年寄りに心を打たれ、原作を大きく脚色し、3年の歳月をかけてオリジナル脚本を書き上げた。
きらめくように、緑の濃い台湾の風景が、詩情豊かで魅力的だ。
夕美子を迎えた義父(おじいちゃん)は、日本統治時代に日本のために尽力した経験があった。
義父母と夕美子は、次第に親しくなるにつれ、義父の日本に対する複雑な思いが明らかにされていく。

登場人物の誰もが、いい人たちだ。
最近活躍めざましく、海外でも評価が高い尾野真千子もいいが、二人の子役も少年の心を見事に演じ切っていて拍手を送りたい。
夕闇迫りくる森の中で、トロッコに乗って遠くまで来てしまって、家路を急ぐ心細い寂しさが痛いほどにわかる。
森をどこまでも走るトロッコ、その線路を歩いて戻る二人の兄弟・・・、この物語のクライマックスだ。
このシーンは、あの芥川作品を髣髴とさせる場面で、やわらかな哀愁がにじむ。
このあたりの心理描写は、小説の心理描写と重なるのだ。
そして、おじいさんの慈しみ深い眼差し、少年たちの目の涼やかさも、あくまでも自然体で・・・。
「また、いつでもおいで」――
映画「トロッコは、川口浩史監督作品としては、上出来の台湾製日本映画といえる。
芥川龍之介の名作が、舞台を台湾に変えて、ここにあざやかに甦った。
音楽も詩情豊かで、川井郁子のヴァイオリンの音色はいかにも深く優しい。
間違いなく、こころ癒される、いい作品だ。


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3 コメント

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日本と台湾 (茶柱)
2010-05-26 00:04:00
近くて遠い、遠いようで近い異国・・・。
異国のような同邦・・・。複雑な歴史の複雑な想い。

これからも仲の良い朋友でいたい、そんな国。
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Unknown (Wright)
2010-05-26 17:31:30
私もこの映画を見たい~~[絵文字:v-10]
台湾には上映日期が未定。。。

こんにちは~台湾人です
日本友人から知ります
素晴らしい映画でしょう~^^
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最近・・・ (Julien)
2010-05-28 15:37:35
台湾を舞台にした作品が、静かにブームのようになっている気がします。
それらは、日本の作品はもちろん、あちらの作品(合作も)もいろいろで、概ね好評のようです。
どこか台湾というと、やはりお隣のような親近感(?)ですかねえ。
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