北欧発の小品ながら、なかなか見応えのある一作だ。
ノ ルウェー本国でもあまり知られていない、歴史の一部を切り取ったドラマだ。
実話をもとにしているが、それほど遠い昔の話ではない。
ほとんどの人は知る由もない、不条理な現実が描かれる。
はっきり言って、暗く痛ましい、衝撃のドラマに胸を締めつけられる。
ノルウェーの首都オスロの南方に浮かぶ、バストイ島が舞台だ。
この島には、かつて11歳から18歳の少年向けの矯正施設が存在し、1915年には軍隊が鎮圧に乗り出すほどの、壮大な反乱事件が勃発した。
マリウス・ホルスト監督は、その歴史の闇に光をあて、圧倒的なリアリティと、静謐な映像美で、想像を絶する重い真実を炙り出している。
1915年、ノルウェーのバストイ島にエーリング(ベンヤミン・ヘールスター)という非行少年が送還されてくる。
そこで、彼が目の当たりにしたのは、外界と隔絶した矯正施設の、あまりにも理不尽な現実だった。
島では、厳格な院長(ステラン・スカルスガルド)のもとで、大勢の少年たちが、青い作業着をまとい、過酷な自然環境での労働に従事していた。
そこでのいじめにも似た重労働の刑罰、教育者による性的な虐待は日常茶飯事であった。
偉大なる王のように君臨する院長や、冷酷な寮長ブローテン(クリストッフェル・ヨーネル)に、エーリングはことあるごとに反発を繰り返していた。
エーリングの孤独な抵抗は、施設の優等生オーラヴ(トロン・ニルセン)ら、過剰な抑圧にさらされた少年たちの心を突き動かした。
自由を渇望するエーリングとオーラヴは、ある日、監守の一瞬の隙をついて、監禁室の暗闇から脱出し、彼らの命がけの抵抗は、ついに監獄島(バストイ島)をゆるがすまでの凄まじい反乱へと発展していくのだった。
この世の果てとでもいうべき、過酷な極限状況を生き抜く、少年たちの魂の叫びが凄い。
少年たちの、自由への渇望、友情と葛藤を活写して、その心理描写は繊細でかつみずみずしい。
昼なお日の射さない荒涼とした風景、一方見渡す限り広がる雪景色、真冬の海は結氷し、危険を顧みずにその氷の上を渡って脱走を試みる若者たち・・・。
北欧に実在したドラマには、かくも凄まじい真実が隠されていたのか。
ひたすら自由を求め、希望を抱こうとする少年たちの、澄んだ眼差しや勇気ある決断が胸を打つ。
マリウス・ホルスト監督による、ノルウェー・スウェーデン・フランス・ポーランド合作の「孤島の王」は、全篇ノルウェー語で描かれる、極限の孤島サバイバルと脱出のサスペンスは、もう見応え十分である。
院長役の名優ステラン・スカルスガルドは、「ドラゴン・タトゥ―の女」で知られるが、それ以外は少年たちをはじめほとんどが、無名のスタッフ&キャストによる作品だ。
それでいて、ノルウェー国内外において、数多くの映画賞に輝いたのも、この作品の並々ならぬクオリティを裏付けているようだ。
1915年5月20日に、実際に起こった少年たちの反乱をもとにしており、鎮圧のため150人の兵士が島に上陸したといわれる。
映画で使用された軍艦は、当時使用されたものと同型のものだそうだ。
未来に生きようとする、少年たちの力が反乱につながったのだが、そこにこのドラマの感動的な強さがある。
どんな人間にだって、命の尊厳がある。
観る者の期待に、十分応えうる、力強い物語である。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
最新の画像[もっと見る]
- 川端康成 美しい日本~鎌倉文学館35周年特別展~ 4年前
- 映画「男と女 人生最良の日々」―愛と哀しみの果てに― 5年前
- 文学散歩「中 島 敦 展」―魅せられた旅人の短い生涯― 5年前
- 映画「帰れない二人」―改革開放の中で時は移り現代中国の変革とともに逞しく生きる女性を見つめて― 5年前
- 映画「火口のふたり」―男と女の性愛の日々は死とエロスに迫る終末の予感を漂わせて― 5年前
- 映画「新聞記者」―民主主義を踏みにじる官邸の横暴と忖度に走る官僚たちを報道メディアはどう見つめたか― 5年前
- 映画「よ こ が お」―社会から理不尽に追い詰められた人間の心の深層に分け入ると― 5年前
- 映画「ア ラ ジ ン」―痛快無比!ディズニーワールド実写娯楽映画の真骨頂だ― 5年前
- 文学散歩「江藤淳企画展」―初夏の神奈川近代文学館にてー 5年前
- 映画「マイ・ブックショップ」―文学の香り漂う中で女はあくなき権力への勇気ある抵抗を込めて― 6年前
もちろん、映画ですから、脚色されていないところがないとは言えませんが、核心に触れる事実には驚かされることが多いものです。
映画は‘発見’があります。
事実は小説よりも奇なり,ですね。