アラサー女性の、人生リスタートを描いたドタバタ喜劇である。
何も考えずに生きてきた、31歳子持ちの女性のドラマだ。
その人生再スタートのきっかけが、お弁当だそうだ。
大いに楽天的、あけっぴろげな、あれやこれやの騒動劇なのだ。
入江喜和の漫画を映画化したのは、「いつか読書する日」の緒方明監督だ。
永井小巻(小西真奈美)は、下町育ちで、31歳の主婦だ。
生活力のない、年下のダメ亭主・範朋(岡田義徳)に愛想をつかし、離婚届を突きつけ、娘ののんちゃん(佐々木りお)とともに、母・原フミヨ(倍賞美津子)のいる実家へ出戻った。
のんちゃんを幼稚園に入れ、まずは仕事探しをはじめるが、長年主婦で、キャリアなし、職なし、お金なし、おまけに社会常識もないときている。
そんな小巻に、社会は甘くない。
受ける面接は次々と断られ、かつての同級生であり、のんちゃんの幼稚園の先生の紹介で、自給2000円で水商売のバイトをはじめても、早々にセクハラにあい、喧嘩の末にやめてしまった。
なけなしの貯金は底をつき、日々の生活は苦しくなるばかりだ。
小巻は、自暴自棄だ。
さらに、範朋が現われ、離婚には絶対に応じないと主張する。
一方で、小巻は、初恋の同級生と16年ぶりに再会し、互いに惹かれあっていくのだったが・・・。
そんな小巻の唯一の才能は、お弁当作りだ。
娘のために作ったのり弁が、幼稚園で大評判になり、大人たちにもお弁当を作るようになっていく。
自分の道を切り開きたい小巻は、以前立ち寄ったことがあり、サバの味噌煮の味に大感激した小料理屋の主人(岸部一徳)に、弟子入りを懇願する。
小巻は、主人の店舗を昼間だけ貸してもらうことになり、お弁当屋の開業に向けて人生の再スタートを切ることになった。
さて・・・?
お弁当から伝わる、温もりや喜びはよいとしても、いささかドタバタと騒々しい。
小西真奈美が、アラサー女性の心もとなさを丸ごと感じさせて好演、女の辛さみたいなものも伝わってくる。
でも、かなり気負いすぎの感がしないでもない。
彼女が、初恋の同級生と再会して、彼の家でいい雰囲気になっているところへ、突然父親が入ってきたりして、この場面はせっかくのムード台無しで、思わず噴き出してしまった。
しかし、いかにも漫画的な出来すぎのキャラクターがそろって、台詞で言われていることの論理にわかりにくいところもある。
いろいろドタバタやっても、決定性がなく、運命が見えてこない。
タイトルに名前が出ているのんちゃんに、子役なりの面白い芝居を引き出す場面もない。
30歳前後の女性が、見事な弁当の技を持っているあたりも驚きだ。
何も考えず生きてきたアラサー女だというけれど、彼女の作るのり弁は五重にもなっていて、かなり凝ったものだが、そんなにうまくできるものなのか。
緒方明監督の映画「のんちゃんのり弁」は、ドラマの展開に荒削りなところもあるが、人間のひたむきさ、可笑しさ、愛しさを描いた一応ハートフルな作品だ。
ラストシーンは、お弁当屋さん開店のシーンで終わるのだが、ドラマのこの先は、そのまま安易な生活の救済にはつながらないような予感もする。
小料理屋主人役の岸部一徳がいい。
分別ある大人たちは、みんなしっかり生きている。
それなのに、小巻をめぐる30がらみの夫や幼なじみも、どうも総じてだらしがない。
余談だが、この映画の製作会社(ムービーアイ・エンタテインメント)は、8月はじめに負債総額42億円で破産申請し、事実上倒産してしまったそうだ。
小西真奈美主演のこの作品は、一時お蔵入りが噂され、彼女もかなり落ち込んでいたそうだ。
結局は、別の配給会社で公開されることになって、ひと安心したいきさつがある。
でも、出演者やスタッフのギャラは支払われたのだろうか。
もしかして、タダ働き(?)ではないかと心配するむきもある。
洋画の配給に強いとされる、このムービーアイという会社は、最近の洋画不況の荒波にもまれ続け、赤字作品が続いていたようだ。
ヒロインの小西真奈美が、のり弁を持って(?)作品宣伝のために東奔西走なんていうことも・・・。
映画会社倒産の後遺症で、彼女には多くの応援と同情の声が寄せられているそうだ。
最新の画像[もっと見る]
- 川端康成 美しい日本~鎌倉文学館35周年特別展~ 4年前
- 映画「男と女 人生最良の日々」―愛と哀しみの果てに― 5年前
- 文学散歩「中 島 敦 展」―魅せられた旅人の短い生涯― 5年前
- 映画「帰れない二人」―改革開放の中で時は移り現代中国の変革とともに逞しく生きる女性を見つめて― 5年前
- 映画「火口のふたり」―男と女の性愛の日々は死とエロスに迫る終末の予感を漂わせて― 5年前
- 映画「新聞記者」―民主主義を踏みにじる官邸の横暴と忖度に走る官僚たちを報道メディアはどう見つめたか― 5年前
- 映画「よ こ が お」―社会から理不尽に追い詰められた人間の心の深層に分け入ると― 5年前
- 映画「ア ラ ジ ン」―痛快無比!ディズニーワールド実写娯楽映画の真骨頂だ― 5年前
- 文学散歩「江藤淳企画展」―初夏の神奈川近代文学館にてー 5年前
- 映画「マイ・ブックショップ」―文学の香り漂う中で女はあくなき権力への勇気ある抵抗を込めて― 6年前
上手い役者さんになると、むしろオーバーな演技を抑えて、巧みな表現力に感心させられるものです。
(抑えた演技の中に、喜びや怒り、悲しみをにじませて・・・)
それはもう、台詞なんかなくても、ちゃんと芝居になっているといったふうに・・・。はい。
凝った映画がない代わりに「製作側の素」が図らずもでてしまったのでしょうか・・・。