夕暮れ時、どこからか、秋刀魚を焼く煙と香ばしい匂いが、風に乗って流れてくる。
お腹が鳴って、食欲をかきたてる。
早速、塩焼きでいただくことにする。
あの、ジュワ~っとする脂(あぶら)の感触がたまらない。
この脂が、健康パワーの源なのだ。
脂に含まれる、DHA(ドコサヘキエンサン)と脂肪が、人間の脳を活性化させる働きがあるのだそうだ。
何でも、人体には元々ある物質で、脳の神経細胞の細胞膜にあって、情報伝達を助けていると考えられているのだ。
安価な魚では、秋刀魚が最も高く含まれていて、100グラムあたりで1.7グラムもあるといわれる。
これは、マイワシの3割増し、サバの2倍以上だそうだから、秋刀魚はまさに魚の王様だ!
いまが旬で、美味しくて、安くて、しかも栄養満点なら言うことなしである。
2、3日続けて食べたっていい。
脳の中のDHA量が増えると、学習能力も向上するらしいのだ。
人は、加齢とともに脳の働きが衰えるけれど、DHAはそうした衰えを食い止め、ときに向上させることがわかっている。
栄養学の専門家も、1日1グラムの摂取を推奨している。
秋刀魚一匹に含まれるDHAは、2グラム前後だから、一日の必要量は軽くクリアする。
毎日食べれば、中性脂肪が下がり、脳は活発化し、若返るかも・・・(?)。
何とも、いいことずくめではないですか。
―閑 話 休 題―
秋刀魚で想い出されるのは、佐藤春夫の「秋刀魚の歌」だ。
文豪谷崎潤一郎と佐藤春夫の、妻譲渡事件は、昭和初期の文壇に大きな波紋を呼んだ事件だった。
マスコミ、新聞もセンセーショナルに報じた。
このときの、悲しい、孤独な男の失意の心情が「秋刀魚の歌」になったことについては、2年前の平成19年9月21日の、本欄(ブログ)で詳述させていただいた。
これはのちに「小田原事件」といわれた、文豪と彼らをめぐる女の物語として浮かび上がってくる。
それは奇しくも、純文学の大家をめぐる、ひとつの人生ドラマだった。
秋刀魚の季節が来て、それを食するとき、あの時代に、小田原の谷崎邸の夕餉の食卓に出された秋刀魚のことがしのばれ、「秋刀魚の歌」を想い出してしまうのだ。
佐藤春夫の詩に登場する、「愛うすき父を持ちし女の児」の鮎子は、春夫の甥に当たる人と結婚してのち、どんな人生を送ったのだろうか。
どうでもいいことなのに、そんなことを、ふと思ってみたりした。
詩というと、日本では古来花鳥風月が主役であったのに、どちらかといえば俗っぽい、げすな魚といわれる秋刀魚は、臭(にお)いからも味からも、恋愛には似つかわしくない。
哀切な詩情を謳うには、たとえそれが事実であっても、主材として敢えて秋刀魚を取り上げたことに、詩人の、我とおのが傷心を自嘲するような、複雑な泣き笑いが感じられもする。
・・・・あはれ 秋風よ 情(こころ)あらば伝えてよ
男ありて
今日の夕餉に ひとり
さんまを食らひて
思いにふける と・・・・
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秋刀魚でお月見というのは、また格別・・・?
地デジ講座は14日はなくて、17日しかないそうです。すでに記事では訂正済みだとは思いますが、念のためにお知らせいたします。