徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「イマジン」―たとえその目は見えずとも障害を超えて生きる希望と勇気―

2015-07-06 11:00:00 | 映画


 ポーランド出身の映画人の活躍が、このところめざましい。
 アンジェイ・ヤキモフスキ監督は、本作が長編第三作目だ。
 視聴覚障害者の診療所で働く、教師と教え子との淡い恋物語が、研ぎ澄まされた音響設計と自然光を駆使した映像美で綴られる。

 全編ポーランドロケによる国際色豊かな作品で、ヤキモフスキ監督は日本では初めてのお目見えだが、力量ある演出は特筆ものだ。
 リスボン市街の詩情も豊かに、音響と映像を可能な限り生かして、冒頭からラストまで、心揺さぶられる作品の誕生だ。
 詩的な美しさにあふれた映像が、スクリーンに展開する。










リスボンにある視覚障害者のための診療所・・・。

世界各国から、幼児から成人までの男女が集まり、寄宿して治療やトレーニングを行っている。
そこに、盲目のイギリス人青年教師イアン(エドワード・ホッグ)が着任する。
彼は音の反響などで距離や方向を推測し、白杖に頼らずに街を歩くことができる「反響定位」の実践者だ。
通りを眺めている老人たちよりも、街が見えるのだという。
この方法によると、外の世界に触れる素晴らしさまで体感できることから、イアンの隣室に引きこもっているドイツ人女性エヴァ(アレクサンドラ・マリア・ララ)は関心を示し、二人はデートを重ねるようになる。

エヴァは、イアンと杖なしで街に出かける。
しかし、安全を第一とする診療所側は、彼の教育は危険だと懸念し、イアンに一方的に解雇を言い渡した。
これ以上、彼の授業で生徒たちを危険にさらせないというのだった。
診療所に残りたいと嘆願するイアンの希望は、受け入れられない。
イアンが診療所を去る日が来る。
イアンは悲しみにくれる生徒たちを後にして、ひとり淋しく町へ向かって歩いていく。
そのイアンのうしろ姿を追いかけて、エヴァが外へ出ていく。
この映画の後半からラストにかけての、ヤマ場である。
目の見えない二人は、果して出会うことができるのだろうか・・・。

このドラマに見られる「反響定位」という技術は、まるで闇の中を飛ぶ蝙蝠のように、舌や指で音を出し、その反響で周囲を判断する。
イアンを演じるエドワード・ホッグは目が見えるが、訓練を重ねて、見えない状態で車道を横断したり、狭い路地を歩いたりできるようになったそうだ。
子供たちは、杖を用いずに歩けるこの技術を真似しようとする。
だが、この「反響定位」については、推進する運動に対して、安全性に疑問を持つ声もある。

目が見えないということの恐怖、それでも外界を知りたいという思い・・・。
古都の陽光の中で、人間が本来持つ能力の素晴らしさを垣間見せ、音と光に彩られた物語は、詩情豊かに静寂で独創的な画面を作り出している。
ものを見る、ものが見えるということはどういうことだろうか。
あらためて、そんなことを考えさせられる。

主人公イアンが、白杖なしで怯えるエヴァを街に連れ出すシーンはとても印象的で、自分のことのようにはらはらする。
街には危険がいっぱいある。
道路には段差があり、車やバイク、路面電車も走っている。
行き交う人々の靴音、鐘の音、雑音もあって、よく仕組まれたこの物語も緊迫感が漂い、しかし映像は繊細で美しい。
主役二人を取り巻く生徒たちは、実際に盲目だが、この映画でもそれがよく生かされている。

出演者のエドワード・ホッグは英国人、アレクサンドラ・マリア・ララはルーマニア系ドイツ人、子供たちはポルトガルだけでなく英仏からも集められたそうだ。
そして、アンジェイ・ヤキモフスキ監督はポーランド人だ。
多民族(!)合作で作られた映画「イマジン」では、視覚以外に外の世界が語りかけてくる触感が、光や音にも質量があって、それらが五感の隅々まで人の心を揺さぶり続ける作品として描かれている。
眼の見えない男女のあわやかな恋というロマンティックなストーリー、パフォーミングアートのような授業風景、そして、路面電車の行き交う古都リスボンのしっとりとしたたたずまいに詩情が溢れている。
いい作品だ。
       [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回は映画「あの日の声を探して」を取り上げます。


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2 コメント

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反響定位 (茶柱)
2015-07-06 22:54:04
ソナーとかレーダーなんかがそうですね。
私にはみえない状態で街を歩くなんて無理ですが。
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アメリカの少年・・・ (Julien)
2015-07-09 15:45:15
故ベン・アンダーウッド(1992年~2009年)は、幼年期に杖をつくことをやめ、健常者のティーンエイジャーと変わらぬ生活をし、反響定位の技術を完成の域まで高めたといいます。
この盲目の少年は、スケードボードを楽しみ、歩道上で自転車に乗り、やすやすと障害物をよける、バスケットボールをプレイする、そしてコンピューター・ゲームに興じるといった日常を楽しんだのです。
この内容は、1907年にドキュメンタリー映画としても製作され、アメリカでは大きな話題を呼んだそうです。
いやあ、驚異的なことですね。まったく・・・。
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