徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「リンカーン」―苦悩するアメリカ合衆国大統領の光と影―

2013-05-02 12:35:01 | 映画


 自由というのは、果たして見果てぬ夢であったのか。
 理想主義と現実主義の挟間で、リンカーンは苦悩する。
 「奴隷制度」廃止という偉業の裏で、あまたの命を犠牲にしなければならなかった。
 そのアメリカ第16代大統領の、最晩年を描く。

 スティーヴン・スピルバーグ監督は、12年間の構想ののち、念願の企画を実現させた。
 主演のダニエル・デイルイスは、アカデミー賞主演男優賞に輝いた。
 彼は、過去にも主演男優賞を2回受賞しているから、今回で過去最多となる。
 この作品、正統派の力作ではあるけれど・・・。。







       
1865年1月、4年目に入った南北戦争も終末を迎えようとしていた。

エイブラハム・リンカーン(ダニエル・デイルイス)が大統領に再選されて2ヵ月後、彼は大きな苦境に立っていた。
自身が目指す、奴隷解放の賛否をめぐって起きた南北戦争では、多くの若者の命が奪われていた。
「すべて人間は自由であるべき」と信じるリンカーンは、人間の尊厳と戦争の終結の狭間で、合衆国憲法修正第十三条を議会で可決しようとしていた。
しかし、長引く戦争への嫌気から、味方である共和党の中からも、奴隷制を認めて、南軍との和平を実現すべきだという声が高まっていた。

リンカーンは、家庭内にも複雑な問題を抱えていたが、国務長官ウィリアム・スワード(デヴィッド・ストラザーン)を介し、あの手この手で、反対派の切り崩し工作に取り掛かる。
そしてリンカーンは、下院議会に憲法改正法案を提出する。
アメリカ合衆国大統領として、またひとりの父として、人類の歴史を変える決断が下される。

憲法修正案は結局可決されるのだが、それまでの1ヵ月間をドラマは克明に再現する。
奴隷廃止については、当時多くのアメリカ人は反対だったそうだ。
にわかには信じがたい話だ。
そこには、リンカーンという人間の、したたかな現実主義も垣間見られる。
そんな中にリンカーンを支えたのは、未来を見据えるヴィジョン、理想であった。
彼は、南北戦争の終結よりも、奴隷問題を優先して考えていたために、自国の多くの命を犠牲にしてしまったのだった。
偉大な先見者の目線で、歴史というものを見直すとき、彼の決断をこのドラマで追体験できる。

憲法改正にこだわった理由とか、自由に対する考え方も、そこそこ描かれている。
戦争映画ではないから、戦闘シーンもなく、やたらとリンカーンが考えているシーンばかりが多く、もう参りました・・・。
反対派の議員を、どうしたら有利に寝返らせることができるか、数合わせにやっきとなっているところも・・・。
英国出身のダニエル・デイルイスは、南北戦争やリンカーン大統領についてあまり詳しくなかったそうで、1年間かけて伝記を読みアメリカの歴史を猛勉強したといわれる。
役作りの苦労は分かる。
政治家は偉大であるほど孤独なもので、アメリカの大統領も常に孤独で、ましてやこうした内戦時はなおのことではなかったか。

スティーヴン・スピルバーグ監督アメリカ映画最新作「リンカーン」は、命がけで夢見た「真の自由」を描いた力作だ。
硬派の作品として、愛と尊敬が込められたこの映画が、どうもアカデミー賞を最初から意識していたのは見え見えで、ああやっぱりという感じだ。
リンカーンは権力争いで勝利を手にしたが、家庭では息子を失い、複雑な性格の妻メアリー(サリー・フィールド)との間には亀裂を生じ、公人と家庭人としての二つの面を演じきった、ダニエル・デイルイスオスカー受賞はさもありなんという感じを強くした。
正統派のドラマとして、リンカーンの知られざる側面を多面的に描こうとしている努力は認めても、決して楽しめる作品とはならない。
合衆国議会の多数派工作を見ても、こういうことはどこの国でも今も昔も変わらない。
しかし、何故いまリンカーンなのか、スピルバーグ監督の意図するところがいまひとつよく理解できない。    
       [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点


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2 コメント

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難しいものですね (茶柱)
2013-05-02 23:33:39
映画作りというものも・・・。
とはいえ,映画作家である以上は「名前の残る映画を作りたい」と考えるのも解らなくはなく・・・。

ウムム。
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莫大な費用で・・・ (Julien)
2013-05-06 11:07:27
何十億という製作費をかけて作られる映画も、わずか100万円で作られる映画もありますからね。
しかし、作品の良しあしは、お金では決まりませんものね。
いま興業中心主義、商業主義から離れて、独立系の映画が、精いっぱいに頑張っていますね。
善い映画を作ろうとする人たちの、いかに多いかにも驚きますね。
でも、これ、いいことではありませんか。
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