徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「イントゥ・ザ・ワイルド」ー若者は荒野を目指したー

2008-09-06 21:00:00 | 映画

1992年夏、アメリカ最北部アラスカ州の荒野で、一人の若者の死体が発見された。
このことをマスコミが大々的に報じ、全米の多くの人々の関心を引いたのは、彼の死があまりにも謎めいていたからだった。
エリートコースを約束されていた若者が、ある日突然すべてを捨てて旅立ち、2年間のさすらいの果てに、アラスカで早すぎる最期を迎えたのだ。

この話が、のちにジャーナリストで登山家のジョン・クラカワーの「荒野へ」として出版され、一躍ベストセラーになったのだ。
この原作を、ショーン・ペン監督が映像化した。
映画化権獲得には、10年近い歳月を要したそうだ。

作品は、死という陰鬱なイメージとはほど遠く、眩しいほどの生の輝きに溢れている。
ここに登場する旅人は、ただ単に世をはかなんで自らの生を絶とうとした、そんなネガティヴな若者ではなかった。
22歳の彼が、誰にも行き先を告げずに旅に出たのは、全く新しい価値観の人生を生きるためであった。
そして、行く手にいかなる厳しい試練や、想像を絶する孤独が待ち受けていようとも、真の自由や幸福を‘探求’するためだった。
黙って、たった一人で、途方もない壮大な旅に・・・。

主人公クリストファー・マッカンドレス(エミール・ハーシュ)は語る・・・。
 「幸福が現実となるのは、それを誰かと分かち合ったときだ」
初めて経験する自由気ままな旅は、クリスの気分を高揚させる。
家族の過去、押しつけがましい両親からの抑圧、社会が決めたルールや面倒な義務からの、絶対的な自由を勝ち取るため、彼はひたすら北へ向かう。

大人から見れば無鉄砲すぎるクリスが、旅の途中で出会ったのは、頭でっかちなクリスの無鉄砲さを諫めてくれる陽気な兄貴分ウェイン(ヴィンス・ヴォーン、コロラド川をカヤックでスリりングに下り、メキシコの国境あたりでは、クリス同様気ままに旅するヒッピーのカップル、レイニー(ブライアン・ダーカー)とジャン(キャサリン・キーナーと知り合い、お互いに過去を引きずる者同士、たちまち意気投合し、第二の家族のような関係を築く。

そのコミュニティで出会った、16歳の少女トレイシー(クリステン・スチュワート)との恋よりも、もっと大切な目的を掲げているクリスは、彼女の淡い恋心をも振り切って旅を続ける。

2年に渡る、アメリカ横断の旅も終盤に入って、いよいよアラスカへ向かう直前に出会った、孤独な老人フランツ(ハル・ホルブルック)との間には、ともに過ごした数週間で、世代を超えた、強い友情の絆が育まれていたのだったが・・・。

人生において必要なのは、実際の強さよりも強いと感じる心で、一度は過酷な状況のもとで、たった一人身を置いて、それに立ち向かうことであった。

若者の生涯は、死へと向かっていく。
たどり着く先が死であっても、その瞬間瞬間のクリスは、生の喜びや驚きに溢れている。
出来れば、生きて欲しかった・・・。
そう思うのと同じように、この窮屈な今の時代に、彼が文明に背を向けたことが理解出来る気がする。

ショーン・ペン監督の底力を見せるアメリカ映画「イントゥ・ザ・ワイルドは、ときにドキュメンタリーではと見間違うほどの迫力で、観る者の心に揺さぶりをかけてくる。
そう、険しい大自然の中で、わくわくするようなあの臨場感はこたえられない。
燃えるような、魂のリリシズムが一杯に感じられる。
ただ、物語の最後のシーンは工夫のあとも見えるが、少しあっけないのではないか。
・・・アラスカの大地に、その青春を埋めた若者の物語は、アカデミー賞の呼び声も高いようだ。