徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「アメリカを売った男」ーロバート・ハンセン事件ー

2008-05-22 14:15:00 | 映画

犯罪に手を染めた捜査官がいた。
彼を追う若い捜査官がいた。
追う者と追われる者、両者の心理戦は、世界を震撼させた、史上最大のスパイ事件と言われる。
世に言う、ロバート・ハンセン事件・・・。

アメリカ映画を観た。
アメリカ史上最大の情報災害と呼ばれる、この事件を二ヶ月間に渡って追ったドラマだ。
ロバート・ハンセンはFBI捜査官でありながら、祖国を裏切り、FBIのみならずCIA、ホワイトハウス、国防総省、国家安全保障局の極秘文書を、KGB(ソ連国家保安委員会)に売り続けていた。
彼が売った情報の被害総額は、10億ドルを超えるとされ、その中にはKGBに送り込んだアメリカのスパイの名前なども含まれており、50人以上の同胞を死に追いやったとされている。
彼は、現在もコロラド州連邦刑務所に、終身刑で服役中だと言われる・・・。

ビリー・レイ監督によって、この史上最大のスパイ事件が、忠実にスクリーンに再現された。
物語は、ロバート・ハンセンが逮捕されるまでの二ヶ月間を克明に描く。
狡猾で、多面的な人格を持っているとされるハンセン役は、アカデミー賞俳優のクリス・クーパーが怪演し、ハンセンを探るために、おとり捜査を命じられた若手捜査官オニール役を、若手実力派のライアン・フィリップが演じている。

野心あふれる、若きFBI捜査官エリック・オニールは、女性上司のケイト・バロウズ(ローラ・リニー)に呼び出され、新たな指令を言い渡される。
それは、組織内でNO.1の捜査官と謳われる、ロバート・ハンセンをマークすることだった。
ハンセンが、20年以上もの長い間、ロシア圏にアメリカの国家機密を漏らしているという、衝撃の事実が明かされる。
真実に迫っていくオニールと、追われるハンセンの、息詰まる心理戦が見どころとなっている。
ハンセンを演じる、クリス・クーパーの存在感躍如といったところで、“悲しき犯罪者”を見事に演じきっている。

FBIで、25年にわたって、対ソ連・ロシア諜報戦の責任者として、ロバート・ハンセンは周囲の尊敬を集めていた。
彼は、実に長い間、二重スパイとして仮面の生活を送っていたのだ。
当時の元FBI長官をして、「500年に一度の大洪水」と言わしめたほどの、国家に対する裏切り行為であった。
当然、被害額は空前絶後、現在のアメリカの国家安全保障にも、暗雲を投げかけていると言われる。
正確な金額の算出は、不可能とも・・・。

アメリカの弱みとなる、機密を握ったことで、当時ソ連の指導部が、「核戦争に勝てる」とまで信じて、攻撃的核戦略の構築に取り組んだことは、容易に想像できる。
その狂気のシナリオが、現実のものとならなかったのは、まさに奇跡的な幸運だったかも知れない。

アメリカ映画 「アメリカを売った男」で描かれた事件が、一般に知られるようになったのは、2001年9.11同時多発テロの数ヶ月前のことだそうだ。
その年の2月18日、全力を投じた、男女50名以上のFBIチームによるたゆまぬ調査の結果、特別捜査官ロバート・ハンセンが逮捕され、ハンセン事件がスクリーンに映し出されることになった。

裏切りを隠し続けた、男の裏側で何があったのか。
いろいろと、興味はつきない。
二十年間以上も、実際に続いていた事件だ。

この作品 アメリカを売った男は、事件をロバート・ハンセン逮捕直前の二ヶ月間に絞り込んで、濃密に描いた。
ドラマの重厚な演出は大いに気に入ったけれど、そのわりには、結末のあっけなさに一抹の物足りなさは残った。