徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「四分間のピアニスト」ー深き魂の叫びー

2008-05-13 05:00:00 | 映画

人は、誰でも生きる希望を持っている。
その生きる希望を打ち砕かれたピアニストが、自分の才能を信じてくれる女性教師との出逢いを通して、再び人生の輝きを見出すのだ。
そこに、声なき魂の演奏(さけび)が聴こえる・・・。

シューマン、モーツアルト、ベートーベン、バッハといった典雅なクラシックの名曲はもちろん、ジャズやロックなど他ジャンルのテイストを、自由にまた大胆にアレンジしたピアノ曲など、多彩な音色が奏でられて、音楽と言う概念を打ち破る、新しいタイプの映画とも言える。
ドイツアカデミー賞作品賞主演女優賞をさらった作品 「四分間のピアニスト」 は、クリス・クラウス監督が、8年の構想を費やして製作されたという。

クラウス監督は、或る新聞記事に目をとめた。
それは、刑務所でピアノを教えている80歳の女性に関する記事であった。
そこからクラウス監督の創作が始まり、映画のヒロイン、ジェニーには、1200人のオーディションで全く無名の新人ハンナー・ヘルツシュプルングが選ばれた。
天才ピアニストを演じる主人公の役は、そのゆえにこそエキセントリックな言動とその奥に秘められた無垢な魂の表現が要求され、圧倒的に存在感のある演技を見せてくれることとなった。

ピアノ教師として刑務所にやって来たクリューガーモニカ・ブライブトロイは、問題視されている少女ジェニーが、机を鍵盤がわりに無心に指を動かす姿を見つける。
愛に裏切られ続け、過ちをおかした囚われの少女ジェニーの、類いまれなる才能を見出したクリューガーは、それを花開かせることこそが残り少ない自分の人生の使命だと考え、所長を説得して特別レッスンを始める。
クリューガーにも、彼女自身の持つ過去の心の傷があったのだ・・・。
そして、その日から、全く違う世界に生きていた、二つの魂のぶつかり合いが始まったのだ。

全てのものに牙をむき、自らを傷つけようとするジェニーだったが、自分と同じ孤独を抱えるクリューガーの情熱にいつしか心を開いていくのだった。
・・・しかし、新たな悲劇が二人を襲った。
ジェニーが陰謀にはめられ、暴力事件を起こしてしまったのだ。

コンテスト決勝があと数日後に迫っているのに、ピアノを禁止されたジェニー・・・。
彼女を助けようとするクリューガーは、解雇されてしまった・・・。

・・・自由をつかむために残された時間は、わずかであった。
クリューガーは、法をも怖れぬ驚くべき計画を実行に移した。

ドイツオペラ座の、晴れの舞台・・・。
そこには、狂気のようにピアノの鍵盤をたたくジェニーの姿があった。
それは、自由への切符を勝ち取るためか?
四分間のピアノ協奏曲・・・、このラストシーンの、すさまじいまでの鬼気迫るステージに、誰もが釘づけになった。
演奏が終わって、沈黙の間があった。
すぐに起こった、聴衆の万雷の拍手は鳴り止まなかった。

しかし・・・、四分後ジェニーを待っていたのは・・・?!

息づまるラストの瞬間まで、物語の中でのジェニーは、陰のある暗い瞳で押し黙っている。
この衝劇的なラストシーンのために、クリス・クラウス監督は渾身の力をこめた。
作品全体が、ピアノフォルテと言ってもいい。
心揺さぶられる、圧巻(!)のラストである・・・。
見事なまでのまとめかただ。

音楽に、ドイツでは著名な日本人ピアニスト(白木加絵)を抜擢したのも興味深く、最後のコンサート場面で、彼女とハンナー・ヘルツシュプルングのショットを混在させて編集したと言われるけれど、違いが分からなかった。
始まりから終わりまで、思わず引き込まれていって目が離せない。
ドイツ映画 四分間のピアニスト は、これまでの既成概念にとらわれない、よく出来た音楽映画だ。