梅雨が明けた。
小学校の一学期が終わった。
終業式から帰ってくるなり、少女は、いきなり泣きじゃくりはじめた。
明日から、楽しい夏休みのはずだった。
母親は、心配そうに子供に尋ねた。
「まあ、いったいどうしたっていうの?」
少女は泣いてばかりで、物も言えない。
母親が、娘の顔をじっと見つめると、少女はやっと重い口を開いた。
「先生が・・・、クラスの担任の先生が・・・」
「先生がどうかしたの?」
「ついこの間から、学校に来なくなって・・・」
「あら」
「終業式にも来なかった。それも、無断でよ。ねえ、変よねえ」
「夏休みに入るというのに?」
「そうなの」
「他の先生は何て言ってるの?」
「分からないって。絶対変だよ」と、少女はまだ泣きじゃくっている。
「どうかしたのかしら?何かあったのね」
少女は涙をふきながら、苦しそうに言った。
「何か、先生悪いことをしたみたい。みんなが噂しているもん」
「噂って?」
「知ってるでしょ、お母さん。ニュースでこれだけ騒がれているんだもの」
母親は、うすうす感じてはいたが、なるべくならその話には自分の方から触れたくなかった。
今の子供たちは、世の中の出来事に敏感だ。
知らないと思っても、子供は何でも知っている。
おそるおそる、彼女は娘の顔を覗いて、
「あの、沢山お金を払って先生になった話ね?」
「お母さん、あたしが知らないとでも思ってた?」
母親は、ちょっと戸惑いを見せた。
「そんなことはないけれど・・・。それで、そのことに先生が関わっているらしいのね?」
「だって、あれだけ学校で騒がれていて、何もないはずないでしょ?」
「それは、そうでしょうけど」
「それにね、この前辞めた校長先生の、替わりの先生が今日来て挨拶があったの」
校長が、今回の教員採用に絡む汚職で逮捕されたことは知っていた。
そして、今度は担任の教諭だ。
少女のクラスの担任は、とても人気のある、イケメンの若い男性教師だった。
母親は、授業参観や家庭訪問でも会った事があって、印象はよかった。
「友達がね、他の先生にそのことについて聞くと、ひどく怒られたの」
「だって、まだはっきりしたことじゃないでしょ?」
「あたしだって、先生が、先生になる時400万円もかかったなんて、思いたくもない。それって採用試験に落ちそうな人
のすることよね。・・・でも、きっと間違いないわ。そうなんだわ」
「・・・」
「学校に、県の偉い人や警察の人が来ていたし、とても変な感じだった」
「そう?」
「だって、何もなければ、警察の人なんか来ないでしょ」
母親は、娘の言うことに黙ってうなずくほかはなかった。
少女は、落ち着きを取り戻して言った。
「急に辞めた校長先生は、警察に捕まったんでしょ。それで、あたしのクラスの担任の先生も・・・」
「・・・」
「夏休みのキャンプにも参加しないらしいし、もしかすると9月からの新学期には出て来ないかも・・・」
少女は、がっかりしたように肩を落とした。
そのとき、少女の目にはもう涙はなかった。
次の日、少女はクラスメートからのメールで、担任教師が9月以降の新学期からも、おそらく学校には出て来ないだろうと言うことを知らされた。
PTAの役員からの話だから、きっと間違いないということだった。
真相は、そのうち解るだろう。
先生が病気だとは聞いていないし、思いたくなかったが、やっぱりそうなのか、と少女は思った。
母親に、そのことを告げると、
「生徒に顔向けできないわね。あんなにいい先生が・・・」
「お母さん、先生って、みんながみんな悪いことしているの?」
「そんなことありません、決して。一部の人だけですよ」
「最近、職員室の中まで、何だか様子が変だったもの」
「変?」
「そうよ。何か、仲のいい先生同士までよそよそしかったり・・・」
「・・・」
「そういうことってさ、いま、みんな敏感なんだよ。神経質になってるっていうのかな・・・」
「真面目な先生には迷惑なことね。もっとも、あなたたち生徒が一番の被害者だわね」
「高いお金を払って、教育委員会や議員の先生と縁故がなければ、これからは先生になれないの?」
「そんなこと、絶対ないわ。そういうことは、許されないことなんだから」
母親は、自分の娘に毅然として言った。
これまでの教員の不正採用について、取り消しを検討する方針を教育委員会は決めたらしいが、学校と言う教育現場の混乱は、当分避けられそうにない。
そして、こんなことで、最大の被害者が学校の生徒たちだとなれば、その悪の根は深い。
少女はぽつりと言った。
「あんなに、いい先生だったのに・・・」
母子家庭に育った少女は、優しい男の先生のどこかに、自分の父親像を描いていたのかも知れなかった。
あの、いつも誰にでも親切だった担任の教師が、不正に採用された教師だったなどとは思いたくない。
思いたくはないのだ。
・・・しかし、少しずつではあるが、少女の胸のうちで、疑惑は黒々とした森のように、次第に大きく広がっていくのをどうすることもできなかった。
そのことが、彼女には、無性に悲しく腹立たしかった。
学校生活での、楽しい思い出もいっぱいあるのだろう、少女はまた涙ぐんでいた。
そんな娘の肩にそっと手をおいて、母親はさとすように言った。
「でも、新学期には、きっと、ちゃんとした立派な先生がまた見えるわ」
居酒屋など飲食店でも、喫煙が禁止される・・・?!
飲食店やパチンコ店といった、不特定多数が出入りする施設を全て禁煙にする。
違反者には、罰金も科されると言うから穏やかではない。
「禁煙条例」の制定をめぐって、神奈川県が賛否両論で揺れている。
最近、「受動喫煙」と言う言葉をよく耳にする。
他人のたばこの煙を吸わされることを言うのだ。
この受動喫煙が、不快なことはもちろんのこと、健康への悪影響が大いに心配されている。
4000種類以上の化学物質を含んでいて、その内200種類以上が有害物質だそうだ。
火がついた方から出る煙(副流煙)の方に、多くの有害物質が含まれていて、そのため受動喫煙は、肺がんや心臓疾患といった病気の引き金になると言われる。
怖ろしいことだ。
いま多くの国々で、公共施設での喫煙を、法律で禁止している。
主流煙より副流煙の方が、ニコチンは2.8倍、タールは3.4倍、一酸化炭素は4.7倍も多いそうだ。
これでは、生命と健康への、悪い影響が心配されるわけだ。
2006年のアメリカ公衆衛生総監報告書によれば、親の喫煙はこどもの心臓血管症状を増やし、受動喫煙には安全無害と言えるレベルの全くないことが、科学的に証明されている。
家庭では、幼児や子供の前でたばこを吸わないということは、今では鉄則になっている。
この受動喫煙の防止に向けて、神奈川県は他県に先んじて、防止対策を進めている。
提唱者は松沢成文・神奈川県知事で、年内にも、新しい条例を制定したい考えだ。
実現すれば、これはもう画期的なことである。
問題となるのは、とくに飲食店での喫煙防止だろう。
禁煙にしたら、客が来なくなってしまう。
たばこの煙で、料理が台無しになる・・・。
この条例制定については、、不満や不安いっぱいの飲食業や理容業などの業界団体が、反発している。
禁煙の居酒屋が出来たら通う、という人もいる。
遊技場やマージャン店の客は、受動喫煙は仕方がないと覚悟している。
賛否は、いろいろと分かれるようだ。
先日、松沢知事の製作した映画「破天荒力」の上映会の席で、合わせて知事の講演を聴く機会があった。
その時に、たまたま禁煙条例の話が出た。
喫煙は、もはや「迷惑」と言うようなものではなく、「危険」そのもので、健康増進法が成立しただけで、多くの人が利用する施設での受動喫煙の防止については、努力義務が課せられている。
でも、それだけではとても不十分だ。
世界の潮流は、どんどん法制化が進み、禁煙対策は拡大されている。
それなのに、国政は無策だ。
厚生労働省がたばこ対策を進めようとしても、財務省が陰で反対する。
国政が無策だから、地方自治が動く。
そして、国を変えていこうというわけだ。
当然、喫煙者のための空間は別に確保するわけで、不特定多数の人々が利用することを目的としていない施設は、対象とはならない。
「皆さんが集まっているところで、お話をすると、9割以上の方が禁煙条例に賛成して下さる。ところが、議会というところ
は、なかなか反対が強いのです。ですから、とても一筋縄ではまいりません。この条例制定は、大きな社会改革だと考え
ています。時間をかけていくしかありません。」
松沢知事はこう言って訴えた。
確かに、ひと仕事終えたら、酒を飲み、談笑しながら一服する。
これまでずっと、誰もが、こうした庶民の生活文化に身を置いてきた。
何ひとつ疑うこともなかった。
しかし、そうした喫煙という行為が、同席する多くの人たちの健康に被害を及ぼすとなったら、それを改めることだって、当然必要になってくることだ。
空気がきれいで、健康的なまちをつくるつくることは、素晴らしいことだ。
時代とともに、国の状況だって変ってきた。
悪しき習慣は、改めていけばよい。
地方分権が進む。
住民が議論を積み重ねていく中から、それこそ利害の対立を超えて、禁煙条例が、その先駆的な事例になる日は、そう遠くないかも知れない。
喫煙者と非喫煙者が共存できる、健康的な秩序ある社会への変革に期待したい。
時代の流れの中で、自分たちの生活文化を、見つめ直し、改める勇気を持たなくてはいけない。
・・・ふと、何の脈絡もなく、本当に何の脈絡もなく、このとき、三島由紀夫の名作『金閣寺』の最後の一節が浮かんだ。
何故なのか、分からない。
金閣寺に火を放った主人公が、左大文字山の頂きにたどりつき、火の粉が舞う金閣の空を眺めて、一服する場面だった。
・・・別のポケットの煙草が手に触れた。私は煙草を喫んだ。一ト仕事を終へて
一服してゐる人がよくさう思ふように、生きようと私は思った。・・・
夜更けの、東京銀座裏通り・・・。
名だたる高級クラブが、店を連ねている。
その一軒から、一人の男が千鳥足で出てきた。
数人の、派手な着物に厚化粧の女たちに見送られて・・・。
男はご機嫌だ。
男は、待たせてあった個人タクシーに乗った。
動き出した車に向かって、女たちは、甲高い声で何か叫びながら、おざなりに手を振っていた。
タクシーの運転手とは、顔見知りだった。
「いつもの、コースでよろしいですか」
「ああ。頼む」
「かしこまりました」
車は、首都高速を一気に抜けると、埼玉県内の新興住宅地に入っていった。
丘の上の、まだ建って間もない邸宅の前で、車は停まった。
男は、車を降りるとき、何やらサインとともに、運転手の差し出した茶色い封筒と手土産の入った紙袋を受け取った。
「どうも、有難うございました。また、宜しくお願いします」
「ああ、いつもどうも・・・」
「いいえ、どういたしまして」
「じゃあ・・・」
「はい。おやすみなさいませ」
タクシーの運転手も、降りた男もにこやかな表情だったのが、夜目にも分かった。
男はいくらか酔いがさめたのか、しっかりとした足取りで、玄関を入った。
男の妻は、どんなに遅い時間でも、必ず夫を出迎えた。
「あらあら、また“飲み”ですか。こんなにおそくまで・・・」
「いや、仕事と付き合いだ」
「あら、お仕事も?」
「そうだ。そのあと、付き合いもあってな」
「それで、また車ですか」
「そうだ」
リビングへ通ってからも、妻は夫に言った。
「いつも、いつも、それいいんですか」
「お前、何が言いたいのだ」
「心配してるんです。この頃、いろいろニュースで騒がれてるから」
「案ずるな。官僚というのは、何をしても、よくは言われないものなのだ」
「いけないことじゃないの?」
「何がいけないものか。仕事で遅くなれば当然のことさ」
「仕事?でも、あなた酔ってるわ」
「だから、言っただろ。仕事のあとの一杯だって」
「・・・」
夫は、霞ヶ関へ勤める、上級管理職だ。
妻は、夫の毎度の行動を知っているのか、それ以上は立ち入ったことは言わなかった。言えば、嫌な言葉が返ってくるに決まっている。
だから、なるべく余計なことは言わないようにしていた。
夫は、少し難しそうな顔をして言った。
「ただなあ、いろいろ騒ぎ立てられて、この頃チェックがうるさくなった。俺の立場でも、気をつけんと
なあ」
「・・・でしょう?」
「まあ、な」
「近所でも噂になってるらしいの。あなたのタクシー帰りが・・・」
「何故だ?」
「そんなこと、当たり前でしょ。自重しないと、まずいんじゃない?」
夫は、渋い表情で妻を見つめた。
明日は土曜日だ。二日続きの休日であった。
毎週金曜日の夜は、いつもこんな具合だ。
「俺も、あと二年で役所も定年だ」
「・・・」
「これまで、一生懸命お国のために働いて来たんだぞ。少しぐらい、いい思いもさせて貰いたいよ」
長年連れ添ってきた妻は、黙って夫の方を見た。
「・・・だからな、お前たちにも、十分な暮らしをさせてやることが出来たんだ」
「そうね。それは、そうだわ。感謝してるわ」
「何か不満でもあるのか?」
「不満はないわ。だけど、何だか少し怖いわ」
「・・・」
「いろいろ、世間では言われていて・・・」
「気にするな。役人へのやっかみさ。そんなこといちいち気にしていたら、役人なんかやっていられる
かってんだ、ええ!」
「・・・!」
時間外の仕事は、なるべく部下に任せ自分は極力少なくしている・・・。
馴染みの個人タクシーを利用するようになって、もう20年近くなる。
自分で金を払ったことは一度もない。
電車の時間に十分間に合うときでも、車を利用するようになった。
もうほとんど病み付きで、いまさら止められなくなっていた。
妻は、そんな夫の習慣を分かりすぎるほど分かっていた。
通勤定期があるのに、それを利用するのは出勤の時と、たまに帰宅の途中で自分の用事がある時だけであった。
自分でも、交通費の無駄は承知していた。
それでも、心のどこかで、「これは、俺の金ではない」と思っている自分がいるのも事実だ。
夫は、かねがね妻に言って聞かせたこともある。
「ちょっと、勿体無いとは思うがね。・・・だが、俺だけじゃないんだ。皆やってることなんだよ」
「・・・!」
個人タクシーの運転手もご利用大歓迎だし、利用する方も、サインひとつで土産と金一封か商品券が間違いなく貰えるのだ。
そこに、需要と供給のバランスが成り立つ。(!?)
妻は、「居酒屋タクシー」のことを、近くの主婦から聞かれたことがある。
「タクシーで、おつまみとビールが出るって、そういうタクシーがあるの?」
あまりにも真面目な顔をして尋ねられたので、妻は真面目(?)に答えた。
「そうらしいわねえ」
「一度、乗ってみたいわ」
そう言って、主婦はくすくすと笑った。
知らぬ筈がない。わざとかまをかけたに違いないと妻は思った。
だって、夫がいつも夜遅く個人タクシーで帰ってくるのを知っている筈だからだ。
だからこそ、妻は気になっていたのだ。
「知らないようで、知ってるのよ、うちのこと。あたし、嫌だわ」
「いいから、知らんふりしていろ。それが一番だ。余計なことは一切言うな。わかったな」
妻は、唇をとがらせて黙っていた。
「俺も、やがて定年だ。いいか、そのあとの天下り先も大体決まっている」
「あら、そうなの?」と驚いたように目を丸くすると、
「当たり前だ。何も心配しなくていいぞ。第二の人生も決まっているようなものだ。は、は、は・・・」
夫は、そう言って笑い飛ばした。
しかし、妻は、自分の胸のうちに、何かとてつもなく大きなどす黒い不安が、ふつふつと湧き上がってくるのを感じないではいられなかった。
本当に、スーパーにバターを見かけなくなった。
農水省の指導で、酪農家が減産したから?
代わりに、マーガリンというと、トランス脂肪酸とやらが含まれているから、動脈硬化を促進してよくないなどと言われる。
どうすればよいと言うのか。
中国餃子は、どうなったのか。
とにかく、近頃の日本の食事情には、あれこれと心を惑わされるばかりだ。
それは、それとして・・・。
4月の国内のガソリン販売高は、前年同月比17%も増えて、576万キロリットルとなって、4月としては過去最高を記録したことが分かった。
ガソリン税の暫定税率(1リットル当たり約25円)の、一時失効に伴う価格低下で、需要が急増したからだ。
世界的な原油価格の高騰で、1バーレル100ドルの大台を突破して、現在は1バーレル135ドルを超えている。
原油価格の高騰で、国内の石油元売会社も、卸価格を引き上げざるを得ないようだ。
これによって、小売価格はいよいよ170円台へ突入しそうな様相になってきた。
・・・日本だって、豊富な地下資源が欲しい。
だからと言うわけで、福田総理は、アジア諸国との会談は積極的だった。
横浜で、3日間にわたって開かれた「アフリカ開発会議」で、アフリカ諸国の首脳40人と、次々に会談した。
会談の時間は、一人15分から30分だったそうだ。
はるばる遠来の、各国首脳との会見が、回転寿司をつまむような忙しさだ。
通訳をはさむと、話すのは、正味数分間だ。
それで、相手国をどこまで理解できるのだろうか。
欧米諸国を相手にしたら、このような会談はとても出来ないだろう。
そこには、アフリカという後進国を相手にしていることへの思惑もありありだ。
日本は、自国の産業のためにも、地下資源が欲しいし、 国連安保理の常任理事国入りに賛成してもらいたいのだ。
人は、これを“札ビラ外交”と言うのだそうだ。
数分間の挨拶で、巨額の援助が期待できるのだから、アフリカ諸国も、表向きは感謝の意向だ。
しかし、本心はどうか分からない。
アフリカ諸国には、中国やインド、ロシアなど、多くの国が資金援助を申し出ている。
中国も、積極的に動いているようだ。
どこの国も、原油は欲しい。
アフリカの首脳たちも、その辺はよく分かっている。
日本は、常任理事国入りを目指したが、アフリカ諸国50ヵ国の支持が得られなかったので、挫折した経緯がある。
言わずと知れた、中国がアフリカ諸国に支持しないように働きかけたのだった。
中国は、何を考えているのか。
福田総理は、「アフリカ開発会議」で、ODA(政府開発援助)2000億円、円借款4200億円、金融支援2500億円・・・と、大盤振る舞いである。
総額約1兆円のカネが、生活苦に喘いでいる日本国民の頭の上を素通りしていくのだ。
1兆円あったら、後期高齢者医療の財源不足で、1300万人のお年寄りが泣かされることはない。
福田総理は、アフリカに対するODAを、5年間で倍増すると言っているらしい。
内政で行き詰まった福田政権が、外交で延命を図ろうとしている。
札ビラをきって、政権浮揚ですか。
解散も総選挙もしない。
世論調査の支持率が下がれば下がるほど、この政権は、いろいろな理由をこじつけて、来年9月の任期いっぱいまで、居座るつもりでいる。
民意など、どこ吹く風なのだ。
このままでいくと、財源不足を理由に、消費税が大幅にアップされ、後期高齢者保険制度が継続され、さらに、医療改革の名のもとに、病院が潰されていく。
何が、一体改善されるのだろうか。
国民の暮らしは、じり貧になって、沈みゆく難破船だ・・・。
後期高齢者医療制度は、欠陥だらけで、改善策と言ったって、小手先の変更ですませようとしているのだ。
自民党の重鎮、中曽根元総理でさえ、この制度は、はじめから見直しをした方がよいと言っているではないか。
それでも、75歳以上のお年寄りを、既存の保険制度から切り離して、行政の都合だけで「隔離」する「姥捨山」の発想は、温存すると言うわけだ。
誰もが、悪政だといっているゆえんだ。
金持ち優遇ばかりを考えているので、普通のお年寄りには恩恵なんて何もない。
医療制度までガタガタで、存続さえ危ぶまれている。
どの病院も、社会保障費の大幅削減で、経営が立ちゆかなくなっている。
それは、やがて医療崩壊を意味する。
病院が倒産する。
それで、財源が足りないとくれば、消費税を大幅にアップさせるのだ。
どちらに転んでも、国民には、過酷な結末が見えている。
政治は、一日も早く変らなければいけない。
6月に入ると、沖縄県議選がある。
ここで与党が惨敗すれば、福田政権の足元は揺らぐ。
なりふり構わぬ自公政権が、どういう選挙戦を行うか。
厳しく、見守らねばならない。
実に爽やかな優勝であった。
これからの綱とりに向けて、一層活躍が楽しみだ。
その、めでたい千秋楽の喜びがかすんでしまうような出来事だった。
あれはやりすぎではないか。
大相撲夏場所千秋楽で、琴欧州に優勝をさらわれた、朝青龍と白鵬両横綱が、結びの一番で、まさに乱闘寸前となりそうな失態を演じた。 (取り組みの模様は、動画写真の中心をクリックして見て下さい。)
何事があったのかと思った。
朝青龍が、引き落としで白鵬を破った。
土俵に、ばったり両手をついたその白鵬の背中を、朝青龍が両手で突くというか、押したのだ。
それも、勝負がついて、ワンテンポあってからのことである。
つい、何かのはずみで、と言うような動作ではなかった。
朝青龍の右手が、さらに立ち上がろうとした白鵬の頬をかすめた。
それに怒った白鵬が肩をぶつけて、両者は一瞬土俵上でにらみ合った。
結局、事態はそれ以上に発展せずに済んで、事なきを得たが、見ていて何ともやりきれないシーンだった。
勝負が済んでいるのに、力を抜いた相手の力士に、ダメ押しをするような行為もおかしい。
何のために、ダメ押しをしたのか。
このワザとらしさを、北の湖理事長(←関連記事)は「相撲のひとつの流れだ」と言ったが、そのようには思えない。
カッとなった白鵬がよくないなどとも言った。
おかしなことを言うというわけで、案の定この発言は翌日撤回された。
当然だろう。
朝青龍は、これまでも散々そういうことをやって、注意を受けたり、批判されてきた。
横綱の品行が、一向に改まっていない。
とにかく、素行の悪さは「モンゴルの恥」とまで言われる。
常習犯といってもいい。
両横綱には、後で厳重な注意があった。
にらみ合うようなことをやった、朝青龍も問題だ。
相撲協会というところは、分かっていて見て見ぬふりをしているようなところがある。
事態を何処まで分かっているのか。
客さえ入ればという、相撲協会の体質のあさましさが、なにやら見えてくる。
まあ、どっちもどっち、喧嘩両成敗というわけだろうが、品格のかけらも見られなかった。
こういうのを、ゴロツキ相撲と言うらしい。
みっともない。
朝青龍と白鵬は、ともにモンゴル出身の力士だが、この二人もともと犬猿の仲というではないか。
土俵の上でなかったら、おそらく乱闘になっただろう。
いずれにしても、横綱にあるまじき行為で、完全にやりすぎだ。
琴欧州の14勝目の余韻が残る館内で、千秋楽結びの一番が、こともあろうに両横綱の蛮行という、見苦しい結果となったのはまことに残念だった。
相撲協会の指導にも、問題がある。
ガソリン代が、1リットル当たり160円を突破する勢いだ。
これによって、一世帯あたりの負担増は、全国平均で、1838円くらいになるだろうという。
何でもかんでも、値上げ、値上げのラッシュである。
主婦は悲鳴を上げている・・・。
道路族議員たちだけが喜んでいる。
・・・嘆かわしいかぎりだ。
高齢者医療、年金対策、世論調査(内閣支持率10%台)、憲法無視・・・、国民無視、国民不在の政権が延々と続いている。
いつまで続くぬかるみか。
7月に開催される予定の、北海道サミットはどうなるのか。
福田総理は、視察と称して、最高級スウィートルームに、一泊136万5000円でお泊りあそばしたというのは有名な話だ。
借金政権で、息も絶え絶えの日本国総理大臣には、余裕があるのだろうか。
国民の生活や、感情を軽視するような行動に批判も多い。
「可哀想なくらいに苦労している」国民の気持ちにもなって頂きたい。
このほど、世界平和度指数(GPI)なるものを、イギリスのエコノミスト誌が発表した。
世界121ヵ国が対象で、評価項目は、対外関係、兵器の販売実績、犯罪者の検挙率、テロの危険性など、二十四項目について分析し、各国がどれだけ平和であるかを数値化している。
驚いたのは、何とその中で、日本が第5位にランクされていることだ。
これ、本当だろうか。
もとより、単なるお遊び程度の“調査”とも思えなくもない。
戦争もなく、政情が安定(?)しているだけのことではないか。
このところ、日本で多発している、凶悪犯罪の発生と検挙率の低さや、実質自殺率は世界第1位と言われることなどからも、とても世界第5位の平和国とは思えない。
それでも、ほかの国と比べると、まだましなのかも知れない。
ちなみに、平和指数1位はノルウェー、2位はニュージランド、3位はデンマーク、4位はアイルランドだそうで、アメリカは96位、ロシアは118位、最下位がイラクだそうだ。
しかし、世界が“平和な国”と見ている日本の内情は、現実の通りである。
一年間一生懸命働いても、年収200万円以下しか収入のない人は、06年現在で1000万人を超えると言われる。
一食100円の食事に、一人食卓に向かうお年寄りの姿があった・・・。
生活保護以下の生活すらままならない人たちは、650万世帯にものぼると言うではありませんか。
いま、誰が、一番大変苦労しているか。
誰かが、いみじくも言った。
「福田さん、年収200万円の生活を、あなたも、是非一度体験してみてください」
そうです、庶民の目線で・・・。
一食100円の生活、出来ますか。
ある若い女性は、夢と希望を持っていた。
自分のスキルアップのために、半年かけて調理師の免許を取った。
それで、パートの時給はわずか10円だけ上がった。
何だか空疎な話だ。
頑張っても、頑張っても、“夢”にたどり着けない人を負け犬と呼んでいいものか。
母子家庭の実情もけわしい。
日本の母子家庭は、世界でも類を見ないほど、働いている。
それなのに、貧しいというのは何故なのだろう。
働いているのに、貧しいというのは、明らかに変だ。
大企業の利益は増加し、労働者の年収は減少している。
・・・かくして、働く人たちは、希望を失っていく。
住む家とてなく、ネットカフェやコンビニで、夜を過ごす人たち(ネット難民)が増え続けている。
ワーキングプア(働く貧困者)は、本来働き盛りである筈の若者たちをも蝕んでいる。
ワーキングプア・・・。
いつからか、こんな悲しい言葉が、当たり前のように聞かれるようになった。
働きたくても、働くところさえない若者もいる。
著名な政治家が、吐き捨てるように言ったのだ。
「働いても食べていけないのは、自己責任だ!」
何ですって!
こんな言い方が、平然とまかり通っている。
そんな世の中でよいのか。
社会の仕組みが、明らかにどこかおかしい。
OECD(経済協力開発機構)の報告によれば、今の日本の貧困率は、アメリカの次に世界のワースト2だとも言われる。
美しい、豊かな国、平和な国とは・・・?
翻ってみれば、病める貧乏国、日本!
それで、世界第二の大国という、このとてつもなく大きな矛盾・・・。
平和指数とは、一体何なのかと言いたくなる。
生きる希望さえ失って、硫化水素自殺する人、そして、今日もまた、富士の樹海に、死を求めてさまよう人たちがいる。
何故、どうしてなのだろう・・・。
年間、毎年三万人もの自殺者があとを絶たない国、日本・・・。
年間、三万人とは・・・!
誰かの予言ではないが、いま天にも、地にも災いが満ち、激しい嵐が吹き荒れている。
開けてはならない、パンドラの箱を開けたのは誰だ?
・・・はたらけど、はたらけど
猶(なほ) わが生活(くらし) 楽にならざり ぢっと手を見る。
( 石 川 啄 木 )
市役所の窓口で、お年寄りが職員と言い合っていた。
相談者の声が大きかったので、聞くともなしに聞こえてきた。
「要するに、この制度は姥捨山ということですよね」
「いえ、そういう制度ではないと思います」
「しかしね、何だかんだ言ったって、結局そういうことではないですか」
「確かに、ご高齢の方にもですね、適切な保険料のご負担をお願いしております」
「だから、それが極めて不適切だし、分かりにくい!」
「・・・」
「年金から、強制的に保険料を引かれる制度も問題だ」
「それは、皆様の面倒が省けるようにしたのです」
「私たちは、払うものは払うんですよ。でも、もし払えなかったその時は・・・?」
「保険証を返して頂きます。はい」
「そうなると、もう病院へは行けませんな。後はどうなろうと自己責任というわけですか。やっぱり、姥捨山か・・・」
「・・・」
職員は、困った顔をして黙ってしまった。
「そうでしょう?どうも、あなたもよく分かっておられないようだ。もういい!話しても、埒があかないから」
何のことはない、悪評絶えない「後期高齢者医療制度」についての話だ。
いま、巷のあちらこちらでも、この話で持ちきりだ。
このあいだ、国会へこの制度に反対するデモがあった。
この時も、「平成の姥捨山反対」と書かれたプラカードが、やけに目立っていた。
日本の政権がパンクするからと言って、小泉内閣が03年3月に閣議で決定した。
年寄りは医療費がかかる。確かにそうだろう。
高齢者の医療費が、どの位の負担になっているのか。
老人医療費については、「姥捨山」を作らなければならないほど、国の負担は大きいのだろうか。
日本の医療費は、全体で33兆円と言われる。
内訳は、21兆円が患者の窓口負担と保険料で賄われ、税金の投入額は12兆円で、そのうち、75歳以上の後期高齢者に使われている税金は、5兆円ほどだそうだ。
この数字は、GDP の1%にも満たない数字だ。
年間医療費33兆円とはいうけれど、この金額はGDP比8%と先進国では最下位で、フランス、ドイツ、イギリスは10%、アメリカは15%ほどだというから、日本はもっと医療費を増やしてもいい位だと専門家は話している。
高齢者の医療費にしても、ヨーロッパの多くの国では、75歳以上の医療費を無料にしていると言うではないか。
日本だけが、高齢者の医療費を過度に負担しているなんて、どこからそんな大嘘が出てきたのだろう。
自民政権は、老人を、いかにも税金を食いつぶしているかのように、邪魔者扱いにしている。
人は誰でも、生きている限り、順番に年を取り、確実に老いてゆくのだ。
確実に、である。
内閣府の高齢社会白書によれば、07年10月現在の65歳以上の高齢者人口は2746万人(総人口の21.5%)で、このうち75歳以上の後期高齢者は1270万人(総人口の9.9%)ということだ。
後期高齢者に必要な5兆円という数字は、年寄りいじめをしなくても、無駄な予算を削れば、いくらだって捻出できるのだ。
例えば、5兆円近くも税金が注ぎ込まれている防衛予算がある。
戦争もないのに、どうして毎年5兆円近くの金が必要なのだろう。
それもムダだらけだ。軍事機密を盾に、防衛予算は聖域だそうだ。
一隻1400億円もするイージス艦、漁船が近づいてくることさえキャッチできないで衝突したではないか。あの無用(?!)の長物、何とそれを5隻も購入していると言うではないか。
さらに、自衛隊は、基地の中に、立派なゴルフ場を11ヶ所も整備している。
国民の税金が、自衛隊員のゴルフの面倒を見ているわけだ。
防衛省は、アメリカ軍に「思いやり予算」とか何とか言って、毎年2000億円以上の税金を献上していると聞いた。
これも、驚きである。
アメリカ軍への「思いやり予算」があるのに、どうして、これまで日本を背負って働いてきた老人への「思いやり予算」はないのだろう。
削れる予算はいくらでもある。見直せばよいのだ。
自民党が強引に再可決した、ガソリン税の暫定税率分とやらが3兆円近くあると言うのだから、それらをそっくり老人医療費に向けてもよさそうなものだ。
でも、やらない。
こんなことは、ほんの一例だと思われる。
(余談だが、いずれガソリン税はまた上がりそうな様子だ。ユーザーには頭の痛い話だ。車はだんだん使えなくなって、不要な道路ばかりが増えてしまうことになる。)
防衛予算と道路予算のムダだけでも、徹底的に見直せば、5兆円の老人医療費が簡単に賄えないはずはない。
しかし、しかしだ・・・。
自民党は、防衛予算や道路予算には絶対に手をつけようとしないのだ。
お年寄りが、泣き叫ぼうが、無理心中しようが、あくまでも重い負担を押し付けるつもりのようだ。
道路や防衛予算を削ろうとしないのは、政・官・財の利権の温床なのだから、これも駄目か。
防衛省汚職事件で分かったように、5兆円近い防衛予算は、政治家、官僚、軍需産業が群がって、甘い甘い汁を吸っているからだ。
毎年、5兆2000億円が、黙っていても自然に入ってくる、道路特定財源も全く同じ構図だ。
政治家は、地元の土建業者に、不要な道路まで作らせることでガッポリもうけさせ、その見返りに献金と票をもらう。
官僚は、両者をつなぐことで、天下り先を確保出来る。
ひどすぎる話ではないですか。
政・官・財で、国民の税金をいいように山分けしているのだから・・・。
これが、世界第二の経済大国日本の内情だ。
税金が、適切に配分されていたら、高齢者が老後に苦しむこともない筈なのだ。
ヨーロッパの先進国では、高齢者を区分する保険制度など無いと言うではありませんか。
医療費の財源のことを言うなら、税金の無駄使いを見直すだけで十分可能だということだ。
なのに、それをやらない。やろうともしない。
半世紀にも及ぶ、自民独裁政権の“悪辣”がここにある。
国民のほとんどが、こんな「姥捨山」の医療制度など歓迎するわけがない。
この制度の中でも悪評高いのは、「終末期相談支援料」だそうである。
医者は、回復見込みの薄い患者と「治療」について話し合って、文書に残すだけで、報酬2000円が受け取れるのだそうだ。
これなど、患者に「延命治療はいらない」と言わせるのを奨励した制度で、それこそ「姥捨山」の象徴みたいだ。
政府は、今ごろになって慌てて重い腰をあげ、急遽、悪評の高いこの制度の見直しにかかった。
悪質きわまりない厚生労働省の役人が、自民厚生労働族をたぶらかして、医療費抑制の狙いででっち上げた非情なこの制度を、どう見直すと言うのか。
いっそ、一からやり直せと言いたい。
敬老の日や敬老週間には、「お年寄りは、日本の宝です。」と言っていたのは、もうとうに昔の話になってしまったか。
福田内閣支持率、ただいま、たったの18.2%・・・!
嗚呼、死に体の内閣・・・。
世論を気にしては、政治は出来ない(!?)と豪語する。
それでもなお、正気で(?!)国民の上に居座り続けている。
世論や支持率など気にしない。
総辞職や解散総選挙は、福田総理の頭の中にはない。
この国の政府は、一体誰のためにあるのだろうか。
マスコミで活躍している、著名な高齢のコメンテイターが、テレビの生放送中に発したこんな一句が耳に残った。
「 死ねねえよ、後期高齢者と言われても・・・。」
嘘のような、ばかばかしく、でも本当にあった、お笑いにもならない話だ。
いやいや・・・、たかがゴキブリ、されどゴキブリなのだ。
夜中に、突然警察の電話が鳴った。
夜勤の署員が、すぐ受話器を取った。
「もしもし、どうしました?」
受話器の向こうで、男の若い声が震えている。
「すいません、あのう・・・」
「はい、どうしました?」
「大きなゴキブリが出たんです」
「はあ?」
「ゴキブリなんです。それが、とても大きなやつなんです」
「だったら、捕まえたらいいではないですか」
「はあ、でもそれが・・・」
「ええ~っ?」
「怖くて、近寄れないんです」
「怖いって・・・?」
「それに気持ち悪くて、駄目なんです、どうしても」
「困りましたね」
「はい。ゴキブリとゲジゲジと、それから大きな蜘蛛はどうしても駄目なんです」
「・・・」
「だから、来てもらえませんか。どうにかして下さい。お願いです」
「そんなことで、今そちらへ向かうわけにはいかないのです。ご自分で駆除してください」
そう言って、署員は腹立たしそうに電話を切ったが、すぐにまたかかってきた。
若い男の声が叫んでいる。
「駄目なんです!どうしても。何とかして下さい。このままでは、怖くて眠れません!」
「・・・」
「助けて下さい。お願いですから!」
あまりしつこいので、一応住所と名前などを型どおり聞き取ると、上司にことの次第を告げた。
「しようがねえなあ、まったく・・・!何考えてんだ!」
交番で通報を受けた、中年の警部補は眠い目をこすりながら、ゴキブリ騒ぎのあった近くのアパートを訪ねた。
玄関を開けると、怯えた目つきで、パジャマ姿の若い男と女が立っていた。
「奥さんも、ゴキブリは駄目なのかね?」
「はい。もう、全然だめです」
と、若い妻は手をぶるぶる震わせながら、しっかりとした声で、いけしゃあしゃあと答えた。
「困ったもんだね」
「お巡りさん、早くして下さい、早く!」
部屋にそっと入って見ると、床の隅で、なるほど大きなゴキブリがまだもぞもぞと動いていた。
「こいつか」
警部補は、ポケットからティッシュを取り出すと、目にも止まらぬ速さで、そのゴキブリを取り押さえた。
それを見ていた、若い妻が言った。
「わぁ、すごい!」
「何がすごいもんか。これだけのことだろうが」
夫はさすがに恐縮して、
「・・・すみません。本当にすみません。助かりました。お巡りさんは、普段からそういう訓練もしてるんですか?」
「馬鹿を言うんじゃない。そんな訓練なんてあるものか」
「だってさ、蜂に襲われそうになったり、マムシとか蛇とかの生き物なんかに食いつかれそうになったりとか、あるじゃないですか。そういう時って、どうするんですか?」
「そういうのは、そういう専門家がいるんだ。素人が手を出すもんじゃない」
「そうですよね」
「あたりまえだ。あほなこと言うな!お前たち幾つだ?」
「21歳と20歳で~す・・・!」
若い女は、けたけたと笑いながら言った。
「いい大人ではないか」
「一応そうですけど・・・」
「今回だけだ。人騒がせもいいところだ。こんなことぐらいで・・・」
「はい。お騒がせしました」
「輪ゴムか何かないか」
警部補は、妻が差し出した輪ゴムでティッシュをくるくると巻いて、傍にあったごみ箱に捨てた。
「でも、こいつ、いままでよく逃げなかったな?お前さんたちのこと怖くなかったんだな」
「は、はい。そうかも知れません」
「ゴキブリも、人を見るんだな」
これには、若夫婦も警部補も苦笑いだった。
「じゃあな」
「ありがとうございました。これで、安心して眠れます」
そう言って、若夫婦は顔を見合わせた。
交番へ帰る道すがら、夜空を見上げて、警部補はやれやれとため息をついた。
「ふざけるな。馬鹿野郎。二度と御免だぞ」
・・・嘘のような、でも大阪で本当にあった話だ。
この“ゴキブリ夫婦”の噂は、どこからともなく近所に広まった。
しかし若い二人は、そんなことは一向に意に介さなかった。
まだまだ、日本という国は平和(?!)な国なのかも・・・。
このとんだ“ゴキブリ夫婦”騒動について、所轄の警察の副署長は、ご丁寧な談話まで発表した・・・。
「我々警察は、市民の皆様のために、生活の安全を第一に考えるところでありますから、どんなに些細なことでも、住民の
方々から困っていられることでお申し出があれば、それをお断りするようなことは出来ないのです。はい・・・。」
自衛隊のイラン派遣をめぐる控訴審は、「空輸先は戦闘地域」であることを認めた。
イラクに、「非戦闘地域」などあるはずもない。
名古屋高裁の判決は、航空自衛隊の活躍するバクダッド(イラク)は、間違いなく「戦闘地域に該当する」としたのだ。
“傍論”とは言うが、司法裁判官が合議の上で判決(判断)を下したのだ。
それを茶化した人間がいる!
「そんなの、関係ねえ!」
イラク空自の違憲判断に対して、こう言い放ったのは自衛隊航空幕僚長である。
この捨て台詞(ぜりふ)を、何と聞くか。
この言葉は、裏を返せば、自分たちは、裁判所の判断も憲法も知ったことではない、そんなものは守らないと言っているに等しい発言だ。
裁判所も、裁判所に訴えを起こした国民も、自衛隊に文句を言うなというわけだ。
こんな理屈が通るようであれば、自衛隊なら何をやってもいいということになりかねない。
自衛隊は武器を持っている。
その自衛隊が、暴走したらどういうことになるか。
民主主義はおかしくなる。
戦前の日本みたいなことになる。
福田総理も、町村官房長官も、石破防衛相も、高村外相までもが、名古屋高裁の判断について、裁判所に誤りがあるとして、空輸活動を継続する方針だ。
陰湿な口裏合わせ・・・?
このままだと、自衛隊のイラク派遣の「違憲判断」は、確定する見通しなのに・・・。
今回の判決理由を読めば、判決を下す前提として検討していることは明らかだ。
合憲性の審理に長い時間を割き、三人のベテラン裁判官が合議の上に出した結論だ。
このまま、高裁判決が確定したら、政府は、今回の高裁判断に従って、具体的な指摘を受けた「違憲」と見られる活動は差し控えてほしいものだ。
憲法を含む、各種の法令の最終的な解釈権は、国会にあるのではなく、司法府にこそあって、行政府がこれに従うのは当たり前の話なのだから・・・。
日本は、三権分立の国だ。
名古屋高裁の判断が間違っているなどと、どうして言うことが出来るのだろうか。
自衛隊員たち自身が、イラクを戦闘地帯であると認めているのだ。
だから、イラクへ派遣される輸送機のパイロットも、
「私たちは覚悟しています。もしかしたら、撃たれるかも知れない」
と言っている。
彼らは、地上からの攻撃を避けるために、機体の色を空色にしていると説明した。
小牧から派遣された200余人は、週5回、多国籍軍の兵士、物資を運んでいるそうだ。
拠点は、クウェート空軍基地で、空自が輸送したアメリカ軍物資は、国連関係の50倍以上だと言われる。
今、この地球上で、イラクが最も危険な「戦闘地域」であることを、空自隊員が一番よく知っている。
そして、今回の違憲判決(判断)で、誰もが、自分たちの行っている活動が本当に違憲かどうか、正しいのか間違っているのか、苦渋の思いで「戦場」に向かっているのだ。
「私たちが、今までやってきたことが違憲だと言われるは、複雑な思いだ」
彼らに対しても、十分納得のいく、説明はなされていない。
今後も、派遣活動が続く状況下で、何かあった時、「違憲」の判断にそっぽを向いた政府要人たちは、一体どう責任を取るのか。
イスラム人権委員会の、ムバラク・モタワ事務局長はこう述べている。
「どの国においても憲法は尊重されるべきだ。
憲法違反を犯してまで、米軍などイラクへの武力行使を支援するべきではない。
空自の撤収もやむをえない」
イラクに派遣される空自隊員の家族は、
「そんなの、関係ねえ!」
と言う、幕僚長の言葉をどう受け止めているだろうか。
そんな暴言を吐く航空幕僚長を、即刻クビにしろと言う人までいる。
自衛隊員は、「戦闘地域」にもかかわらず、「戦闘地域ではないんだ」と派遣され、不安を抱えていることは事実なのだ。
それは間違いなんだと指摘されても、「関係ねえ」と派遣を続ける。
暴言ともとれる、傲慢なトップ発言だ。
航空自衛隊イラク派遣部隊の、隊員たちの複雑な心中を考えたとき、とても人ごととは思えない。
本当に、これでいいのか。
イラクに「非戦闘地域」などありえない。
武装したアメリカ兵を輸送していて、それでもなお「武力行使」に関わっていないと言い張ってきた。
航空自衛隊の派遣差し止めの請求は退けられたが、 「イラクでの航空自衛隊の空輸活動は、憲法九条に違反する」・・・。
これが、名古屋高等裁判所の違憲判決だ。
イラク派遣をめぐる訴訟での、違憲判断は初めてで、その意義はとても大きい。
画期的な判断である。
首都バクダッドでは、多数の戦争犠牲者が出ている。
ここが、イラク特措法の定める「戦闘地域」ではないなどと、一体誰が言ったのだ。
立派な「戦闘地域」ではないか。
それなのに、小泉元首相は実に変てこなことを言った。
「自衛隊が活動する地域だから、非戦闘地域なのだ」
開き直って繰り返された、この答弁は何だったのか。
国語学者は、小泉首相は日本語を知らないとまで言って、切って捨てた。
無理に無理を重ねて、勝手に、自分に都合のいいねじれた解釈で、多くの国民を騙してきた。(?)
悲しいことに、本当に日本語を知っている(理解している?)人とも思えない。
・・・しかし、政府は、名古屋高裁の判決はイラクの自衛隊派遣に影響しないとの立場から、航空自衛隊による輸送活動を継続する方針だ。
福田総理は、「判決自体は国が勝った。違憲判断は、判決そのものには直接関係ない」とまで言った。
戦争の大義が崩れ、戦争状態は続いているのだ。
そんな中へ派遣を続けることへの疑問は、拭い切れない。
納得のいく、政府の説明が欲しい。
町村官房長官も、派遣続行をさらりと表明した。
最高裁による最終判断ではないからか。
でも、名古屋高裁の司法判断は、重く受け止めなくてはいけない。
与野党は、速やかに、自衛隊撤収へ向けての、真剣な論議を始めるべきなのだ。
日本の裁判所は、違憲か合憲かとなると、いつだって大事なところで憲法判断を避けてきた。
これでは、まるで行政の追認と言われても仕方がない。
司法が政治や国会を監視し、チェックしなくてどこがやるんですか。
今回の高裁判決は、小泉政権から安倍、福田政権が、自衛隊イラク派遣について踏襲してきた論拠を、明確に否定したのである。
だからこそ、“納得のいく”政府の説明が欲しい。(重ねて言う)
戦地へ自衛隊を派遣することと憲法とを、何としてもつじつまを合わせるために、政府がひねり出した理屈には大きな矛盾があった。
そこを、裁判所が突いてくれた。
それでも、町村官房長官は不満をあらわにした。
「総合的な判断の結果、バクダッド飛行場は、非戦闘地域の用件を満たしている。
高裁判断は納得できない」
さらに、高裁判決は、バクダッドに多国籍軍の武装兵員を輸送することは、「武力行使と一体化する」と指摘しているのに、政府は、「そもそも非戦闘地域なのだし、武力行使と一体化するものではない」と、シャアシャアと今でもシラを切っている。
小泉元首相は、「戦闘地域」と「非戦闘地域」について聞かれると、「自分が分かる筈はない。自衛隊が活動しているところは非戦闘地域だ」の繰り返しである。
自衛隊やアメリカ軍が、攻撃を受けて反撃しても、「国家」とかそれに近い「組織」が相手でなければ、その地域は「戦闘地域」ではないと言う。
さすれば、「たとえ弾丸が飛び交う状態でも、戦闘地域ではない」と言う論法も成り立つわけで、今回の名古屋高裁の判決は、この点の矛盾を指摘しているのだ。
その意味においても、この判決は新鮮な驚きでもあったし、一歩踏み込んだ司法の前進と見たい。
「違憲」の判断が、傍論であろうとそうでなかろうと、こうした判断について、裁判所がそこまで言及するのは如何なものかと言う論調があるが、それはおかしい。
判決文をしたため、、定年前に退官した青山邦夫裁判長の気迫と危機感は、福田総理にどう映っただろうか。(関係ないか)
憲法の番人は最高裁だ。
この現実を、最高裁はどう受け止めるか。
福田総理は、違憲判断への感想を聞かれて、こう答えた。
「それは、判断ですか。傍論、脇の論ね。自衛隊の活動、問題ないんだと思いますよ」・・・
憲法論議が高まる中、日本の至宝とも言われる「憲法」を、正しく読み解きたいものだ。
まもなく訪れる5月3日は、憲法記念日である。