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カクレマショウ

やっぴBLOG

起業教育とキャリア教育

2009-02-26 | └キャリア教育
「生きる力を育むために」と銘打たれた「起業教育・キャリア教育を考えるシンポジウム」が昨日弘前市で開催されました。

主催は東北経済産業局。「東北モデル」のアントレプレナーシップ教育の先進地、仙台市から、企業(印刷会社)の経営者と元・小学校校長のお二人の講師が起業教育・キャリア教育の取り組み事例を中心にお話ししてくださいました。

まず、ハリウ・コミュニケーションズ(株)という印刷会社の社長をされている針生さんのお話から。同社は、小学校向けのキャリア教育プログラムを独自に開発し、「民間コーディネーター」(経済産業省)として学校で多くの実践をしています。プログラムは、ワークショップ型を基本として、子どもたちが自ら考えたり体験したりする学習内容をふんだんに盛り込んでいます。「友だちから見た自分の将来像」など、とかく自分に自身が持てないでいる子どもたちに、まず「自己肯定観」を持ってもらおうというプログラムです。

針生さんはもともと、数年前に、「学社連携・融合」(学校教育と社会教育それぞれの活動の連携や融合)が出てきた頃から教育への支援活動に関わられた方で、私もその頃からお名前は知っていました。同社の教育CSR活動が、社会教育からだんだんとキャリア教育にシフトしてきたのは、外から見ても、ごく自然な流れだと思っています。

なぜかというと、針生さんのポリシーがとにかく昔から一貫していて、子どもたちのために何か会社としてできることはないかという点にあるからです。今回もおっしゃっていましたが、会社が自分の会社の利益だけではなく、地域や社会のために貢献するのは当たり前、という考えが底流に流れています。いわゆる「ソーシャル・イノベーション」。その流れから言えば、当然のようにキャリア教育に行き着くのです。「たまたま経済産業省から声をかけられて」キャリア教育に関わるようになったと針生さんはおっしゃっていましたが、それは「たまたま」ではなく必然だったのだと思います。

また、これからは、キャリア教育のコーディネートを全くの無償ボランティアに頼っていくのは無理というお話もありました。どこかで「食い扶持」を稼いでいく工夫をしなければならない、というのは、この前名古屋のNPO法人アスクネットの毛受(めんじょう)さんからうかがった「ビジネスモデルを提示していく必要がある」というお話と重なる部分がありました。行政は、立ち上げの最初の部分にはお金を出せるのですが、それがいつまでも続くわけではないので…。まさに「自立」するための工夫をどうするか。大きな課題です。

それにしても、大企業ならともかく、失礼ながら地方の一中小企業が、ここまで教育支援に関わっている例は全国でごく希なのではないでしょうか。針生さんのような方が、青森県にもいるのでしょうか。私が知らないだけならば、ぜひそういう方を見つけたいと思っているのですが…。

さて、お二人目の講師は、こちらも前に一度お話しを聞いたことのある、渡邊忠彦さん。元・小学校の校長で、現在は教職大学院で教鞭を執っておられるそうです。以前このブログでも渡邊さんのことを紹介したところ、ご本人からコメントをいただいたことがありました。

今回も、「起業教育」の可能性について力説されておられました。起業教育の定義やメリットについては、ブログで私がご紹介させていただいたものをお読みいただくとして、今回ちょっと思ったのは、「キャリア教育」との違いについてです。

渡邊さんは、キャリア教育とはつまるところ、「雇用社会における教育」だとおっしゃいます。つまり、終身雇用とか家族型経営が成り立っていることを前提に、「会社に入る」ことを目指す教育だろうと。キャリア教育の目指すところは、文部科学省もいろいろ言っているけれど、結局は「職業観・勤労観の育成」である。

「起業教育」は、それに対して「起業社会における教育」。自分で新たな仕事を興すために必要な創造力とかチャレンジ精神をはぐくむ教育である。渡邊さんが開発してきた起業・販売体験のプログラムは、まさにそうした成果を生んできています。

このように、キャリア教育と起業教育は全く違うのに、それが混同されて使われてしまっている…と、渡邊さんは嘆く。キャリア教育だけでなく、起業教育をもっと進めなければ日本は「グローバル化」の中で生き残っていけないのではないかと。

私は、「キャリア教育」をもっと広い意味でとらえていいはずだと考えています。文部科学省だって、「職業観・勤労観」のベースにあるべき能力として「4領域8能力」を例として挙げています。そして、それらは経済産業省が社会人に求められる能力として整理した「社会人基礎力」とほとんどが重なるのです。キャリア教育は、単に「職業」のことを知りましょう、「仕事の選び方」を理解しましょうというものではないと考えます。まさに「生きる力」をはぐくむために必要なのがキャリア教育ではないのかと思っています。

そして、「起業教育」は、その中の一つの「手段」ではないのでしょうか。もちろん、起業教育で創造力やコミュニケーション能力、あるいは失敗を恐れない力といったものが身に付くことは確かでしょう。ただ、それが「すべて」だとは私には思えないのです。

キャリア教育には様々な「切り口」があって、たとえば、金融やお金のことを学ぶ「金融教育」や「金銭教育」も一つの切り口だし、「経済教育」という切り口もある。あるいは「職業体験」もそうですし、「ものづくり教育」も。そして「起業教育」もその一つ。いろんな切り口が用意されている中から、地域や学校が実情に応じて選択できればいいのではないのかなと思います。どの切り口から入っても、目指すところは最終的には同じところなのですから。

今回のようなお話しをうかがうと、自分の中にいろんなアイディア(らしきもの)がふつふつとわき上がってくることに気付く。そういうヒントがたくさん詰まったシンポジウムでした。最後の質疑応答の中にもありましたが、問題は、「どうやったら実現できるのか」というノウハウです。先進的な事例はもちろん参考になりますが、表面的な部分だけ真似しても長続きはしないでしょう。「どうすれば」というところは、結局自分たちに引きつけて、自分たちで考えていくしかないのかもしれません。

 

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3 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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選択の自由 (中野一人)
2009-03-01 18:52:33
役所は、手放しにキャリアスキル向上の名目で間接雇用を野放しにしてしまいました。
一方の声しか聞いていないのですよ。役所の方は。
声と力の大きい方の声だけ。
結果、この世の中ですよ。

仕事ってホントは厳しい。金を生み出すのって、すごっく厳しい。
役所の人は何か生み出しているのですか?否ですよね。
知らない癖に世の中をひっかき回している、としか言いようがない。

役所の方にこそ、キャリアスキルを身に付けて頂きたいと常々思っております。

さて、素晴らしいお話をお聞きになったようですが、まだ起業と言う言葉に縛られている感があるようです。
世界問わず、徒弟制度の元にあらゆる技が受け継がれてきた現実をどの様に変革させたいのでしょうか?
貴方の仕事もある意味伝達と、環境から得た自己研さんによるものと思います。
その中で独立したい者はすれば良いし、団体に残り後進を育成すると言う人も必要です。
それぞれがそれぞれの役目をスムーズに行えるために、公共がサポートするのが筋と考えますが、如何でしょうか??
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公共=行政? (やっぴ)
2009-03-02 00:03:22
「役所の人は何か生み出しているのですか?否ですよね」…。

そこまで言われると返す言葉もないのですが、あえて言わせていただくと、行政が生み出しているものだって、たくさんありますよ。失礼ながら、それが中野さんの目に見えていないだけなのではないでしょうか? あえて見ないようにしているのかどうかわかりませんが、民間企業の方が一生懸命仕事をして「お金」を生み出しているように、役所の人だって、(「キャリアスキル」を身につけながら)「よりよい行政サービス」を生み出しています。「お金」を生み出すことだけが仕事のすべてではないでしょう。

「起業教育」にしても、今の民間企業の現実を踏まえて、イノベーションをもっと促進したいという思いが込められているのではないでしょうか。それこそ、前のコメントで書いてらした、「それを生み出せる県内企業」を支援することにもつながるはずです。

「それぞれがそれぞれの役目をスムーズに行えるために、公共がサポートするのが筋と考えます」とありますが、いったい、「公共」とは「行政」のことでしょうか。公共というのは、行政も民間企業もNPOも、みんなが担うものではないですか? そのためには、まずはそれぞれがそれぞれの立場で自分の役割をきちんと果たすことが大切と考えます。行政だけがサポートするべきものでもないし、民間企業やNPOが常にサポートされるものでもないでしょう。


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そうなのですよ。 (中野一人)
2009-03-02 16:21:03
皆がそれぞれの立場から、それぞれをフォローすると言うのが本来の姿だと思います。
独立して活動している個をつなぐ、それが行政の行うべき仕事と思います。

と言うあるべき姿を知りつつ、行政はそこに止まらずイノベーションまぁ、変革の名のもとに直接手を付けようとするのが問題だと思います。
なぜなら、役人は何も生み出さない人だから。
いえ、間に立つために、あえて何も行わず、公平にいる為なのです。判りますか?
何かをしようとすると、その反対側に立つ人を犯す事になる。その危険性を再度認識するべきです。また、リスクや意義について十分議論されないまま着手する案件が非常に多いと感じております。
変革は大切ですが、意味、意義の確認はもっと大切です。

色々なセミナーを開催して頂くのは非常にありがたいのですが、果たしてその内容が当地の在住する人々のニーズに合ったものなのかどうか、甚だ怪しいものだと思います。
来場する面子、いつもの名前と顔ぶれ。

しかける行動、積極性は評価いたしますが、できればもっと声を聞く事から始めて頂きたいとセミナー主催者にお願いしたいと思うのです。
そして行政は聞いた声、届けられた声をしっかり取りこんで反映させてほしいと思うのです。
最近ほとんどの案件が「聞きました、でも行政はこうします」と意見の反映なく行政側が当初用意した内容で突き進む事の方が多いです。
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