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ジョン!─人名に見る世界史(8)

2006-06-15 | └人名に見る世界史
レオナルド・ダ・ヴィンチの壁画「最後の晩餐」に描かれた12人の使徒。彼らの名前は、洗礼名として現代に受け継がれています。

まずは彼らのリーダー的存在だったペテロPetero。彼はガリラヤの漁師で、本名は「シモン」なのですが、イエスが彼を指して「私はこの岩の上に私の教会を建てる」(マタイの福音書)と言ったことから「ケファ」(アラム語で「岩」の意味)と呼ばれるようになり、のちにそのギリシア語訳である「ペトロス」→「ペトロ」となったわけです。英語のピーターPeter、フランス語のピエールPierre、ドイツ語のペーターPeter、イタリア語のピエトロPietro、スペイン語のペドロPedro、ロシア語のピョートルPyotrはすべてペトロの名前から派生したものです。ローマの迫害を受けて殉教したペテロ(岩)の上に建てられた教会がサン・ピエトロ大聖堂です。イエスの予言通り、彼はキリスト教世界の中心に位置することになるのです。

12使徒のうち、最初の殉教者となったのがステパノ。イエスの死後、その福音を伝えていましたが、ユダヤ人の怒りをかって石で打ち殺されてしまいます。彼は死ぬ間際に「主よ、この罪を彼らに追わせないでください」と叫んだと聖書は伝えています。彼の名のギリシア名ステファヌスStephanusからは、英語のスティーヴンSteven・Stephen、スティーヴSteve、ステファニーStefany、ドイツ語のシュテファンStefan、イタリア語のステファノStefano、スペイン語のエステバンEsteban、フランス語のエティエンヌEtienne、ロシア語のステパーンStepan といった名前が生まれました。

「最後の晩餐」の“謎”の張本人である伝道者ヨハネJohannes。イエスに洗礼を授けたとされる人物もヨハネですが、それとは別人。なにしろ聖書には「ヨハネ」が14人も登場するのだそうです。また、歴代ローマ教皇の中でも、ヨハネと名のつく人が最も多く24人もいるのだとか。

そんなヨハネは、英語のジョンJohnのルーツです。ジョン・レノン、ジョン・F.ケネディ、ジョン・ウェインなど、ジョンという名前のつく有名人はいくらでも挙げることができますが、 驚いたのは16世紀のイギリスでは男性の4人に1人は「ジョン」だったということ。「ジョン」が多いのは聖書だけでなかったのですね。「ジョン」が男性の代名詞として使われるのもうなずけます。また、ジョンの愛称から、ジャックJack、ジャッキーJacky、ジョニーJohnnyといった名前も生まれています。先般亡くなったローマ教皇ヨハネ・パウロ2世のあだ名は「ジョニー(ヨハネ)・ウォーカー」でした。世界を精力的に訪問して歩いたということから、有名なウィスキーの名前に引っかけてつけられたあだ名です。

「ヨハネ」は、ドイツ語ではハンスHans、フランス語ではジャンJean、イタリア語ではジョヴァンニGiovanni、スペイン語ではファンJuan、ポルトガル語ではジョアンJoan、ロシア語ではイワンIvan、と様々な派生形を生んでいますが、いずれもそれぞれに男性を表す代名詞的に使われているようです。

オランダ語ではヤンJanですが、かつて北米ニューイングランドに入植したオランダ人を、イギリス人がからかってヤンキーYankey(オランダ野郎)と呼びました。これがいつのまにか米国人全体を指す俗称となったという…。ヤンキーとはもともとオランダ人だったのです。この話は『人名の世界地図』に載っていました。

『人名の世界地図』には、ほかにも「ヨハネ」に因む様々な名前のエピソードが紹介されています。ヨハネとはヘブライ語で「ヤハウェは恵み深し」を意味するヨハンナンJohananを語源としているそうです。ヤハウェとはヘブライ人(ユダヤ人)の唯一神のことです。ヘブライ語表記ではYHWH(ヘブライ語には母音表記がない)。最初の"Y"だけで「神」を表すことからYで始まる名前は聖書にいくつか登場します。"Y"はラテン語表記で"J"に変わります。ヨーロッパ人の名前に非常に多い"J"から始まる名前は、ほとんどがこのような「Y系」の名前に由来するのです。

ヨシュアYehoshua(「神は救済する」という意味)もその一つですが、これはギリシア語ではイエスースIesous、つまり英語で言うジーザスJesus=イエスとなるのです("Y"が"J"に変わっているのはラテン語表記に影響されたため)。英語ではイエス自身の名に由来する人名はほとんどないのですが(スペイン語ではヘススJesusという名は普通に用いられるそうです)、元の形であるヨシュアに因むジョシュアJoshuaという名はけっこう耳にします。「Y系」の名前としては、ほかに、ヨセフ(「神よ増やしたまえ」の意味)に由来する英語のジョセフJoseph、イタリア語のジュゼッペGiuseppe、スペイン語のホセJose、ヨナタン(「神は与えたもう」の意)に由来する英語のジョナサンJonathanなどがあります。

12使徒の中にもいるヤコブは、「かかとをつかむ者」という意味だそうです。これは旧約聖書に登場するヤコブの逸話に由来しています。ヤコブは、英語ではジェイコブJacobあるいはジェイムズJames、フランス語ではジャコブJacob、ジャックJacquesといった名前を生んでいます。

そういえば、Yappiも「Y系」の名前だな~。


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