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カクレマショウ

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「アンジェラ」─存在しない過去と消してしまいたい過去

2007-10-23 | ■映画
2005年/フランス/90分
監督・製作・脚本 リュック・ベッソン
撮影 ティエリー・アルボガスト
音楽 アンニャ・ガルバレク
出演 ジャメル・ドゥブーズ/アンドレ リー・ラスムッセン/アンジェラ

リュック・ベッソンが「ジャンヌ・ダルク」(1999年)以来、久々にメガホンをとった話題作…の割には、劇場公開の際の評判はさんざんだったようで。ストーリーが単純で安っぽい、リュック・ベッソンの個人的な思い入れが強すぎる、とかね。しかし、ストーリーはともかく、映画ってそもそも製作者の強い思い入れがなければ作れないもので、その思いに共感できれば自分にとって「いい映画」になるし、そうでなければ「駄作」と判断されてしまうだけ。結局、好き嫌いの問題ですね。私にとっては、リュック・ベッソンであろうがなかろうが、どっちかといえば好きな部類に入れたい映画。

もしかしたら、この映画の主人公は、モノクロで描き出されるパリの美しい街並みかもしれません。とてもわかりやすくてファンタジックなこの物語の舞台として、あの叙情的な情景がものの見事にはまっています。

アルジェリア系米国人のアンドレは、米国で夢敗れ、パリに戻ってきた。今や借金まみれの生活に身をやつし、取り立てに追われる日々を送っています。返済期限まであと1日だと迫られ、ついに印籠を渡される。

そんな彼の前に、一人の女性が現れます。自殺をしようとセーヌ河にかかるアレクサンドル三世橋の欄干に立った彼の隣で、同じように身を投げようとしていた女性。アンドレは、自分自身が死のうとしていたことも忘れ、先に飛び込んでしまった彼女を助けるために河に飛び込む。

アンジェラと名乗るその女性は、彼より数十センチも背が高く、しかも抜けるような白い肌と見事な脚線美を持っていました。アンジェラはなぜか彼につきまとうようになり、アンドレも、彼女と一緒にいることでひょっとして借金取りに一目置かれるのではないかと考えます。彼女は、その美しい肢体を武器に、男どもを翻弄してせっせとアンドレのためにカネを作ってやるのです。困惑するアンドレに、アンジェラは自分の正体を明かす…。

アンジェラを演ずるのはスーパーモデルのリー・ラスムッセン。まさに、「この世」離れした雰囲気が効いています。「過去を持たない」アンジェラが、「消したい過去」の多いアンドレにとって何ものにも代え難い存在になっていったのもわかります。もしかしたら、アンジェラが自分の過去をすべて消し去ってくれて、そこから新しい人生を歩んでいけるかもしれない…。

アンドレを鏡の前に立たせるアンジェラ。この映画で最も印象的な場面です。自分自身の姿をいったん鏡の中から消し去った上で、アンジェラは、自分をちゃんと見つめなさい、とアンドレに諭す。自分自身を見つめる、ふりかえる。それはとてもむずかしいことです。表面的な態度や言動を反省することは誰にでもできる。しかし、そういう態度や言動の元になる自分の深いところを見つめるのはなかなかできない。しかし、アンドレはアンジェラの声に導かれるようにして、自分をじっと見つめる。そして、鏡の中の自分に「愛している」と言う。その頬を伝う一筋の涙。

アンドレは幸せ者だなあとつくづく思う。しかし、彼がそのことに気づくために、"Angel-a"の助けを得なければならなかったことが少しもどかしい。逆に人間の弱さやはかなさもそこに感じるのですけどね。この映画の根底に流れているのは、やはりキリスト教的な世界観であり、人間観なのでしょう。人間の過去も未来もすべて神が「運命」を握っている。人間はかくも弱く、はかない存在であり、神の使いである天使が人間を救ってくださるというわけです。

"Angel"(エンジェル)が、ギリシア語で使者とか伝令を表す"Angelos"に由来することからわかるように、もともとは神の言葉や意志を人間に伝えるための使者であり、その姿は、天と地上を行き来するための羽や翼を背中につけたイメージで描かれます。

レオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」のように、天使が女性の姿として描かれるようになったのはルネサンス以降のことで、もともと天使は男性でした。キリスト教、ユダヤ教ではともに7人の「大天使」がいますが、固定的に登場するのは、ミカエル(Michael)、ガブリエル(Gabriel)、ラファエル(Raphael)、ウリエル(Uriel)の4天使。なお、同じ一神教であるイスラム教にも天使は存在します。コーランには、ミカエルと同じと思われるミカル(Mikal)という天使も登場するくらい、キリスト教との共通点が多いのです。なのに、なぜこの二つの宗教はこれほど争うのか?

それは置いとくとして、「天使」は、時代を経るごとに、単なる伝令・使者の立場から、人間の死後の霊魂を管理したり、天体の運行を司ったりと、もっと重要な「仕事」が割り当てられるようになっていくのがおもしろい。神の意志なんかおかまいなしに。この映画の"Angel-a"も結局は…。

天使ついでの話…。

「エンゼル・パイ」の森永製菓のシンボルは、背中に羽をつけたかわいらしい赤ちゃんです。では、あれは「エンゼル」つまり「天使」でしょうか?

あの姿を見て、「キューピッド」だと答える人もいるかもしれませんね。キューピッドも「天使」なんでしょう…? いえ、実は、キューピッドはキリスト教でいうところの「天使」ではありません。"Cupido"(クピド)はもともと「欲望」という意味を持つローマ神話の愛の神です。ギリシア神話の愛の神エロスとも同一視されます。キリスト教とは全く関係ないのですね。

エンゼル・パイの「天使」は、実は"Angel"ではなかった…。余計な話でしたね。

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