
EL SECRETO DE SUS OJOS
THE SECRET IN THEIR EYES
2009年/スペイン・アルゼンチン/129分
【監督】フアン・ホセ・カンパネラ
【原作】エドゥアルド・サチェリ
【脚本】エドゥアルド・サチェリ フアン・ホセ・カンパネラ
【出演】リカルド・ダリン/ベンハミン・エスポシト ソレダ・ビジャミル/イレーネ パブロ・ラゴ/リカルド・モラレス ハビエル・ゴディーノ/イシドロ・ゴメス カルラ・ケベド/リリアナ・コロト ギレルモ・フランセーヤ/パブロ・サンドバル
(C)2009 TORNASOL FILMS - HADDOCK FILMS - 100 BARES PRODUCCIONES - EL SECRETO DE SUS OJOS (AIE)
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昨日の記事で触れたアルゼンチン映画。中南米の国の映画って、ラテン系のノリに彩られた陽気な映画が多いのかというと決してそうではなく、逆にジメっとした映画が多いですね。ただ、共通しているのは、「顔や首筋に噴き出る汗」というイメージ。この映画もまさにそんな感じでした。

主人公のベンハミンは、元・刑事裁判所の職員。引退して、25年前の未解決殺人事件を題材とした小説を書き始めている。その事件は、彼と、彼の上司だったイレーネにとって、忘れられない事件だった…。
「刑事裁判所」というのが、日本にはないのでよくわからないのですが、要するに、犯罪捜査もできる裁判所、みたいなものでしょうか。日本でも、警察だけでなく、検事が捜査もしますから、そう考えると違和感もないかも。ベンハミンは高卒のノン・キャリア、新しく上司として赴任してくるイレーネは一流大学卒のキャリア。その対比も興味深いのですが、ベンハミンの部下という設定のパブロという男がなかなか見逃せない。パブロはベンハミンの目を盗んでしょっちゅう仕事を抜け出しては、バーで酒を飲んでいるというアル中。でも、黒い服を着て出勤してきたイレーネに、「今日は聖人がお亡くなりに?─天使が喪服姿なもので」なんてほめる抜け目のなさもある。ベンハミンが、「いったいどこでそんなセリフを覚えてきたんだ?」とパブロに尋ねるのも楽しい。
彼らが関わることになる事件というのは、新婚の妻、リリアナという女性が暴行されて殺害されるという残虐な事件。すぐに犯人として挙げられた二人の外国人が、拷問による自白を強いられたことを知り、ベンハミンは真犯人の捜査に乗り出す。そこで出てくるのが、「瞳の奥」というキーワード。彼は、被害者の夫リカルドから、被害者の生前のアルバムを見せてもらううち、写真に写っていたある男の「瞳」に注目する…。
え、そんなんで犯人と決めつけちゃっていいの~?と思うのですが、ベンハミンは、捜査終了のお達しなんか意に介さず、パブロとともに、写真の男、イシドロ・ゴメスを探し出すのに躍起となる。
物語は、現代と25年前を行ったり来たりしながら進んでいきます。脚本がよくできているので、過去と現在がうまく溶け合って、唐突感や違和感を感じることはほとんどありません。
事件が起こった1974年というのは、アルゼンチンでペロン大統領が亡くなった年です。ペロンは長きにわたってアルゼンチンを支配した独裁者(その2番目の妻が、マドンナ主演の映画「エビータ」で有名なエバ)。クーデターで追放されていたペロンはその前年1973年に復権したばかり。ペロンの死後、副大統領だった妻イザベラが世界初の女性大統領に就任しますが、有効な政策を打ち出すことはできず、結局はクーデターで失脚する。こういう社会的混乱の中で起こった事件、という設定なのですね。
この映画、犯罪サスペンスなのか、それとも、ベンハミンとイレーネの長い時を経たラブストーリーなのか? たぶん、どっちも正しい。ただ、前者だけの映画でも、後者だけの映画でも、たぶん凡作になっていただろうと思う。両方がうまく絡まっているからこその作品です。ちょっと不満を言えば、ベンハミンとイレーネが、若き日に「惹かれ合っている」という状態が、今ひとつ明らかでないような気がしました。ただ、それも、次のシーンに凝縮されているのかもしれません。二人が25年前のイレーネの婚約パーティの写真を見ていた時のこと。そこに写っているベンハミン自身が、イレーネをじっと見つめているではありませんか。イシドロ・ゴメスの「瞳の奥の秘密」を語るベンハミン自身がそんな瞳をしているのです。

そのことは、映画の中で特にベンハミンやイレーネの口から語られることはありません。この映画は、けっこうそんなふうに「語らずに語る」ことが多いような気がします。瞳を見れば、その人の考えとか気持ちが分かる。最後のほうで、ベンハミンとイレーネが乗ったエレベーターにゴメスが乗り込んでくるシーンもそうです。3人とも一言も語らない。沈黙だけで観客に十分緊張感を与えるシーンですね。

ラストは想像もしなかったどんでん返しが待っていますが、そこに至るまでの伏線は着々と張られています。そういう意味でも、すぐれたサスペンス映画だと思います。伏線といえば、Aの文字が打てないタイプライター、というのも秀逸な伏線。ベンハミンはいつも”A”を手書きで修正していた。冒頭のシーンで、ベンハミンはベッドで“TEMO(怖い)”とメモをとるのですが、その真ん中に“A”を入れると、“TE AMO”(愛してる)になる…。わ、やっぱりこりゃ一筋縄でいかない恋愛映画だ!
THE SECRET IN THEIR EYES
2009年/スペイン・アルゼンチン/129分
【監督】フアン・ホセ・カンパネラ
【原作】エドゥアルド・サチェリ
【脚本】エドゥアルド・サチェリ フアン・ホセ・カンパネラ
【出演】リカルド・ダリン/ベンハミン・エスポシト ソレダ・ビジャミル/イレーネ パブロ・ラゴ/リカルド・モラレス ハビエル・ゴディーノ/イシドロ・ゴメス カルラ・ケベド/リリアナ・コロト ギレルモ・フランセーヤ/パブロ・サンドバル
(C)2009 TORNASOL FILMS - HADDOCK FILMS - 100 BARES PRODUCCIONES - EL SECRETO DE SUS OJOS (AIE)
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昨日の記事で触れたアルゼンチン映画。中南米の国の映画って、ラテン系のノリに彩られた陽気な映画が多いのかというと決してそうではなく、逆にジメっとした映画が多いですね。ただ、共通しているのは、「顔や首筋に噴き出る汗」というイメージ。この映画もまさにそんな感じでした。

主人公のベンハミンは、元・刑事裁判所の職員。引退して、25年前の未解決殺人事件を題材とした小説を書き始めている。その事件は、彼と、彼の上司だったイレーネにとって、忘れられない事件だった…。
「刑事裁判所」というのが、日本にはないのでよくわからないのですが、要するに、犯罪捜査もできる裁判所、みたいなものでしょうか。日本でも、警察だけでなく、検事が捜査もしますから、そう考えると違和感もないかも。ベンハミンは高卒のノン・キャリア、新しく上司として赴任してくるイレーネは一流大学卒のキャリア。その対比も興味深いのですが、ベンハミンの部下という設定のパブロという男がなかなか見逃せない。パブロはベンハミンの目を盗んでしょっちゅう仕事を抜け出しては、バーで酒を飲んでいるというアル中。でも、黒い服を着て出勤してきたイレーネに、「今日は聖人がお亡くなりに?─天使が喪服姿なもので」なんてほめる抜け目のなさもある。ベンハミンが、「いったいどこでそんなセリフを覚えてきたんだ?」とパブロに尋ねるのも楽しい。
彼らが関わることになる事件というのは、新婚の妻、リリアナという女性が暴行されて殺害されるという残虐な事件。すぐに犯人として挙げられた二人の外国人が、拷問による自白を強いられたことを知り、ベンハミンは真犯人の捜査に乗り出す。そこで出てくるのが、「瞳の奥」というキーワード。彼は、被害者の夫リカルドから、被害者の生前のアルバムを見せてもらううち、写真に写っていたある男の「瞳」に注目する…。
え、そんなんで犯人と決めつけちゃっていいの~?と思うのですが、ベンハミンは、捜査終了のお達しなんか意に介さず、パブロとともに、写真の男、イシドロ・ゴメスを探し出すのに躍起となる。
物語は、現代と25年前を行ったり来たりしながら進んでいきます。脚本がよくできているので、過去と現在がうまく溶け合って、唐突感や違和感を感じることはほとんどありません。
事件が起こった1974年というのは、アルゼンチンでペロン大統領が亡くなった年です。ペロンは長きにわたってアルゼンチンを支配した独裁者(その2番目の妻が、マドンナ主演の映画「エビータ」で有名なエバ)。クーデターで追放されていたペロンはその前年1973年に復権したばかり。ペロンの死後、副大統領だった妻イザベラが世界初の女性大統領に就任しますが、有効な政策を打ち出すことはできず、結局はクーデターで失脚する。こういう社会的混乱の中で起こった事件、という設定なのですね。
この映画、犯罪サスペンスなのか、それとも、ベンハミンとイレーネの長い時を経たラブストーリーなのか? たぶん、どっちも正しい。ただ、前者だけの映画でも、後者だけの映画でも、たぶん凡作になっていただろうと思う。両方がうまく絡まっているからこその作品です。ちょっと不満を言えば、ベンハミンとイレーネが、若き日に「惹かれ合っている」という状態が、今ひとつ明らかでないような気がしました。ただ、それも、次のシーンに凝縮されているのかもしれません。二人が25年前のイレーネの婚約パーティの写真を見ていた時のこと。そこに写っているベンハミン自身が、イレーネをじっと見つめているではありませんか。イシドロ・ゴメスの「瞳の奥の秘密」を語るベンハミン自身がそんな瞳をしているのです。

そのことは、映画の中で特にベンハミンやイレーネの口から語られることはありません。この映画は、けっこうそんなふうに「語らずに語る」ことが多いような気がします。瞳を見れば、その人の考えとか気持ちが分かる。最後のほうで、ベンハミンとイレーネが乗ったエレベーターにゴメスが乗り込んでくるシーンもそうです。3人とも一言も語らない。沈黙だけで観客に十分緊張感を与えるシーンですね。

ラストは想像もしなかったどんでん返しが待っていますが、そこに至るまでの伏線は着々と張られています。そういう意味でも、すぐれたサスペンス映画だと思います。伏線といえば、Aの文字が打てないタイプライター、というのも秀逸な伏線。ベンハミンはいつも”A”を手書きで修正していた。冒頭のシーンで、ベンハミンはベッドで“TEMO(怖い)”とメモをとるのですが、その真ん中に“A”を入れると、“TE AMO”(愛してる)になる…。わ、やっぱりこりゃ一筋縄でいかない恋愛映画だ!
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