カクレマショウ

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「ONCE ダブリンの街角で」─ダブリンの街に溶け込む歌

2009-06-03 | ■映画
"ONCE"
2006年/アイルランド/87分
【監督・脚本】 ジョン・カーニー
【出演】 グレン・ハンサード/男 マルケタ・イルグロヴァ/女 

なんだかこういう映画を観ると、ほっとします。とりたててストーリーと呼べるようなものはなく、ダブリンの街角で「男」と「女」(二人とも最後まで名前が出てきません)が出会い、お互いに惹かれるものを感じながらも、過去のしがらみから抜けきれない…という内容。でも、映画だからといって、どれもこれも波瀾万丈な物語である必要はどこにもない。こういうシンプルな映画もときには必要ですね。

二人を結びつけるのは「音楽」です。主演の二人はいずれも本職のミュージシャンとあって、劇中歌われる曲は、どれもホンモノで、すばらしい。ちゃんと聴きたくなって、サントラ盤も手に入れました。今日のような雨の夜には、グレン・ハンサードの奏でるアコースティックな調べが、静かに心を癒してくれます。

男は、ストリート・ミュージシャン。使い古して穴まであいたギターを抱え、一日中街角で歌う。オリジナル曲は夜しかやらないが、もちろん、いつかはメジャーになることを夢見ている。掃除機の修理屋を営む父親と二人暮らし。

ある日、花売りの女が目の前に現れる。彼女はチェコからの移民で、楽器店の昼休みにピアノを借りて弾くのを楽しみにしている。サントラ盤の1曲目、"Falling Slowly"は、その楽器店で、二人が初めてセッションする曲です。男がメロディを教え、女がピアノでそれに合わせていく。ぎこちなかったのが、だんだん息が合っていく様子は、恋の予感を感じさせるにふさわしいシーンです。

男が作った曲に詞をつけることを頼まれた女が、ポータブルCDの電池を買いに外に出て、スリッパのまま夜の街を歩きながら歌う"If You Want Me"もとてもいい。ダブリンの夜の光景と妙にマッチしていました。

男には、とっくに別れたのに、忘れられない女性がいる。で、今はロンドンに住む彼女に会いに行くと言う。その前に、スタジオで自分の曲を録音するので女にも参加してくれと頼む。街で見かけた別のバンドも仲間に入れて、夜中のスタジオでレコーディングに臨む急造バンド。同じアイルランドのU2を思わせるような彼のオリジナル曲"When Your Mind's Made Up"の迫力に、スタジオ・エンジニアの目も一挙に覚める。

 So, if you ever want something
 And you call, call
 Then I'll come running to fight, and I'll be at your door
 When there's nothing worth running for,

 When your mind's made up
 There's no point trying to change it
 When your mind's made up
 There's no point even talking
 When your mind's made up
 There's no point trying to fight it

 君が何か欲しいとき
 呼んでくれればぼくは走っていく
 君を守るために 君のドアにたどり着く
 走る意味が 別になくても

 君が本気で決めたのなら
 考え直す必要はない
 君が本気で決めたのなら
 話し合う必要もない
 君が本気で決めたのなら
 けんかする必要もない

レコーディングが終わって、女は自分の作った歌を静かにピアノで弾き語る。"The Hill"。かつて、チェコで「彼」のために作った歌。途中で思い出がよみがえって歌えなくなってしまうのですが…。映画の中盤で、二人がバイクで遠出した時に、男が女にチェコ語で「彼を愛してる?」ってどう言うのか尋ねるシーンがありました。女の答もチェコ語だったので、結局答えはわからずじまい。なんか、とてもシーンでした。

ところで、ダブリンと言えば、アイルランド生まれの作家、ジェイムズ・ジョイスが短編集『ダブリン市民』を発表したのは、今からおよそ1世紀前の1914年のことです。アイルランドが英国からの独立闘争に明け暮れていた時代。ジョイスは、当時のダブリン市民のどうしようもない「無気力」を描きました。日々の暮らしに対する不平、停滞、そして、麻痺…。ジョイスは、ふるさとの街のそんな「無気力」に嫌悪感を抱き、15の短編にその姿を生き生きと描き出しました。

ダブリンを舞台とするこの映画には、もちろんそんな気配は感じられません。むしろ、男も女も、ダブリンの街から、確かに新しい一歩を踏み出そうとしている。ダブリンに生まれた男はダブリンを去り、異国からきた女はそこにとどまる。でも、ダブリンの街で二人が出会ったことは、彼らが奏でた「音楽」とともに、きっと永遠に心に刻まれるのです。

いいじゃないですか…!

ダブリンの街には、グレン・ハンサードのようなシンプルで力強い歌が合う。ダブリンって、一度は訪ねてみたい街の一つです。おそらく、ケルトの文化が色濃く残る街だろうと勝手に想像しています。

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