この物語は、精神病院が舞台ではありますが、もう一つの物語が「首都国立博物館」を舞台として展開していきます。二つの物語は、いつまでも気を持たせることなく、意外と早めに交錯していきます。
もう一つの物語とは、ある学芸員が、かつて同じ「都博」に務めていた父親宛の古い手紙を見つけたことから、「都博」の歴史に隠された秘密を追うというものです。
「都博」が「東京国立博物館」をモデルにしていることは明らかですが、かつての勤務先がこの「東博」の隣にあったため、また仕事上訪れることも何回かあったため、博物館の位置関係などの描写には、懐かしい思いをもって読むことができました。「東博」は、特別展の開催期間以外は案外ひっそりとしたものです。私はそういう時に常設展をじっくり見るのが好きでした。
博物館の地下に秘密の部屋がある、というのはいかにも、という感じですが、戦時中の「収蔵品の疎開」から始まる混乱の中で、GHQによる接収を免れるために模造品が作られ、それが今もそのまま展示されているという設定は、そう奇想天外な話でもないのかなと思いました。
さて、この「もう一つの物語」がなくても読み応えがあるのでは…と、文庫の「解説」には書いてありましたが、私はむしろこの物語がサイドで展開するおかげで、精神病院特有の雰囲気から時折息抜きをしながら読み進めることができるのではないかと思いました。精神科医が患者と向き合っているうちに自分自身が精神を冒されることがままある─とこの小説の中でも触れられていますが、確かに、読んでいるだけで引き込まれそうになることもありましたから。
もっとも、本来の仕事をなげうって?までも博物館の真贋をめぐる謎に挑む江馬学芸員もまた、ある意味で精神的な病を抱えていたのかもしれませんね。なんとなく応援したくなるキャラクターではあります。
『症例A』>>Amazon.co.jp
もう一つの物語とは、ある学芸員が、かつて同じ「都博」に務めていた父親宛の古い手紙を見つけたことから、「都博」の歴史に隠された秘密を追うというものです。
「都博」が「東京国立博物館」をモデルにしていることは明らかですが、かつての勤務先がこの「東博」の隣にあったため、また仕事上訪れることも何回かあったため、博物館の位置関係などの描写には、懐かしい思いをもって読むことができました。「東博」は、特別展の開催期間以外は案外ひっそりとしたものです。私はそういう時に常設展をじっくり見るのが好きでした。
博物館の地下に秘密の部屋がある、というのはいかにも、という感じですが、戦時中の「収蔵品の疎開」から始まる混乱の中で、GHQによる接収を免れるために模造品が作られ、それが今もそのまま展示されているという設定は、そう奇想天外な話でもないのかなと思いました。
さて、この「もう一つの物語」がなくても読み応えがあるのでは…と、文庫の「解説」には書いてありましたが、私はむしろこの物語がサイドで展開するおかげで、精神病院特有の雰囲気から時折息抜きをしながら読み進めることができるのではないかと思いました。精神科医が患者と向き合っているうちに自分自身が精神を冒されることがままある─とこの小説の中でも触れられていますが、確かに、読んでいるだけで引き込まれそうになることもありましたから。
もっとも、本来の仕事をなげうって?までも博物館の真贋をめぐる謎に挑む江馬学芸員もまた、ある意味で精神的な病を抱えていたのかもしれませんね。なんとなく応援したくなるキャラクターではあります。
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榊と広瀬が診療所で再会するシーンに心がキュンとしました。エンディングは暗い感じになるのかなと勝手に予想していたのですが、そうでなく前向きな終わり方になっていたのがよかったです。広瀬が多重人格にまだ苦しんでいることや榊が薬を処方していること、アサミのことを考えるとハッピーエンドというわけではないのでしょうが、それでも何か希望の持てる最後でした。
読んでいるだけで引き込まれそう・・・わかる気がします。読みながら時折「自分はどうだったろうか?」と、いつも見て見ぬふりをしていた自分の心の闇に焦点をあててしまいました。それに、精神病院のストーリーが本当にリアルで自分もその場にいたのではないかという錯覚も、引き込まれそうになる原因だったのかもしれません。博物館のミステリー的な要素がなければ、私にとってはちょっと危険な本でした。あぁ、女性の方が催眠にかかいりやすいと本に書いていましたね。こんなふうに多分私は催眠にかかりやすい人間なのかもしれませんねw
いやあ、実に深い読み方ですね。こういう物語を通して「いつも見て見ぬふりをしていた自分の心の闇」をのぞくなんて。
潜在意識から誰も逃れることはできません。上手に操作していきたいものですね。