カクレマショウ

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「宇宙戦争」その1─二人の「ウェルズ」

2005-07-26 | ■映画
スピルバーグ監督、トム・クルーズ主演という、鳴り物入りで公開中の映画「宇宙戦争」。

皆さんは知っているでしょうか。この映画の原作が、100年以上も書かれたSF小説だということを。イギリスのH.G.ウェルズ(1866-1946)が発表した"The War of the Worlds"(『宇宙戦争』)がそれです。出版されたのは1898年。もちろん、当時は「SF」という言葉さえ存在しなかったのですが、ウェルズは、『タイムマシン』(1895年)、『ドクターモローの島』(同年)、『透明人間』(1897年)といった、今では誰もが知っている「SF的発想」を生み出したスゴイ作家なのです。彼より一回り上の世代に、ジュール・ヴェルヌ(1828-1905)というフランス人作家がいますが、こちらも『月世界旅行』(1865年、1870年) 、『海底二万マイル』(1869年)、『八十日間世界一周』(1873年)、『十五少年漂流記』(1888年)といった科学と空想と冒険の物語をたくさん残してくれています。この二人こそ「SFのルーツ」と呼んでいいのではないでしょうか。

さて、H.G.ウェルズの著した『宇宙戦争』は、「火星人」が地球に来襲し、ロンドンの町が廃墟と課していく物語なのですが、これをラジオドラマにしたのが先日触れたオーソン・ウェルズ(1915-1985)です。H.G.ウェルズとオーソン・ウェルズ。スペルは前者がWellsで後者がWellesと一文字違いですが、この二人の「ウェルズ」がある日、全米に大パニックをもたらすことになります。

1938年10月30日、ハロウィーン前日の日曜日の夜。CBSラジオから流れる軽快なラテン音楽が突然中断し、臨時ニュースが流れました。内容は、火星表面で水素ガスの爆発が観測され、その爆発とともに、異様な「光」が非常な速度で地球に向かっている、というもの。アナウンサーは緊迫した声で、続報が入り次第また伝える、と述べて再び音楽が流れ始めました。しばらくして続報が入ります。それは、その「光」がニュージャージー州の農場に激突したというものでした。さらに、現地からの生中継が入ってきます…。

「隕石ではないようです。巨大な円筒形をしています。直径30ヤードはあるかと思われます」
「皆さん、大変なことが起こっています。円筒の頂上部がまるでネジのように回転しています。あっ、内部から何かが出てきました。怪物です!緑色をした怪物です。何かを持っています。拳銃のようなものです。あっ、今、そこから光線が発射されました。燃えています。あたりが燃えています。ああっ、怪物が今、こちらに向かっています!」。

これを聞いていた全米市民がパニックに陥ったのも当然です。特に、地元の農場では、三角錐の形をした給水塔を火星人と間違えて銃撃したり、ワシントン州のある町では、火星人が通信施設を襲撃しているという実況後にたまたま停電が起こったため、火に油を注ぐ格好となってしまいました。

実はこれは、すべてオーソン・ウェルズが、H.G.ウェルズの『宇宙戦争』の舞台を米国に移した上で描いたドラマだったのです。夜8:00の番組開始時には、「今夜は、オーソン・ウェルズとマーキュリー劇場がラジオドラマ、H.G.ウェルズの《宇宙戦争》をお送りします」としっかりアナウンスされています。しかし、当時この番組の聴取率は低く、番組が始まった時には、裏番組を聴いている人が圧倒的多数だったのです。ところがたまたま8時12分を過ぎた頃に、その裏番組にあまり売れていない歌手が登場したために多くの人がチャンネルを変えました。CBSネットワークに周波数を合わせた人は、ちょうど「隕石の臨時ニュース」にぶつかることになりました。「ラジオドラマ」だという情報を知らずに、これは「本物のニュース」だと勘違いすることになったわけです。

全米各地で大混乱をもたらした挙げ句、これが作り話だとわかった人たちが、「だまされた」怒りをCBS放送局にぶつけることになります。オーソン・ウェルズは、クレームが殺到していることを受けて、番組の最後にこんなアナウンスを流します。

「これは休日のお楽しみ以外の何物でもなかったのです。たとえば、ヤブの中から飛び出して人を驚かせるといったことを、ラジオというメディアを通じて行ったに過ぎません。…これは大人のためのハロウィンだったのです。」

よくもいけしゃあしゃあと…という感じですが、これこそオーソン・ウェルズの真骨頂なのです。神妙な顔をしていても、内心はしてやったり、と思っていたにちがいありません。しかし、市民の怒りはおさまらず、損害賠償請求の訴訟が何件も起こされたと言います。

この「事件」は、大衆がマスメディアにいかに踊らされやすいかという例としてよく取り上げられますが、ただ、差し引いて考えなければならないのは、当時の時代背景です。つまり、米国民が大恐慌(1929年)の痛手からまだ完全には立ち直っておらず、さらにヨーロッパでファシズムが台頭し、戦争に巻き込まれるかもしれないという不安や恐怖が世相としてあったということです。「火星人」の襲来は確かに突拍子もないストーリーですが、「火星人」をたとえば「ナチス」に置き換えたとしたら、現実に十分あり得る話と考えられていたのです。

オーソン・ウェルズがそこまで計算していたかどうかはわかりませんが、弱冠23歳のウェルズはこの事件によって一躍有名となり、念願のハリウッド入りを果たすのです。彼が書いたラジオドラマは、ほぼH.G.ウェルズの原作に忠実なものでした。「ウェルズ」は「ウェルズ」のおかげで大成功を収めることになったというわけです。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ツタヤでみつけましたヨ! (romi)
2005-07-29 20:58:15
コンバンワ!先日メールしたromiデス!

今日ツタヤで「火星から・・」の宇宙戦争のDVDをみかけました。借りそびれてしまったのですが、コチラも是非見てみようと思いまっす!・・・って全然ちゃうヤツやったらどないしよ・・
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二つの「宇宙戦争」 (yappi)
2005-07-31 02:35:57
romiさん

コメントありがとうございました。



「火星から…」の「宇宙戦争」について、ちょうど今日書きましたので読んでください。比べるといろいろ面白いですね~。
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