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手塚治虫『火の鳥』覚書─1 黎明編─

2005-06-22 | └手塚治虫 『火の鳥』・『ブッダ』・『MW』
『火の鳥』のプロローグとも言える「黎明編」ですが、実は、角川書店版に掲載されているのは「黎明編・第2版」です。最初の「黎明編」は、1954年7月から翌年の5月にかけて「漫画少年」という雑誌に連載されていたのですが、この雑誌が休刊となったことによって8回で連載が打ち切られてしまったのだそうです。それから13年後、「COM」という雑誌が創刊されることになり、その創刊号(1967年1月)から改めて「黎明編」の連載が始まりました。これが「第2版」ということになります。

<主な登場人物>
イザ・ナギ/火の山のふもとに住むクマソの少年。
グズリ/医者。実はヤマタイ国の女王ヒミコのスパイ。
ヒナク/イザ・ナギの姉。
ヒミコ/ヤマタイ国の女王。
猿田彦(さるたひこ)/ヤマタイ国の隊長。
天の弓彦(あまのゆみひこ)/ヨマ国の弓の名手。
ニニギ/高天原族の王。
<舞台>
古代日本。ヤマタイ国の頃。

その生き血を飲めば不老不死が得られるという「火の鳥」。妻の病気を治すため、クマソの一人の男が「火の山」に挑んでいました。しかし、火の鳥を捕まえることはできず、彼は焼かれて死んでしまいます。その頃、海岸にグズリという異邦人が流れ着きます。彼は自分が医者だと告げ、男の妻ヒナクの病気を治してやり、ヒナクと結婚することになります。ところが、グズリは実はヤマタイ国のスパイで、彼の導きによりヤマタイ国の大軍勢がクマソに攻め入ってきました。率いるのは猿田彦。彼は村人を皆殺しにしますが、ヒナクの弟イザ・ナギだけはなぜか生かしてやり、奴隷としてヤマタイ国に連れ帰るのでした。

ヤマタイ国の支配者はヒミコという女王でした。彼女は祈祷と怪しげな呪術で人心をつかみ、絶対的な権力を誇っていました。しかしヒミコにもどうにもできないことが一つありました。それは日ごとに衰えゆく容姿と肉体です。彼女がクマソに大軍を送ったのも、不老不死の生き血を得るため、火の鳥を探させるためだったのです。そんなヒミコを弟のスサノオは冷めた目で見やります。

猿田彦は、イザ・ナギに弓を教え、一人前の兵士に育てようとします。いつしか二人の間には、本当の父と子のような感情が芽生えていきます。ヒミコに忠実に使えてきた猿田彦も、イザ・ナギを殺せという命令にだけは逆らったため、蜂の部屋に閉じこめられ半死半生の目にあいます。

皆既日食の闇に乗じて猿田彦を救い出したイザ・ナギは、彼をクマソに連れて行きます。猿田彦の鼻は、蜂に刺されたせいで大きく肥大していました。二人を追うように、ヒミコ自らが大軍を率いて火の鳥を探しにやってきます。今度は、天の弓彦という弓の名手を連れていました。

イザ・ナギは、彼らより一足早く火の鳥を発見します。火の鳥はイザ・ナギに話しかけてきます。「なぜ人間はそんなに死を恐れるの? 人間は虫や魚や動物より長生きする。その一生の間に生きている喜びを見つけられればそれが幸福じゃないの?」

イザ・ナギはそこで、死んだとばかり思っていたグズリと姉ヒナクに再会します。二人は子どもをもうけ、村を作り直そうとしていました。そこに襲いかかる火の山の噴火…。

黎明編の前半はざっとこんなストーリーですが、邪馬台国や卑弥呼をからめながら、火の鳥をめぐる人間の醜い争いが描かれています。不老不死を切実に願うヒミコの対極に、不老不死なんていらないと考える天の弓彦のような人間も配しているところが、手塚治虫らしいところではないでしょうか。

後半では、大陸から渡ってきた騎馬民族(一説には彼らが先住民を征服して大和朝廷を築いたとも言われる)を登場させ、「高天原族のニニギ」という男(のちの神武天皇?)に勝利を収めさせていきます。ギリシア神話と同じように、日本の神話もあながち作り話だけではないのかもしれません。

一方、深い深い噴火口跡に取り残されてしまったグズリとヒナクは、わずかに生えている草を食べながら、二人は子どもを生み、育てていました。10年後。長男タケルがついに絶壁をよじ登り、「外」の世界に出ることに成功します。その時、彼を励ましてくれたのは一度死んでよみがえった火の鳥でした。

火の鳥の壮大な物語は、始まったばかりです。火の鳥も、それからデカ鼻の猿田彦も、時を超えて再び登場してきます。

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