カクレマショウ

やっぴBLOG

アジアの芸術

2008-08-25 | ■美術/博物
福岡に行ったら、必ず行きたい場所があります。

福岡アジア美術館。中国、朝鮮、モンゴル、インド、中央アジアの国々、タイ、ベトナム、フィリピン、インドネシアなど、「アジア」の近現代美術専門の世界で唯一の美術館。オープンしたのは1999年ですが、この美術館の母体となった福岡市立美術館では、それ以前から、アジア近代美術関連の展覧会が毎年のように開催されていたのでした。古来から、日本への「アジア文化」の玄関口の一つだった福岡にふさわしい美術館と呼んで差し支えないでしょう。

ふだん「西洋美術」に見慣れているせいか、常設展で見られるアジアの近代画がとても新鮮に感じられます。西洋美術の模倣が全く見られないわけではありませんが、それでも、「アジア人」にしか描けないだろうなと思う作品が多い。

今回見られた作品では、中国のワン・ホンジェン(王宏剣)の油彩「山の野辺送り」がひどく印象的でした。



黄土高原での葬送の様子を描いた、幅200cmものこの大作は、まるで記念写真の一コマのように、参列者全員がこちらを向いています。中には写真に取られたくないとばかりに顔を覆っている人もいます。その圧倒的な写実感には、つい、登場人物一人一人をじっくり追いたくなります。そして、なんといっても圧巻なのは、人々の背景に描かれた黄土高原。1本の草木さえ拒絶するような荒涼たる大地。しかし、そういう大地にあっても、人間は生きて、そして死んでいくのです…。

モンゴル人画家のツェレンナドミディン・ツェグミド「オルホン河」も目を引かれる絵です。



モンゴル高原を流れるオルホン河にある実在の滝を描いたこの作品、滝の流れが、女神の髪の毛になっているのです。女神がまるで両手を広げたような格好にも見える。その腕の上では、人間が馬を引いて歩いています。表情までは見えませんが、どこか悲しげな雰囲気。女神は、そうしたちっぽけな人間たちを引き連れて、超然と前を向いています。苛酷な自然に「神」を見いだしていたモンゴルならではの絵だなあと思いました。

さて、今回、面白い企画展が2つ同時に開催されていました。「ドロロロロン─アジアの妖怪屋敷」と「アカルイ☆ミライ─新中国の宣伝画」。これ全部見てたったの200円! さすが太っ腹の博多っ子。

「妖怪屋敷」の方は、美術館の収蔵品の中から、妖怪やらお化けやらを題材にした作品を集めたものです。なかには、おどろおどろしい日本型の妖怪ももちろんいますが、けっこう、笑ってしまうようなユーモラスなヤツも多いなと思いました。アニミズム的な、森や山に住む精霊、仏陀を脅かす「悪魔」たち、人間を悪霊から守ってくれる魔除けの神様など、「お化け」の種類も様々で、改めて、一口にアジアと言っても、実態は多様だよなあと実感しました。

インドネシアのハリアディ・スアディという人の作品がとても気に入りました。インドネシアに伝わる魔物を描いているのに、色づかいやデザインは極めてポップ。そのアンバランスさがいい。



あと、少々ぎょっとさせられたのはこちら。



インドのドゥルーヴ・ミストリーの「見張る守護神-4」。何枚かの習作デザインに見られるように、古代オリエントの半獣半人の守護神をモチーフにしたなまめかしい彫刻です。守護神が左手で押さえているのは幸福をもたらすと言われる金の卵。実際、こういう守護神が海を泳いでいたり、空をびゅーんと飛んでいたりしても、おかしくはないと感じました。一瞬ですが。

最後のコーナーは、「妖怪になった人間たち」。妖怪は、もともと人間が「悪」のイメージをふくらませて勝手に作りだしたものですが、実は人間こそが「妖怪」にもっとも近いのだ、という皮肉。フィリピンのヌネルシオ・アルヴァラードの「仮面の女王」の前では、少し考えさせられた。彼は、フィリピン最大の砂糖の産地ネグロス島の出身。この島では、1980年代の国際的な砂糖価格の下落に苦しみ、貧困と死が島を襲う。この作品は、そうした中で外国(特に米国)に翻弄される一人の現地女性と、彼女を取り巻く「悪魔」を描く。

特に東南アジアの国々の作品には、欧米各国の搾取に苦しむ自国民の姿をとらえたものも多い。あるいは、作品の主題として、そういう「イメージ」を潜り込ませる。ひどい過去は、当事者にとっては「忘れたいもの」には違いないでしょうけど、こうして、芸術作品として残しておくこともきっと必要なのですね。芸術は時に歴史も語る。

「新中国の宣伝画」の方は、また改めて紹介します。

 

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