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やっぴBLOG

サルと人間どっちが大事か

2005-01-29 | ■青森県
下北半島の「北限のニホンザル」は、ヒトを除く霊長目としては地球上もっとも北に住む生物です。学術上きわめて貴重な存在として、1970(昭和45)年に国の天然記念物に指定され、人間に保護されることになりました。そのため、それまで200頭ほどだったものが急速に生体数が増え、現在約1,100~1,200匹ほどが半島内に生息しています。

まさかりの形をした下北半島の「刃」の最下部にあたるところに脇野沢村という村があります。人口約2,500人、漁業を主な産業とする小さな村です。村にある「野猿公苑」には、50頭ほどのサルが保護されています。村の観光ポスターに、「北限のサル」とニホンカモシカの写真が並べられているように、「北限のサル」は村にとって大事な観光資源です。

ところが、この村で、今月半ばからサルの「駆除」が始まっています。ここ数年、サルたちが山から人里に下りてきて、畑の作物を荒らしたり、人家に侵入して食べ物をあさったり、果ては村人を威嚇したりと、様々な被害を与えるようになっていたからです。何しろ彼らは「天然記念物」ですから、昨年日本各地に出没したクマのように、簡単に殺してしまうわけにはいきません。畑に電流を流す柵をつけてみたり、玄関の鍵をこまめにかけるようにしたり、様々な防御策を講じてきたのですが、「サル知恵」の前には一向に効果がなく、ほとほと困り果てていたというのが現実のようです。

こうした状況の中、県がついにサルの駆除を許可し、これを受けて村では、威嚇など人的被害をもたらす恐れのあるサル24頭を2月末までに捕獲することにしました。24頭程度であれば、群れの維持に支障を来すことはないという判断からです。当初は、捕獲したサルは京都大学霊長類研究所に引き取ってもらう予定だったのですが、「受け入れは秋以降」とする京大側と時期が合わなかったため、薬殺しか手段はなかったわけです。とりあえず「指名手配」されたサルのうち3頭が駆除されました。

私が通っていた小学校で、かつて、冬場にエサ不足で震えているという脇野沢村のサルたちにリンゴを贈ったことがありました。そのことはちょっとした美談として新聞にも載ったのですが、かつてはそんなふうにさかんに「餌付け」をしてまで増やそうとしたサルが、今度は人間の手で殺されていく…。それだけを聞くと、確かに、なんと自分勝手な!と思ってしまいます。今回の駆除で、脇野沢村には相当数の非難の電話やハガキが来ているそうですが(中には相当ひどい文面もあるようです)、盲目的な動物愛護精神をお持ちの方のほかに、「自分勝手な!」という怒りに駆られた方も多いのではないでしょうか。

しかし、脇野沢村の住民にとっても、駆除は苦渋の選択だったに違いありません。結局、かつては仲良く共存できていたものが、できない状態にまで進んでしまったことが悲劇を招いたということになるのでしょうか。その原因はもちろんサルにはありません。「天然記念物」に指定し、餌付けをし、かわいがり、果ては「駆除」しているのはすべて人間(国や行政も含めて)です。人間と野生動物の共存を考える上で、そのことをしっかり認識する必要があると思います。人間とサル、どっちが大事?と聞かれたらそれは当然人間に決まっています。そこを外したら何も語れなくなってしまいますから。

だけど、人間が大事だからこそ、サルのことも真剣に考えてあげなければならないのだと思います。駆除以外に別の方法はないのか? サルが山で飢えなくてもいいように何かできることはないのか? クマも問題も同じですね。クマが里山できちんと暮らせていたら人里には降りてこないのではないか? 動物たちの生態系を壊すような開発がこれ以上進まないようにするために私たちは何をするべきなのか?

殺された(これから殺される)サルたちの供養のためにも、そんなことを本気で考えていかなきゃなりませんね。

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