私がまだ、中学生のころ、都内のほとんどの道路には都電が走っていた。その都電の停留所、赤十字病院下を降りて、反対側の坂の途中に、当時、西武鉄道のオーナー、堤義明氏の大豪邸があった。今は、豪華なマンションに変わっているが、私にとっては懐かしい場所である。堤義明氏と言えば、一時は飛ぶ鳥をも落とす勢いで、各地にプリンスホテルを建て、そこにゴルフ場やスキー場を併設して、日本のリゾート開発の先鞭をつけた人である。そして、各地に土地を取得したことから、世界一のお金持ちとまで言われるほどになったのである。だが、バブルがはじけ、さすがの義明氏も破たんすることになる。西武鉄道は有価証券虚偽が発覚し、2004年に上場廃止となる。株主からは株価下落や上場廃止に伴う損害賠償請求の訴えを起こされて、西武鉄道を引き継いだ西武ホールディングスは、その賠償額として225億円を支払っていた。今回、堤義明氏は前経営者としての責任を取る形で、その225億円を西武ホールディングスへ支払ったそうだ。現在の大金持ちは、昔の紀伊国屋文左衛門のように、乞食にまで落ちることはない。堤氏は西武を通じて「従前より会社に生じた負担は、私が負うべきものと考えていた。今回、解決に至り感謝している」とのコメントを発表したそうだ。(2016.2.12)