風塵社的業務日誌

日本で下から258番目に大きな出版社の日常業務案内(風塵社非公認ブログ)

女の口説き方

2020年12月05日 | 出版
某日、歩いて帰るかと会社を出ようとしたら、名古屋の甥っ子からケータイに電話がかかってくる。なにかの用件があるわけでもなく、年に一回くらいはおじさんの声を聞きたいのだろう。こいつは現在大学生で、卒業後は理学療法士を目指している。おじさんとちがって、まともな道を歩んでもらいたいものだ。「コロナで学校に行ってるのか?」とたずねたら、「ぼくたち実習が多いから、行かないとどうしようもないんだ」。その実習の相手をさせられる人にしてみれば、なんとも不幸な話だ。それとも、学生の実習段階では、患者の相手なんてさせてもらえないのかな。
「だからおまえ、いつまでもラグビーやらサッカーなんてしてないで、合気道とかの古武道系やってみろよ」「前もその話をしていたけど、それってどうして?」「介護の現場とかで、古武道の動きを覚えていると楽に相手をサポートできると言う人がいて、その受け売り」「へえ、そうなの?」「いや、そうかどうかを知らない。だから、その実験サンプルにおまえがなれって言ってるだけ」「フーン」「小柄な女性の介護士さんが、体の大きいじいさんを起こそうとしたら大変でしょ。そういうときに合気道とかのコツを知っているだけで、介護士さんの負担が少なくてすむらしい」「柔道じゃダメなの?」「わし、柔道きらいなん。空手じゃ意味がない。だから、合気道とかのマイナー系にしてくれというわけだ」
なんて話を最初はしていたのだけれども、そのうち、甥っ子の「彼女がほしい」が始まる。さかりのついたオス犬だから、それはしょうがない。しかし「バイトしてお金を貯めて、ソープにでも行ってこい」というアドバイスは求めていないだろうし、その発言が甥っ子のお母さんにでもばれたら人間関係が気まずくなってしまう。
そこで「女にもてたければ、スイーツ情報にくわしくなり、『ぼくが出すから甘いもの食べにいこうよ』と近くの女の子を誘えばええやろ」とアドバイスしてやる。「スイーツかあ」という薄めのリアクションなので、「おまえの姉ちゃん(姪っ子)と最近評判のお店を回れば、すぐに情報通になれるだろ」「そうだねえ」「それとも、おまえがスイーツ作り上手になるかだな。一人暮らしを始めて甘いもん作って、『美味しいもの作ったからぼくんち来ない』って女の子を誘えば、すぐにホイホイついて来るぞ」「そうかなあ」「それで甘いもんだけじゃなく、小洒落た一品も目の前で作ってやったら、すぐに落ちるぞ」「本当?」と、甥っ子がだんだんと食いついてきたのが手に取るようにわかる。単純なやつだ。
「キャベツの千切りでも、包丁で手際よくカタカタ刻んでいったらかっこよく見えるだろ」「うん。あれ、かっこいいよね」「わしもそんなことできないけれど、それを女の子の目の前でやってみせたら、『こいつを手放したくない』って女の欲望をかきたてさせられるわけだ。おまえは大学生にもなっても自宅通いしてるんだから、毎日お母さんの手伝いをして料理の腕を磨けよ」「そうだねえ」「あとは、UFOキャッチャーが得意というのもあったなあ」「それは少し古いかも」「こっちはおじさんなんだから、最近のことなんか知らねえよ」
「そういえば、おじさんは大学に入って、実家にほとんど帰らなかったの?」と甥っ子に問われた。「ああ、1回か2回くらいしか帰らなかったんじゃないかな。しかも、そのうち実家なんてなくなっちゃうし」「ああ、そうか。お父さんに聞いたけど、いろいろ大変だったんでしょ」「おまえのじいさんというやつが頭悪すぎで、それから逃げようとしてわしは海の向こうまで行くことになったんだな」「お父さんと一緒で一浪したんでしょ」「おまえの親父を見ていて高校って4年制だと思っていたから、在学中は勉強なんて全然しなかった」「大学生のときは自分で料理していたの?」「しないよ。ズッと飯つきの寮に暮らしていたんだから。いまのおまえもそうだろうけど、若いと腹が減ってばかりだろ」「そうだね」「そこで朝晩ご飯食い放題なんだから、これは幸せだったよ」
「それでなんで不登校になるわけ?」「最初に入った寮に飯はなかったんだ。それで、飯食うために働かなければならなかったから、学校なんて行ってる場合じゃなかった、というのがオフィシャルな説明」「ほかの理由があるの?」「本音は、幼稚園のときから学校なんて大きらいだったというだけだし、それに入った大学ってバカばっかりだったから面白くもなかった」「そんなわけないでしょ」「こっちは文学部で、おまえのように実習とかしなきゃいけない世界じゃないわけな。要するに本を読んでればいいわけよ。ところが本なんか読んだこともねえようなやつらばかりで、話してもつまんねえなと思っちゃった。それに大学の講義なんてつまんねえだろ。だから行く気がなくなっちゃった。ああ、ごめん、池袋まで来ちゃった。またな」「エッ、ずっと歩いてたの」「そうだよ。お母さんによろしく言っといて」「お父さんにはいいの?」「そっちはいいよ」

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