福岡へ2019（07）

あるかたに教えていただいたところによると、現在、キャナルシティなる巨大ショッピングセンターとなっているところは、そもそもカネボウが経営していたプールのレジャーランドの跡地であったそうだ。それは知らなかった、と同時に、小生が福岡に暮らしていたころ、のちにキャナルとなる箇所がどんな状況であったのかの記憶がない。フェンスに囲まれた茫々たる空き地でも広がっていたのならば目立つから、かえってその印象が残っているはずだろうと思うのだけれども、それすらも思い出せない。そのうえ、キャナルシティなるものがオープンしたのは、小生が東京に出てからの話である。したがって、その再開発の工事風景など知る由もない。ウーン、しばし思い起こしてみるものの、キャナルオープン前の姿がまったく思い出せないのはどうしてなのだろう。
キャナルのオープン当初は書店もなかに入っていたので（現在はない）、営業に行ったことがある。そのため、キャナルがオープンしてわりと早い段階で行ったと思われる。その当時の印象は「こりゃまた、ずいぶんとバブリーな商業施設を造ったものだなあ」というもので、すぐに巨大な廃墟と化すのではないかと思っていた。ところがあにはからんや、オープンから20数年後の土曜夕方のキャナルシティ、ずいぶんとにぎわっている。しかも家族連れの姿が目立つ。
また、キャナルシティができたことにより、街の広がりが点から面になったように感じた。小生が住んでいたころ、福岡市の人口は100万人ちょい。街と呼べそうなのは天神と中洲と博多駅周辺というところで、中洲から博多駅間にはなんともうら寂しい風情の断裂があり、とても面と呼べるようなものではなかった。博多駅周辺の商圏も拡大し、その断裂点にはキャナルが登場し、面としての広がりになったということである。そして現在の福岡市の人口は150万だったかな。ただしその一方で、北九州市を筆頭に周辺各市町村の人口は減少傾向にある。「九州は福岡の一人勝ち」とよく言われるが、要は、周辺各地から福岡市に人口が移動していったわけである。
そこで佐賀在住Ｋ氏によると、「福岡はコスパがよい」とのことだ。都市としてそこまで大きくなっているというのに、飲み屋などの値段は佐賀とたいして変わらないらしい。いくら中洲の飲食店が高いといっても、銀座ほどはしないことだろう。ただし、自腹で銀座で飲んだことのない小生が、銀座の値段など知るわけがない。同様に、佐賀で飲んだこともないので、佐賀の値段も知らない。しかし、銀座のあるおすし屋さんが美味しかったのは知っている。そのお店に、年に一度は自腹で行けるくらいのご身分になりたいものだ。
キャナルシティの１F中心部に噴水があり、そこから大量の泡（シャボン？）を噴出するという演出をしている時間だったのかな。小生の周りでは、多くの子どもたちが泡を捕まえようとキャーキャー騒いでいる。これだけ多くのファミリー層が来ているということは、どこかに巨大な駐車場でもあるのだろう。それと、これは東京も変わらないが、中国系を中心に外国人観光客の姿も目立つ。中国なんて、それこそキャナル級の規模のショッピングセンターなんてゴロゴロ転がっているようにも思うのだけれども、わざわざ日本まで来て買い物をしてくれている。ありがたい話だ。そのうえ彼らの表情が明るいのが、こちらの気分を楽しくさせてくれる。旅行者にありがちな警戒心など微塵も感じられない。小生がもしも中国なりの外国に観光旅行になど行ったら、スリやらボッタクリにあわないかとドキドキハラハラしてしまうことだろう。
こうしてキャナルのなかをブラブラ歩いていたら、小生のケータイが着信でブルブルし始める。妻からである。「いま、どこ？」とたずねたら、「それがどこなのか、よくわからないのよぉ」ハァ？なん言いようと？「博多駅から100円バスに乗ろうとしたら乗り場がわからなくて、それで急いで歩いていまキャナルの方に向かっているんだけど、博多署を通り過ぎたところで、ここからどうやって行くんだっけ？」こいつはバカか？博多もんのくせ、博多の街も知らんとや？「そんなもん、そのまままっすぐ進んでいったら、どこかの大通りにぶつかるやろ。それを左折すればよかやん」「ああ、そう。とにかくそっちに向かっているから、もう少し待ってて」
なんだよこいつはと思いつつも、かろのうろんの前にもどることにする。日が落ちて気温が下がってきたのと同時に、風も少し強くなってきたようだ。お店の前のガードレールに腰掛けていると、急に尿意がこみあげてくる。こんなことならばキャナルで用をたしておけばよかったと、あとの祭りが始まる。すると、お店の入り口がガラッと開いて、従業員のおねえさんが顔を出し、看板をひっくり返して「本日終了」にしてしまうではないか。アリャ～と、小生は開いた口がしまらない。あわてて時間を見ると18：45くらいだったか。