ピカソ・マニマニア

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丘の上の家

2020-07-04 13:50:49 | 物語詩

 

彼女とは カルチャーで知り合った

 

ちょっとした一日限りのレクチャーで

たまたま隣合わせの席に座った

講義後にお茶でもご一緒にということになり

連絡先を交換

私が海辺の町に住んでいると知り

憧れの場所なので是非お邪魔したいということになった

 

きっちり一週間後に彼女はやってきた

先週の講義開始時間と同じ1時半だった

ケーキを二個と 古いが磨き上げられたカップ掛けを持参して

 

翌週も 翌々週も そのまた次の週もやってきた

ケーキ二個と ちょっとしたアンティークの小物を土産に

 

天気のいい日には 湘南の海が一望出来る 眺めのいい丘の上まで散歩した

彼女は丘の上が気に入り 時々旦那様も連れてくるようになった

そんな時 持参するケーキは三個に増えた

 

一年もたったころ 私の夫が閑職になり

その曜日は家にいるようになったので

訪問の日を変えてほしいと彼女に頼んだ

 

実は彼女は渋谷で夫婦でアンティーク店を経営していて

この日は休店日、他の日は夫婦で来れないという

 

持参のケーキは4個に増えたが

暫くして夫の堪忍袋が破れ 二人に暴言を吐くようになった

 

夫が二人に失礼なので もう来ないで欲しいと彼女に言うと

あら、ちっとも気にしていませんよと 答えるのだった

 

私は とにかくこの日に大事な用事を入れることにして

どうにか一年余りに及んだ 二人の来訪を防ぐことに成功した

わけの分からない 私にはごみとしか思えないがらくたが

これ以上増えないのでほっともした

 

そして半年ぐらいして 別の曜日に

二人がやってきた

 

あの丘の上に地下室付きの家を見つけたので 買ったという

コンクリート作りでちょっとモダンだった

地下室は 店の商品の倉庫代わりに使えるし

 

リフォームしたので 遊びに来てほしい

ちなみに店の休店日は 今日の曜日に変えたと

 

ちょうど一週間後のこの曜日に

私はケーキを三個と 深紅のバラの花束を持って

彼女の家に行った

 

外観はもとより 室内が素晴らしかった

磨き上げられたアンティークのテーブル

緞帳のようなカーテン

そこここに置かれた壺や絵画

とても人が暮らしているようには思えない

 

見るに

ご主人は作業ズボンで庭の草木の手入れ

彼女はぞうきんを片手のエプロン姿

 

聞けば

住宅情報社が しょっちゅう取材に来て

写真を撮っていくそうだ

 

自慢の地下室だが

じめじめと湿気に溢れたなかに

積み上げられた商品と思しきものの反対に

現在使用中と思われる ベッドが置いてある

電気も水道まで引いてある

彼女たちは この地下室で寝起きをしているのか

 

ほうほうの体で退散し

再三のお誘いにはもう乗らなかったが

ほどなくして

彼女はころころと曜日を変える休店日に

ケーキを二個もって 我が家に来るようになった

 

休店日、 つまり彼女が我が家にやってくる日

ご主人は 解体する古家に 目ぼしいものはないか

探しに行っているのだそうだ

 

丘の家の彼女の家は駅まで遠く 私の家の前を

毎日ご主人の送迎時に通る

 

駐車場は道路に面していて

我家の車がへこんでいる時などには

「大丈夫?」と インターフォン越しに

声もかけたりしてくれる のだ。

 

 

 

 

 

     by  風呼      

 

 

 

 

 

 

 

 

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