二人を乗せたプリウスは一路北北東へと向かった、小雨がみぞれ交じりになった、モニカはGGIにこれ以上話をさせまいとするかのように無言で運転を続けている
GGIはさきほどバッグから取り出した水鉄砲を手にしてみた、これいったいどうやって使うんだ、こんなものほんとうに役にたつのか、でもいちおう使い方を聞いておかなければと思った、窓の外に目をやったまま、おそるおそる口を開いた
「モニカ、ご多忙なところを邪魔するようで心苦しいのですが、これ、どうやって使うのかですか、お教え願えないでしょうか?」
外はみぞれから雪にかわろうとしている、モニカは前方を見たまま答えた、
「知っておきたいのですか、99号?あなたはお疑いかもしれないけれど、その水鉄砲、とても役に立つのです。使い方は簡単です、ボディの側面に液晶パネルが付いているでしょう、タッチパネルです、スイッチを入れて、画面の指示にしたがい選択していくのです 、そして一段階ごとに《決定》をタッチし次の段階に移ればよいのです」
「選択するって何を?」
「99号、オツムがわるいですね、人生、何事も選択でしょ、選択の連続・・・
ですから、えっ?何ですか、オレは何もできるだけ選択しないようにして生きてきたですって?・・・それも選択のひとつです、非選択という選択・・・」
「そんなこと言ってませんよ、私は。できるかぎり洗濯しないで生きてきたと言っているのですよ」
「まあ、99号、不潔ね、顔色が良くないと思っていたら、あなた顔を洗濯してないだけのことなのね・・・ああ・・またあなたの無駄口に引き連られてしまいそう・・もういや・・・ とにかく、使用法、説明だけはしておきます」
「まずはじめに《標的の種類》から決めます、美男、美女、非美男、非美女、ガキンチョ、ただのアホ、イジワルばあさん、ヤンキー、人間もどき、政治家、政治屋、警察、検察、マル暴、天使、カミさん、神さま、精霊さん、仏さん、不死鳥、ドラゴンズ、ジャイアンツ、カエルさん、オケラさん、アメンボさんなどなどの中から好きなものを選び決定するのです」
「すると次の画面が現れます、今度はたとえば発射する液体の種類が表示されます、ただの水、軽水、重水、化粧水、聖水、ルルドの水、小便小僧のオシッコ、ヨッサリアンの鼻水、トレビの広場の噴水、四万十川の汚水、シャネルN0.5、放射能テンコ盛り原発冷却水、深窓の令嬢の涙雨、お買い得の量り売り安物香水、媚薬入り高級香水、アルコール類全般(酒、焼酎、ビール、ウォッカ、アブサン、ワインなどなどからお好きなものを選んでください:注、水割りも選択可能)、自称高級または低級ミネラルウォーター、創業者の血と汗と涙が入っているコカコーラなどの各種清涼飲料、湖底かる噴き出た汚泥入り琵琶湖の水、一度皮膚についたら最低3年間は臭いがとれないために気が狂ってしまうGIA特性超悪臭水などのなかから選びます、これが終わったら次の画面、球種を選びます、液体が発射されたあと目標物に到達するまでの液体の勢いや形状のことです、ストレート、カーブ、フォーク、シュート、シンカーなどの中から選びます、その次は射程距離、これは30センチから30メートルの範囲で自由に選べます、それに噴射状態、これは液体を霧状にばらまくか、散水するのか、噴水状に噴射するのかといったことの選択です、このようにして最後の段階に至ったら、《ほんとうにこの銃を発射しますか》と聞いてきますので《はい》、《いいえ》、《どちらとも言えない》のいずれか選べば準備完了です、それにひまなときに遊べるようにゲーム機能もついています」
「へえ~、ずいぶん手間がかかるんですね、でも、そんな複雑なことしていたら、肝心なときに、敵が突然姿を現したときなんか間に合わないのじゃありませんか?」
「大丈夫、そのようなときは《とつぜんのことであわてふためいているので、すべておまかせ》を選択するだけでよいのです」
「するとどうなるのですか?」
「テキトーな条件で液体が発射されることになります、わかりましたか?」
あまりにも馬鹿馬鹿しくて、GGIは不機嫌になり、黙りこんだ。なった、何が《わかりましたか?》だと、ヒトをからかうのもいいかげんにしろ!どうせ口から出まかせに決まっている、このお澄ましヤロウ、何を考えているんだ・・・・
するとモニカが言った
「おや、どうなさったの?お体のお具合でもお悪いの、お洗濯していないお顔のお色がますますお悪いようよ、大丈夫?それとも琵琶湖が無くなってしまうのがご心配なの」
「・・・今日は天気も悪いし、気分の最悪・・・なんでも《お》をつければいいってもんじゃないでしょう・・・とにかく、今日は99号、何もかも具合が悪いのです、しばらく黙っていてください、無駄口はもう止めてください、お願いです・・今日のミッション、無駄口厳禁とおっしゃったのはあなたじゃないですか」
するとモニカはとつぜん怒りだした
「まあ、無駄口だなんて・・失礼ね!・・・せっかくあなたのことを思って丁寧に説明してあげたのに・・・ひどいわ、ほんとにひどいわ・・・ひどいわ、ヨッサリアン、じゃなかった、99号は・・・もうこんなミッション、ごめんだわ!・・・私のは無駄口ではありません、情報の共有が大切だからご説明したのです、おわかりですか」
「おわかりもクソもないでしょう、近頃は何かというと情報の共有とやらが大流行のようですが、それならお聞きしますがね、それほど大切なことなら、なぜ本日のミッションの内容を誰も私にいつまでたっても教えてくれないのですか?そうおっしゃるなら、いますぐ本日のミッションに関する情報の共有とやらを実行していただきたい」
「・・・困りましたね、実はニャーニャから口止めされているのです・・・でも99号のおっしゃることももっともです・・・・では本日のミッションの核心、すなわち本ミッションにおける99号の果たすべき役割だけお教えしておきましょう・・・ちょっと申し上げにくいことなのですが・・・99号の本ミッションにおける役割は小学生になることなのです・・・小学生になるのです・・・詳しいことは目的地についてから第二の男がちゃんと説明いたします・・・」
「何?小学生!なにをふざけてるんだ、この知性と教養gがあふれすぎて毎日溺れそうになっている99号に小学生になれというのか!いったいどういうつもりなんだ、悪ふざけにもほどがあるぞ、これは悪質なパワーハラスメントだ、あのニャーニャのやろう!」
「ごめんなさい・・・実は最初からミッションの内容を99号に教えると、怒って帰ってしまうかもしれないからと、箝口令が引かれていたのです・・・」
そのとき携帯のベルが鳴った、前を走っているインサイトからだった、第二の男の声がした
「もうすぐ本ミッションの最大の危険地帯、メタセコイア街道に差しかかります、街道に入ったらフルスピードで走行すること、用心のため車間距離を十分にとってください、何があっても決して止まらないこと、路面が凍結しはじめています、注意してください、何かあったら必ずモニカの指示に従ってください、今後、街道を走り抜けるまでは一切連絡いたしません、無事を祈ります、以上」
返事するまもなく電話は切れた、GGIは「もうすぎメタセコイア街道だそうです」と言って第二男の話をモニカに伝えた、モニカは無言だった。
(今夜は、メタセコイア街道にまで行き着く予定でありましが、残念ながら時間切れとなりました、お許しくださいませ)
よろしければ写真をクリックしてご覧ください、プリウスの車窓からの冬景色です
グッドナイト・グッドラック!