UGUG・GGIのかしこばか日記 

びわ湖畔を彷徨する独居性誇大妄想性イチャモン性前期高齢者の独白

「黒い足」・・・あるいは血まみれフランス現代史・・・

2018-09-18 02:09:44 | 日記
この土曜日、GGIよりずっと若い某知人の家を訪問しました。知人と話しておりましたら夕方になって某公立高校の二年生である知人の娘が帰ってきました、

半ズボンにTシャツ姿、背中に荷物、元気ではありますが何やらややつかれた様子

「久しぶりだね、でもその姿、花のJKなのに何やらオッサンふうやなあ」

「オッチャン、私、だんだんオッサンになってきた、どうしよう・・今日は来年私が通っている高校を受験したい中学生たちに学校を紹介するイベントがあって、私たち書道部はパフォーマンスしたんや、体育館の床に広げた大きな紙の上を墨汁たっぷりの筆を持って走り回った、それで疲れてしもうた、ちょっとオッチャン、私の足、見て見て!」といって両足を投げ出しました。

今日の写真はこの元気高校生がなげだした足を撮ったものです。よろしければクリックしてご覧くださいませ。

ご覧のように墨汁で真っ黒であります。文字どおり真っ黒けの足を目にして、突然、GGIは「ピエ・ノワール」という言葉を思い出しました。フランス語で「黒い足」という意味です。普通はpieds noirsと綴りまますがPieds-noirsと記しますとまったく別のことを意味する言葉になります。スラングです。

スラングのピエ・ノワールはフランスの植民地であったアルジェリアにかつて入植して居ついたフランス人のことを意味しています。正確な比喩ではありませんが、かつてのわが帝国の植民地《満州》に入植した日本人のような存在といってよいでありませう

フランスは1830年以降、北アフリカのアルジェリアを植民地化していましたが、二次大戦後アルジェリアは1953年~1962のアルジェリア戦争に勝利して独立を勝ちとりました。アルジェリア戦争は凄惨を極めた戦いでしたが、アルジェリアに入植して特権的な地位にあったピエ・ノワールの多くはアルジェリアの独立に反対であり、そのためフランス軍などによるアルジェリア人への厳しい弾圧を容認していました。アルジェリア戦争終結後、ピエ・ノワールの多くはフランス本土に戻りましたが、ときにはフランス本土で疎まれ差別的な扱いを受けたともいわれています。

アルジェリア戦争に関連して、もうひとつフランスでは「アルキ」(harki)というスラングが知られています。アルジェリア戦争のときにフランス側に立って戦ったアルジェリア人を意味する蔑称であるとされています。

2006年のサッカー・ワールドカップの決勝戦(イタリア対フランス)で、両親がアルジェリア出身であるフランスを代表するサッカー選手ジダンがイタリアチームのマルコ・マテラッツィに対して頭突きを食らわせたために退場になったという事件がありましたね。この事件につていの報道で、GGIは「アルキ」というスラングがあることを知りました。

この決勝戦のとき、イタリアの選手が何かジダンを軽蔑するような悪口を吐いたために怒り心頭に達したジダンがいきなり頭突きに及んだのだとされていますが、いったいどのような悪口をイタリアの選手が言ったのかということが話題になりました。大半の報道ではイタリアの選手が口にしたのは「おまえの母ちゃんデベソ!」といった類のジダンの女性の家族についての悪口であったということになっているのですが、GGIは某新聞記事で「いやそうではない、イタリアの選手はジダンに向かって実は《お前の親父はアルキじゃないか!》と言ったのだと報じられているのを目にした記憶があります。

GGIとしましたは、この説のほうがずっと説得力があるように思われます。「アルキ」呼ばわりされることはアルジェリア系のフランスの市民にとっては耐え難い侮辱であろうと思われるからです。それでジダンはいきなり頭突きを食らわせた・・・それにくらべれば「オマエの母ちゃんデベソ」式の悪口は単純な悪口にすぎませぬ。

アルジェリア戦争はこのような差別的なスラングを生み出したのですが、この戦争、フランス現代史の一大汚点とも言うべき、凄まじい、ある意味では汚い戦争でありました。

最終的にはアルジェリア戦争を終結させることを決意して第五共和制を発足させたドゴール将軍により和平協定が結ばれるに至ったのですが、そこに至るまではフランスの社会は大荒れであり、ときには内戦に近い状況を呈していました。

アルジェリア戦争中はアルジェリアでフランス軍による大弾圧が行われました。「パラ」(パラシュート部隊の意味)の名でアルジェリアの人々に恐れられたフランス軍治安部隊のFLN(アルジェリア民族解放戦線)やその協力者に対する弾圧は凄まじいものであり「パラ」に捕えられた者は徹底的に拷問されました。その拷問の様子をアンリ・アレッグという人物が「尋問」と題した本を著わしています(1958年、みすず書房)。GGIもそのむかし読んだ記憶があります。発行年1958年ということですからアルジェリア戦争の最中に出版されたことになりますが、戦時中にこのような本を出版するのは勇気を要したのではないかとGGIは思います。

また、ご存知の方もおられることと思いますが、戦争終結から二年後に、アルジェリア戦争の実相をドキュメンタリータッチで描いた映画、「アルジェの戦い」というとても優れた作品(1966年、イタリア)が作られています(第27回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞)。この映画には実際にフランス軍とたたかった経験がある人たちが出演しています。

フランス軍のなかでもアルジェリアのフランス軍は日本で言えば先の大戦前・大戦中における満州の関東軍のような存在であり、アルジェリアの独立に最後まで反対、抵抗していました。

それだけではなく、アルジェリア独立に反対する極右の軍事組織OAS(秘密軍事組織)がクーデターを企てたり武装闘争やテロを行うなど、政府に徹底して抵抗、このためドゴール将軍は何度も暗殺の危険に見舞われています。

ドゴール暗殺を題材にした、英国の作家フレデリック・フォーサイスによる「ジャッカルの日」という作品(1971)があります。これは後に(1973)映画化されています。なかなか見ごたえのある作品です。ご覧になった方もおられるのではないかと思います。フィクションではありますが、当時のフランスの状況についての描写は事実に基づいたものであると思われます。ドゴール暗殺のために雇われたテロリストは実在の人物をモデルにしたものだと伝えられいます。

そういえば、フランスの有名なミュージカル映画「シュルブールの雨傘」(1964)も、その時代背景もアルジェリア戦争でありました。アルジェリア戦争そのものを直接描いたのシーンはなく、徴兵されてアルジェリアの戦線に向かう青年とヒロインの別れのシーンや戦地での青年のスナップ写真がチラッと出てきたり、「アルジェリア帰りの奴は荒っぽくて困る」などと言うセリフが出てくるだけですが、ああ、あのときフランスは戦争をしていたのだと思いながらこの映画を見ますと、この作品、単なるミュージカルとはまったく違ったものに見えてきます。この映画を監督したジャック・ドゥミ氏は、何十年も経た後、新聞のインタビューに答えて、「あの頃は、アルジェリア戦争に触れることはタブーに近かった、だからあれで精いっぱいだった」と述懐しています。

アルジェリア戦争が終わると入れ替わるようにアメリカがベトナム戦争を始めました。フランスはインドシナ戦争(第一次インドシナ戦争、1946~1954。ベトナム戦争は第二次インドシナ戦争とも称されます)でホーチミン率いるベトナム軍に惨敗し、次いでアルジェリア戦争に直面して敗北したため、フランスはいくらかは勉強したのでありませう。ベトナム戦争でのジャングル戦に備えた最新の装備による米軍の訓練ぶりを視察したフランス軍の関係者は、「いくら武力に勝っていても、いくら戦力を投入しても、民族独立戦争には勝てない」と苦い忠告をしています。でも米軍は聞く耳を持っていませんでした・・・

インドシナ戦争といえば、この戦争で戦闘機のパイロットしてベトナムで戦い深い心の傷を負ったフランスの青年を主人公にした「シベールの日曜日」という印象深い映画(1962)がありました。

そして、時を経ること半世紀、2015年1月、パリで風刺が売り物の週刊新聞「シャルリー・エブド」がイスラム系のテロリストに襲撃され何人もの記者たちが殺害されたために、フランは「テロとの戦い」を宣言、国内でイスラム系市民に対する監視を強め、人権を無視した強引な取締りを行うともに、シリアへの空爆を開始、空母「シャルル・ドゴール」を出撃させています。また、アルジェリア戦争後のこの半世紀の間、第二次中東戦争に介入したり湾岸戦争に参加したり、またフランスの旧植民地における紛争に軍事介入したりしています。

「文化国家」として日本人に人気があるフランスの現代史、かように血まみれです。

しかしながら、翻って日本は、南北朝鮮あわせておよそ400万の人々が命を落とした朝鮮戦争とおよそ300万人のベトナム人が命を落としたとされるベトナム戦争に深くかかわっていました。太平洋戦争において約300万人の死者をだしたにもかかわらず、日本は米軍の欠かすことのできない強力な後方支援基地としての役割を果たしていただけではなく、朝鮮特需やベトナム特需で日本の経済は潤った、つまりこの二つの戦争で日本は大儲けしたのですから、日本の現代史もリッパと言えるうような代物でありまえん。間接的ではあるとは言え、フランスほどではないにしても、かなり血まみれであるということは否定しようがない事実と言うべきでありませう・・・

今日は花の女子高生の「黒い足」に引きずられて、まとまりのない話になってしまいました。ゴメンナサイ。

なもあみだぶ・なもあみだぶ・なもあみだぶ

グッドナイト・グッドラック!

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