tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

高齢者の就業問題:6 労働生産性低迷の原因

2022年12月21日 14時51分47秒 | 労働問題
まず最初に1つの数字を挙げておきましょう。日本とアメリカの労働生産性の比較です。

アメリカのGDPは大まかに20兆ドル、日本のGDPも大まかに5兆ドルというところでしょう。
アメリカの就業者は1.6億人、日本の就業者は6700万人、総人口は2.8倍ですが、就業者は2.4倍です。日本人の方が働く人の割合は多いのです。

ところが、GDPの4倍を就業者の2.4倍で割ると、1.67となって、1人当たりのGDPはアメリカが日本の1.67倍です。つまりアメリカの就業者は、日本の就業者の平均1.7倍近いGDPを生産しているのです。アメリカの労働生産性は日本の1.7倍近いのです。

この数字はドル換算ですから円レート次第で変わります。しかし、どう考えても日米間の生産性格差は3割から5割はありそうです。

という事は、日本は今、人手不足と言っていますが、日本人がアメリカ並みの生産性を上げれば、3割ぐらいは人が余ってくるという事ですし、もし、日本がそれだけ生産性を上げればGDPは3割から5割増えるという事です。

生産性を上げる基本は、1人当たりの資本装備率を上げること教育訓練をすることの2つが基本ですが、その背後には技術革新があります。
日本は、この3つにおいて、長期不況の中で大きく遅れてしまいました。

当面する身近な問題点を具体的に上げてみましょう。
① 非正規従業員が十分な教育訓練を受けず、高度技能・技術の保持者になっていない。
② 定年再雇用者が閑職などに配転され、熟練した得意な職務を続けていない。
③ 企業が国内投資より海外投資を優先してしまっている。
④ 国や企業が基礎研究を含む研究開発に十分な資本投下をしなくなっている。
などがあるのではないでしょうか。

30年にわたる長期円高不況で、コストダウンしか生き残る道はなかった事もあるでしょう。しかし円レート正常化後も同じことを続けた失敗は早急に改めるべきでしょう。

先ずは、企業の社会的責任として、非正規従業員の希望者を正規化して、それだけの賃金を支払える様な経営をすることから始めるべきではないでしょうか。

これからますます増える定年再雇用者(定年延長者)をいかに本格活用するか、高齢化時代の雇用、人事、賃金政策を産業界としてビジョンをつくり、長期勤続の中で育成した従業員の能力を最後まで使い切る人材の徹底活用策の策定は必須でしょう。

これからの国際環境の不安定化の中で、国内を中心にした企業発展を重視し、国内産業の高度化をベースに海外展開といった経営を基本とすべきでしょう。
そのためには。日本が戦争の破壊に巻き込まれないような国の在り方について、産業界の総力で政府の政策に関与すべきでしょう。

経済社会の発展の原動力はイノベーション、技術開発にあることを現場で実証するのは産業界です。この基本を政府に認識させ、産学協力も含め、世界の技術開発をリードする高度な産業国家として日本経済社会の将来を担う役割を果たすべき産業界、企業としての気概を持つべきではないでしょうか。

こうした日本経済の底上げのために、時間とコストをかけた高齢労働者の能力をフルに活用するシステムが一般化すれば、それは日本経済全体の生産性の向上に大きな役割を果たすと思われます。

端的な表現をすれば、日本の生産性向上のために貢献すべき人材を中国や韓国の生産性向上のために供給する余裕は今の日本にはないのです。
日本的経営は「人間中心」と言いながら、国内の人材を安易に無駄遣いしていたツケが、今の日本経済の生産性の低さに繋がっていることに気付くべきでしょう。

こうした人材の徹底活用、非正規従業員の教育訓練や定年再雇用の高齢労働者の積極活用が生産性向上、所得の上昇、将来不安の解消につながり、結果的に年金問題の解決を齎してくれるというのが、今後の日本産業社会の進む道ではないでしょうか。