豆の育種のマメな話

◇北海道と南米大陸に夢を描いた育種家の落穂ひろい「豆の話」
◇伊豆だより ◇恵庭散歩 ◇さすらい考
 

北海道における大豆生産の挑戦(2)ダイズシストセンチュウは克服されたか?

2011-09-12 18:03:08 | 北海道の豆<豆の育種のマメな話>

シストセンチュウへの挑戦

農作物有害動植物発生予察事業年報によると,大豆作付面積が68ha前後であった戦後15年は,発生面積および被害面積が次第に増加し,発生面積率が13%から32%,被害面積率は10%前後となっている。この数値は大豆と小豆を込みにした数字であり,被害の主体が大豆であることを考えるとさらに大きな被害であったと推察される。

その後,大豆の作付面積が12haに減少した198690年にかけては,発生面積率約20%,被害面積率が5%前後である。輪作体系が確立するとともに,抵抗性品種「トヨスズ」が育成され普及が進んだことによる。さらに,「トヨムスメ」「トヨコマチ」「ユキホマレ」など抵抗性品種が普及し,最近の被害面積率は2%前後と低下しているが,その危険性はなお顕在化していると考えられる。輪作体系が確立し豆作頻度が減ってきた十勝では被害が少なくなっているが,上川,空知,胆振地方などの転換畑大豆で被害が目立ってきた現実がある。シスト線虫対策は,抵抗性品種の導入,非寄生作物との輪作体系確立,線虫抑制効果のあるクリーニング作物(クロタラリア等)導入など多様に総合的に行わなければならないが,生産者の意識が大事であることを,この現実は示している。同時に技術指導者の責任も問われよう。

北海道には,ダイズシストセンチュウのレース135の分布が確認されており,最も広く分布するレース3に対しては,1995年代から精力的に抵抗性育種が進められ,「トヨスズ」「トヨムスメ」「トヨコマチ」「ユキホマレ」など成果は顕著である。一部で発生の見られるレース1に対しては,より強度の「Peking」系抵抗性を有する「スズヒメ」が育成された。なお,最近の道央道南地帯の調査によれば,「ゲデンシラズ1号」由来レース3抵抗性品種の導入が有効な圃場が52%(R3)であること,レース13抵抗性品種でのみ有効な圃場が43%(R3g+R3p+Rgp)であること,レース13抵抗性品種で対応できない圃場が4%あることが示されている(田中ら2007)。

また,ダイズシストセンチュウ抵抗性レース13に対するDNAマーカーが実用化され,育種事業の中に組み込まれ,効率的な選抜が可能になってきている。DNAマーカーを利用した抵抗性選抜と戻し交雑により,レース13双方に抵抗性を有する「ユキホマレR」(2010)が優良品種として登録された。

以上のように,シストセンチュウについては抵抗性品種の開発が進み,輪作体系の意義が認識されているが,引き続き優良品種にレースを考慮した抵抗性を必須形質として付与しなければならない。また今後は,線虫抵抗性に加え耐冷性,わい化病抵抗性,機械化適性などを複合的に備えた総合特性改善を目指すべきだろう。

ダイズわい化病への挑戦

わい化病は,いま対策を求められる課題の一つである。わい化病の発生と技術対策の経過を振り返ってみると,1952年道南地方で原因不明の萎縮症状が観察されてから,全道各地に発生が広まり,1973年には発生面積率59%,被害面積率24%を超える状況であった。また,東北地方へも被害は拡大している。この間,本病はジャガイモヒゲナガアブラムシによって媒介される新ウイルス病であることが判明し,1968年にはわい化病と命名され,1973年には殺虫剤の土壌施用など防除技術が確立され普及に移された。

これら防除技術は一定の成果をおさめ,その後被害面積率は5%前後に減少するが,発生の多い年には被害面積率が10%を超えることも珍しくない。特に,1990年以降初期感染するケースが多く,殺虫剤の播種時に播溝施用するだけでは不十分で,発生予察により殺虫剤の茎葉散布を組み合わせるなど防除体系が再構築された。

一方,抵抗性品種の開発は,中央農業試験場が中心に取り組み,「黄宝珠」「Adams」など圃場抵抗性品種の探索を進めるとともに,それらを交配して抵抗性品種「ツルコガネ」「ツルムスメ」を育成した。抵抗性品種の探索は,これまで3,000を超える品種について検討しているが,20余りの圃場抵抗性品種が見いだされているものの,真性抵抗性品種は見つかっていない。

育成された抵抗性2品種の作付けシェアはわずか2%であり,抵抗性品種の開発を急ぐ必要がある。現在,中央および十勝農業試験場の両育種場所では重点育種目標に位置づけ抵抗性品種の開発を進めているが,さらに植物遺伝資源センターでは豆類基金協会の支援を得て高度抵抗性変異体の作出を目指し,中央農業試験場生物工学部でも農水省の支援でDNAマーカーによる選抜法の開発を進めるなど組織が一体となって取り組んでいる。

植物遺伝資源センターは,遺伝資源の中からより高度な抵抗性をもつ「WILIS」(インドネシア)を見出し,中間母本「植系32号」を育成した。また,抵抗性品種「Adams」の生体上でジャガイモヒゲナガアブラムシの生育が阻害されることを認め,この性質を「アブラムシ抵抗性」と名付けた。アブラムシ抵抗性は「黄宝珠」には認められないことから,抵抗性にはアブラムシ繁殖抑制と感染ウイルスの増殖抑制の2要因が関与することが示唆され,両抑制因子を集積することで抵抗性の強化を図る試みが行われている。

しかしなお,生産現場からは,コンバイン収穫を行う場合,わい化病の罹病株があると茎水分の減少が遅いため,汚粒が発生するとの指摘があり,解決を要している。

参照:土屋武彦1998「北海道における大豆生産の現状と展望」豆類時報 10,9-21に加筆

Cweb  

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アステカ神殿の上に立つ大聖... | トップ | 鼓琴の悲 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

北海道の豆<豆の育種のマメな話>」カテゴリの最新記事