豆の育種のマメな話

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GM大豆の導入を振り返る(南米の大豆)

2011-02-27 17:00:25 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

アルゼンチンでは1996年にGM大豆の一般栽培が開始され,その後急速に拡大した。現在では少なくとも98%がGM大豆であると推定されている。同国は,ラテンアメリカの中でGM作物の導入を好意的に進めた国として位置づけられ,GM大豆の普及では米国より先行した。監督官庁は農牧水産省で,農業バイオテクノロジー国家諮問委員会が科学的環境リスク調査を実施,食品の安全性については保健衛生・農業品質管理局のガイドラインに従うことになっている。

 

ブラジルはGM大豆導入に慎重な姿勢をとってきた。すなわち,1997年モンサント社がGM大豆の販売を申請し翌年に国家バイオ安全技術委員会が安全性を認めると,消費者団体や環境保護団体が栽培の禁止を求めて提訴し勝訴した。以降,GM大豆導入を支持する農牧省や生産団体と,反対する環境省,消費者・環境保護団体,零細農家組織,NGO等が対立し,訴訟が繰り返され政治問題化した。

 

こうした中,実際にはアルゼンチン及びパラグアイから非合法的にGM大豆が導入され,南部の諸州で急速に浸透した。結果として膨大なGM大豆の在庫を国内に抱えることになった政府は,やむなく在庫大豆に限って販売を認可,自家採取種子について翌年の生産・販売を限定付きながら認め(2003年,大統領暫定令113号,131号),その後も2004年産種子の利用,2005年産GM大豆の販売認可など,なし崩し的に認可することになった(大統領暫定令223号)。2005年,大統領は「バイオセキュリテイ法」にサインし,GM大豆は合法化された。この国の潜在的な耕作可能面積を考慮すると,GM大豆解禁が国際競争力を高め,米国を抜き世界最大の大豆生産・輸出国になる可能性がある。

 

パラグアイでは,1997年にアルゼンチンから非合法的に持ち込まれ,南部を中心に栽培は急速に拡大した。当初は,低収で旱魃に弱いなど適応性の低さが指摘されたが,新品種の導入が進むにつれ生産も安定してきている。この間,政府はGM大豆の栽培を認めていなかったが,2001年に試験栽培の認可,2004年になって初めて国家商業品種登録簿への登録を承認した。一方,2005年には,GM大豆の流通段階で1t当り3.22ドルをロイヤリテイとして支払うことを,大豆生産者団体が特許所有会社と約束した。この額は5月のシカゴ相場に対応して決められるため,その後4ドルを超えている。この額の10%はバイオ技術振興研究基金に回されるなど,遅れていた法的環境整備も動き出している。

 

◆GM大豆定着にともなう課題

1996年にGM大豆の商業栽培が開始されてから10年以上が経過した。この時期いくつかの総説が出されているが,CERDERIA & DUKE2006)は255の文献を引用し,GM大豆のメリットとして,①これまでの除草剤に比較して環境負担が小さい,②これまで食品や飼料としての安全性に関するリスクは報告されていない,③不耕起栽培や管理作業回数の減少により環境面で利益が出た,④収穫物中に異物(雑草種子)混入割合が減少したと指摘し,今後の問題点として,①少なくとも3種の雑草にグリホサート抵抗性が確認された,②グリホサートでもともと枯れにくい雑草種が優占化する傾向が見られるなど指摘している。

 

従来からグリホサート抵抗性の雑草出現が懸念されていたが,これまでにブタクサ,ケナシヒメムカシヨモギ,ススキメヒシバ等で抵抗性個体が確認されたとの報告や,ツユクサ,スギナ,アメリカアサガオなどが圃場内で優占化する事例もみられる。現時点ではまだ大きな問題となっていないが,単一除草剤の寡占は問題で対応を検討する必要があろう。

 

GM大豆導入の過程で,小農が大農に飲み込まれ,雇用労働者が土地なし農民となって都市へ流れ込むなど社会問題も発生している。また,大豆畑の拡大や輸送インフラの整備は環境破壊に連なるとの意見が顕在化している。各国政府は,未開墾地の樹木伐採の制限,農地面積に応じた植林の義務付けなどの対応を開始した。

 

参照:土屋武彦2010「南米における大豆生産の実態」農業1529:53-58

 

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