豆の育種のマメな話

◇北海道と南米大陸に夢を描いた育種家の落穂ひろい「豆の話」
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南米で和食を御馳走する

2020-04-23 13:47:23 | 南米で暮らす<歴史・文化・自然>

南米のレストランと言えば、アサード(焼肉)など肉料理を出す店が主体だが、海岸国チリでは魚料理を看板にしている店も多い。次いで、パスタやピザの店が多く、中華料理店は大抵どこの町でも見かける。一方、日本料理店の数は少ない。
だが近年、南米で和食が静かなブームになっている。日本料理には「栄養バランスに優れた健康的な食生活」のイメージが強いのだろう。肉や炭水化物を主食とする南米の食習慣は肥満や心臓病などを起こしやすく、健康寿命も短い。WHO(2018)によれば日本の健康寿命は世界2位75歳であるが、これに対しチリ32位70歳、アルゼンチン41位68歳、ブラジル78位66歳、パラグアイ89位65歳である(世界149国平均63歳。アフリカ諸国はさらに低く、貧困や医療水準が影響している)。
三十余年ぶりに訪れたブエノス・アイレスでは日本料理の看板をよく見かけた。「えっ? これが日本料理・・・」と言うような店も多いが、客は結構入っている。また、リブレリア(本屋)店頭に日本食レシピの本が並んでいる。手に取ってみると、大豆のレシピを紹介する本が多い。日本食材イコール大豆製品のイメージがあるのか、或いは南米の主要農産物となった大豆の利用促進を図る意図があるのか。南米の大豆は油糧作物として取引されているが、食品利用の道が拓ければ意義あることだ。
パラグアイで暮らした頃、大豆食品の価値を知ってもらおうとパラグアイの友人に度々大豆料理を振舞った。最初は興味津々ながら躊躇して箸をつけるが、多くの人が美味しいと喜んで食べた。その時、栄養がどうのこうのと蘊蓄を述べるのは野暮なので、冊子を発刊した経緯がある。思い出の一つである。

 

◇南米で豆腐をつくる
西語版7ページの冊子(写真)。著者はDr. Takehiko Tsuchiya y Lic. Mazae Sato、タイトルは「Manual Proceso de elaboracion del Queso de soja(豆腐の製造マニュアル)」、2003年刊。
豆腐の製造工程(材料、用具、洗浄、浸漬、粉砕、生呉を絞る、豆乳を温める、凝固剤を入れる、豆腐箱に流し込む、重しを載せる、など一連の工程)を、14枚の写真入りで説明。豆腐料理10品のレシピが付されている。
当時のパラグアイCRIA大豆研究室の仲間たちと一緒に、研修寮の台所を借りて豆腐作りに挑戦した時の記録である。美味しい「ケソ・デ・ソハ(Queso de soja、大豆チーズの意)」が出来上がった。早速、豆腐に醤油を一滴、冷奴で試食したら美味、好評だった。

 

 

◇大豆の栄養価と食べ方を紹介する
西語版64ページの冊子(写真)。著者はDr. Takehiko Tsuchiya、タイトルは「Soja - Sabrosa, Nutritiva, Saludable(大豆―美味しく、栄養があり、健康に良い)」、2007年刊。理解し易いように、本文には多数のカラー写真を付した。内容をご理解頂くために、序文、目次の概要を引用する。


*序文(抄訳)
・・・東アジアでは、大豆及び大豆製品が、栄養価の高い食品源として数世紀にわたって利用されて来ました。日本でも、大豆食品や調味料(豆腐、納豆、味噌、醤油など)が古くから利用されています。日本人が歴史的に享受してきた健康は、大豆によるところが大きいといえるのではないでしょうか。また、近年、食品の第三次機能に関する研究が進み、大豆が良質の蛋白質と脂質に富むだけでなく、血液中のコレステロールを減らし、血圧を下げ、脂質の酸化を抑え、成人病や老化防止に役立つ可能性があると注目されています。大豆、コメ、魚を中心とした日本型食生活の良さは、ガン、心臓病など栄養の過剰による問題に悩む欧米諸国の注目の的になっています。
・・・一方、大豆の蛋白質生産効率は多くの食品素材の中でも最も高いので、世界の人口が年間1億人ずつ増加し地球規模の食糧難が危惧される状況下で、大豆は近い将来の食糧難に備えて最も重要な食糧資源になるだろうと指摘されています。本書では、大豆の食品としての価値、豆腐と納豆などの作り方、美味しい料理の作り方を紹介します。パラグアイでは、毎年600万トンの大豆が生産され、ほとんどが油を絞るため海外へ輸出されますが、食品としての活用を図ることも是非進めてほしいと考えるからです。食品用大豆の開発、さらには機能性を高めた付加価値の高い大豆生産が、パラグアイ大豆生産、販売を有利に展開することになるだろうと確信するものです。
家の周辺に遺伝子組み換えでない大豆品種を有機栽培(或いは低農薬栽培)し食用に使えば、栄養補給と健康増進に役立ちます。有機栽培で生産された食用大豆を求めているヨーロッパや日本の消費者は、食用大豆が安定生産されるようになったパラグアイに熱い目を向けるでしょう。本書が健康を指向する多くの皆さんの参考になり、大豆を食べようという機運が高まれば幸いです。また、パラグアイの経済発展のために、大豆に付加価値をつけようと模索している方々が本書からヒントを見つけて下さることを期待します。
なお、本書のスペイン語訳は佐藤昌枝さんに負うところが大きく、日本食が大好きなAnibal Morel YurenkaやCRIAの仲間たちがスペイン語訳に協力してくれました。お礼申し上げます。また、日本食のレシピについては、佐藤昌枝さんとパラグアイへ一緒に来ている妻の韶子が考え、料理し、皆で試食しました。彼女たちの協力がなければ、本書は完成しなかったでしょう。

*目次
第1章 大豆の成分
1.大豆は良質な蛋白質源、必須アミノ酸を満遍なく含む
2.大豆の脂肪には、体に良いリノール酸がたっぷり
3.大豆の炭水化物は、食物繊維とオリゴ糖が主役
4.総合栄養剤のような大豆のビタミン・ミネラル
5.大豆成分の効果―第3の機能
*がんやエイズ抑制に期待される大豆サポニン
*レシチンは動脈硬化や痴呆を予防する
*更年期障害の予防、老化防止、骨粗しょう症に効果のイソフラボン
第2章 バラエテイに富んだ大豆食品
1.大豆食品は大ファミリー
2.大豆食品の代表選手、豆腐と納豆
3.種類が豊富な大豆食品
4.発酵食品の白眉、しょうゆと味噌
5.用途が広がる、大豆油と蛋白製品
第3章 家庭で出来る大豆の健康料理
1.豆腐の作り方とレシピ
2.納豆の作り方とレシピ
3.きな粉の作り方とレシピ
4.豆乳の作り方とレシピ
5.味噌の作り方とレシピ
6.枝豆、もやしの作り方とレシピ
引用文献

(写真はパラグアイの大豆製品、きな粉は除く)

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